プロフェッショナルの“WILL”を引き出すには、時間軸を変えた質問を。コンサル時代のやり方を捨てた「任せる」マネジメント手法とは
「メンバーが自発的に動き、強みを発揮できる状態にするにはどうすれば……」
これは、組織を束ねる多くのマネージャーが抱える悩み。そして、もし自分が経験したことのない分野に長けているメンバーを束ねる立場になったとすれば、よりマネジメントの難易度は上がるでしょう。経営企画本部 企画統括部 IT戦略部 部長の成田敏博(なりた としひろ)も、まさに自分より専門性が高いメンバーを多く束ねる立場の1人。
ベストマネージャーとして2017年上期社長賞を受賞するほど、メンバーからの信頼が厚い成田が、「メンバーに任せる」マネジメントに“フルスイング”するために心がけていることや、具体的な手法論を語ります。
自分より専門性が高いメンバーをどうマネジメントするか?
メンバーに任せ、ハラオチした状態でプロジェクトを推進してもらう
――成田さんは前職でもマネージャー職に就いていたそうですが、その頃のマネジメントとDeNAでのマネジメントに違いはありますか?
成田:会社での現場経験の有無ですね。私は前職でIT系コンサルティング会社に新卒入社し12~3年ほど勤めていて、マネージャーになるまでに現場の仕事をひととおり経験しました。そのため、配下のメンバーがやっている作業をどう指導すればいいか、どのような話をすればいいかのノウハウが自分の中に蓄積されていたんです。
でもDeNAのIT戦略部では、メンバーが担っている業務を私は経験したことがありません。加えて、メンバーは各分野の専門性が高い人たちばかりです。
経営企画本部 企画統括部 IT戦略部 部長 成田敏博
ITコンサルティング会社で主に公共機関における業務改革・システム導入/運用業務に従事。2012年にDeNAに入社後、IT戦略部で全社会計システムの導入・運用、管理業務を担当。2016年10月から現職。ベストマネージャーとして2017年上期社長賞を受賞。
――自分が担った経験のない業務についてアドバイスするのは大変だと思うのですが、何を心がけていますか?
成田:私の方から「こうしたらいいんじゃないか」とアイデアを出すのではなく、プロジェクトをどう進めるべきかをメンバーに考えてもらったうえで、その意見をなるべく尊重することを心がけています。メンバーを信じるスタイルといいますか。
――なぜ、そのマネジメントスタイルになったのでしょうか?
成田:最初は細かく口出しをしていた頃もありましたが、マネジメントをするなかで、徐々にそういうスタイルに変わってきました。
もちろん、現場にいるメンバーがその業務についてのノウハウをたくさん持っているから、という理由は大きいです。しかしそれ以上に、プロジェクトを推進するメンバーがプロジェクトの推進方針についてハラオチしている方が、成功する確率が高くなるからですね。
メンバーのWillは“汲み取れない”。時間軸を変えた質問で引き出す
――メンバーにアサインする業務の内容は、どのようにして決めていますか?
成田:IT戦略部の各メンバーはとても優秀で、さまざまな強みを持っています。その強みを伸ばせるように仕事をアサインをするケースもありますし、場合によっては逆に弱みを克服してもらうためのアサインをするケースもあります。
その際に大事なのは本人のWillを尊重することです。それを無視してはメンバーの成長に結びつきづらいですし、場合によってはモチベーション低下の原因になってしまうケースすらあります。
――どうすれば、個人の持っているWillは汲み取れるのでしょうか?
成田:私は、どうやったら汲み取れるかは日々考えていますが、汲み取りきることは“できない”と思っています。1on1などで本人に直接聞くしかありません。けれど、ただヒアリングするだけではうまく引き出せないので、コツが必要になります。本人の持っている目線を変えてもらうことが重要なんです。今の自分が担っている作業領域だけではなく、より広い視野でものごとを見てもらうというか。
――目線を変えてもらうために、何をしていますか?
成田:すごく簡単かつ有効なのは、時間軸を変えることです。現在のことではなく、将来についての話をすること。1年後、3年後、もっと未来にどうなっていたいのか。そうすると、そのタイミングでどんな自分になりたいのか、目標を実現するには何が必要なのかを、本人が自然と考えてくれます。
先を見せる。半期ごとに部のミッションを明示
――メンバーの未来のみならず、組織の未来を作ることも、マネージャーである成田さんの重要な業務かと思います。どんな方法でミッションを考えていますか?
成田:会社から見たときに、IT戦略部というチームがどんな存在であるべきなのかを、まず考えます。その理想像と照らし合わせたとき、チームは今どのような状態であり、どの方向に向かうべきなのかを、具体的なミッションに落とし込む、という手順です。
――そのミッションをメンバーに伝える際のコツはありますか?
成田:1年間のうち上期と下期の開始時期に、ミッションをメンバーに伝えることが大事だと思っています。そうすることで、メンバーが目指してほしい方向性を明確に示すのです。そのタイミングで方針にブレがあるとメンバーが混乱してしまいますし、全員が同じ方向をうまく向けなくなる、と感じています。
――その考えに至ったのはなぜでしょうか?
成田:先のことを誰よりも早く考えて、それをメンバーに示していくことは、自分の最も重要な役割のひとつです。一方で、メンバーは日常的に目の前の作業に最大限注力しているため、やみくもにミッションを伝えても効果が薄くなってしまいます。
そのことをきちんと伝えるタイミングとして、部門目標を検討する期の開始時期が適切であると考えるようになりました。
上・横とつなぐ。会長や他部署、さらには他社とも
――他に、マネジメントで大切にしていることはありますか?
成田:上・横とつなぐことですかね。前者は上から降りてくる情報をできるだけ早いタイミングでメンバーへ共有すること、後者は他部署や他社との連携を積極的に持つことです。
前者については、私の上長や会長の南場智子さんなどにIT戦略部の部会に来ていただき、IT戦略部に期待していることや会社内での役割について話してもらう機会を設けました。
上の方々が考えていることをメンバーに理解してもらうためには、彼・彼女らの言葉を直接聞ける機会を作ることが非常に重要だと思っています。さらに言えば、それが上の方々に部署のことを知ってもらうきっかけにもなります。
――横をつなぐ(他部署や他社と連携する)ことも、メンバーの視野を広げるための施策ですか?
成田:そうですね。他部署にはどんな方々がいるのか、何を考えて仕事をしているのかを、IT戦略部のメンバーに知ってもらいたいです。せっかくスキルの高い社員がたくさんいるDeNAで働いているのに、出会う機会がないのはもったいないですから。
さらに、他社の同じような立場の人たちが何をしているかに触れることで、自分たちの取り組みを客観視する絶好の機会になると思っています。そのため、こうした機会をできるだけ多く提供していきたいです。
――成田さんは何をきっかけに、上と横をつなぐことを大切にしようと思ったのですか?
成田:メンバーに任せるタイプのマネジメントに変えてから、「では、自分でなければできないことは何だろう?」と考えるようになったんです。そうしたときに、上長や他部署・他社との連携は、立場的に僕でないとなかなか実現が難しいところがある。だからこそ、こういった施策を自分がやる意味があるのではないか、と思いました。
メンバーが主導した、業務効率化の仕組みづくり
――成田さんが先ほど話されていた「メンバーに任せ、ハラオチした状態でプロジェクトを推進してもらう」ことの具体例はありますか?
成田:長谷川さんが主導した、IT戦略部の業務を効率化する取り組みが良い例だと思います
従来、IT戦略部は残業が多い部門で、一時は恒常的に終電近くまで多くのメンバーが残業していることに課題感を感じていました。ワークライフバランスをうまくとれないメンバーも少なくなく、加えて昨今の労働時間適正化の動きもあり、なんとか改善していこうと考えたのです。
これを進めていく上で、長谷川さんが全体の旗振り役を担ってくれることになりました。
長谷川:IT戦略部のなかでも、最も長時間残業していたのは僕でした。抱えていたタスク量が多かったのもありますし、仕事への責任感が強すぎた部分もあったと思います。
会社としての方針や、自分自身が体の不調を感じ始めていたこともあり、「このままでは、自分もチームのメンバーも健康な状態で働き続けられなくなる」と考え、業務効率化のための取り組みを始めたんです。
経営企画本部 企画統括部 IT戦略部 システム開発グループ グループリーダー 長谷川淳2009年DeNA入社、IT戦略部で社内システム開発を担当。2017年1月から現職。
成田:長谷川さんがみんなの前で急に宣言したんですよ。IT戦略部の全員が集まる定例で、「健康的に働き続けるために、生活を変えます! 自分は今後、20時以降は残業しません。みんなもそうなってほしいです!」と言い放って。
長谷川:すみません。成田さんにも相談せずに宣言したんですよね(笑)。
成田:そうだったんだよね(笑)。そこから、すべてがスタートしました。
各メンバーが抱えているタスクを可視化し、属人性を剥がす
――どんな方法で、メンバーの業務効率化を図っていきましたか?
長谷川:まずは、メンバーの抱えているタスクを可視化することから始めました。「どんな作業をしているのか」「何にどれくらい時間がかかっていて、1日何時間働いているのか」「抱えているタスクの量は本当に適切なのか」を1on1で徹底的にヒアリングしたんです。そのうえで、他のメンバーに任せられる仕事を可能な限り引き継いでいく努力をしました。
――とはいえ、属人化した作業を他のメンバーに引き継ぐのは大変なことかと思います。どうやって実現したのですか?
長谷川:大切なのは、Aさんが抱えているタスクをBさんに引き継ぐ際、「必ずAさんが見ている状態でBさんが作業をすること」です。
――なぜ、一緒に作業することが大事なのでしょうか?
長谷川:どんな業務においても「習熟しすぎているが故に、Aさんが無意識のうちにやっている作業」が必ず存在するからです。スポーツ選手が何も意識しなくても正しいフォームで動けるのと同じですね。Aさんにとってはその作業が当たり前になりすぎているからこそ、他の人にとっては難易度が高いものであることに気付けないんです。
一緒に作業することで、Bさんがその作業の難しさに気づけるため、引継ぎの際に意識すべきこと、伝えておくべきことが明確になります。
どうしても退勤が遅くなる際は「事前申告」してもらう
――それ以外に、残業を減らすために取り組んだことはありますか?
長谷川:残業を「事前申告」にしました。20時以降の作業になりそうだったら、19時半までにSlackの特定のチャネルに残業する旨を書きこんでもらう運用にしたんです。もちろん単に申告すればいいだけなので、それによって残業が禁止になるわけではありません。でも、書き込むこと自体が心理的な抑止力になります。
▲勤怠申告用のSlackチャンネル。
本当にちょっとしたことなんですけど、この施策をスタートしてから残業が目に見えて減り始めました。
会議を短くするためのルールを定める
長谷川:それから、会議の時間を短くするため「IT戦略部の会議三原則」を定めました。
<IT戦略部の会議三原則>
・30分枠でおさめられないか常に検討すること
・日勤帯(9:30-18:00)の設定を心がけること
・予定時間の終了5分前に結論をまとめること
会議ってダラダラやってしまうと長時間労働の原因になるので、必要最小限の時間になるように工夫したんです。
――こういったさまざまな施策を実施して、チームの業務は効率化しましたか?
長谷川:そうですね。信じられないことに、チームの全員がその月から月40時間以上の残業がゼロになりました。あるメンバーから「長谷川さんのおかげで、良いワークライフバランスが取れる」と感謝の言葉を貰えたりして、嬉しかったですね。
――そこまで劇的に変わるものなんですね。
長谷川:自分自身も、それまでは「食べる、寝る、朝シャワーを浴びて出る」みたいな生活だったのが、きちんと妻と一緒に晩ご飯を食べられるようになって。「なんだか、幸せな家庭みたいだな。嬉しいな」と心から思えました。
成田:「みたい」というか、それは幸せな家庭ですよ、間違いなく(笑)。
――残業が減ったことにより、メンバーに時間・気持ちのゆとりができたかと思います。今後はどんなチームになっていくことを期待していますか?
成田:まずは何より、各メンバーのワークライフバランスが向上すること。加えて、社内のITサポートを行う立場として、より利用者の視点に立って自分たちの業務を見直す機会を作ったり、ITのスペシャリティを高めるために調査や勉強の時間を確保したりできれば、より会社への貢献度を増すことに繋がると考えています。
チームの文化を変え、メンバーが“フルスイング”できる環境をつくる
――今回のインタビューを総括して最後に聞きたいのですが、マネージャーがチームの文化を良い方向に変えていく醍醐味って、どういう部分にあるとお2人は思いますか?
長谷川:エンジニアって仕事が好きな人が多いので、どうしても作業に夢中になって長時間働いてしまう傾向があります。かつては僕もそうでした。
でも僕は、メンバーの気持ちが理解できるからこそ、なるべく長いスパンで仕事を続けてもらうために健全な働き方をしてほしかった。ちょっとおこがましい言い方をすると、目を覚ましてもらいたかったんです。そのために、自分を含めてチームの文化を変えられたことに、すごくやりがいを感じました。
――成田さんはどうでしょうか?
成田:IT戦略部の各メンバーは強みも弱みも持っており、専門性もそれぞれ異なっています。そんなメンバーたちが一丸となって結果を出していくには、何よりも「全員が働きやすい環境」を作っていくことが大事だと思うんですね。
その意味で、長谷川さんが主導してくれた業務効率化のための取り組みには大きな意味がありましたし、私もマネージャーとして全力で良いチームを作っていきたいと思います。メンバー1人ひとりが生き生きと働き、成果が出せたなら、それ以上の喜びはありません。
まとめ
自分より専門性が高いメンバーをマネジメントする秘訣
①メンバーに任せ、ハラオチした状態でプロジェクトを推進してもらう
②メンバーのWillを引き出す際、時間軸を変えて質問する
③先を見せる。半期ごとに部のミッションを明示
④上・横とつなぐ。会長や他部署、さらには他社とも
この記事はフルスイング by DeNAからの転載です『フルスイング』Facebookページはこちら