2018年3月11日、驚くべきニュースが駆け巡った。ドイツに4つある大手電力会社のうちの2社が、業務の大再編の計画を発表したのだ。
ドイツで電気の自由化が決まったのは1998年のことだった。それまでの電力会社は半官半民。ドイツを4つの地域に分けて、4社の大手電力会社が電力供給を担っていた。日本で10の電力会社が、日本全土を手分けして担当してきたのと同じだ。
つまり、一昔前の電力会社は、ドイツも日本も、基本的には国家の強い規制下にあった。
電力事業には、発電、送電、販売の3つの部門が必要で、停電の危険を極力少なくするためには、いずれも多くの設備投資と万全な保全対策が必要となる。それには、もちろんコストがかかる。
また、原発を抱える電力会社なら、将来の廃炉のための資金も計上しなければならない。自由化前のドイツでは、それらすべてを各電力会社が一手に担っていた。
しかし、これらの投資は、利潤を求めることが株主に対する第一の義務となる民間企業には荷が重い。激しい競争を生き抜くため、経費節減を旨とすれば、電気の安全供給に支障が出る可能性もある。
そこで、エネルギー安全保障は国家の最優先事項であるという認識であった当時のドイツ政府は(日本政府も同じ)、この重大事を自由市場に委ねず、自ら手綱を取ったわけである。
ところが、90年代、電話通信の自由化が成功したドイツでは、政府が考えを変え、電力の自由化に踏み切った。おりしも、グローバリズムが大声で叫ばれていた時代である。
その結果、電力大手の発電、送電、販売部門は切り離され、別会社となった。そして、それまで大手4社が仕切っていた市場に、電気の販売会社が雨後の筍のように増え、顧客はその中から安い電気を選べるようになった。
ただ、振り返ってみれば、それらの多くはまもなく消えてしまった。そして、多くの顧客は昔ながらの大手の販売する電気に戻った。
なぜか? ほとんどの販売会社は発電や送電を自分たちでしているわけではなく、発電者から調達した電気を、送電会社を介して売り、帳簿上の差額を利益とする。そのため、無理な値段で電気を販売し、倒産する会社が続出したのだ。
また、携帯電話の契約などと同じように、1年目は安いが、2年目からは高くなるという販売会社も多かった。そのうち、結局、新会社と旧電力には、値段にあまり差がないということも分かった。
ドイツでは、電力の自由化が成功であったか、失敗であったかは、未だに結論が出ていない。