大手自動車ディーラーの営業職・A氏が言う。
「ウチの会社では、本社の新入社員には一定期間、販売の現場に立ってもらうのですが、帰国子女の新入社員がお客様とトラブルになることが少なくないんです。
去年、ウチの店に配属されてきたアメリカ帰りの女子社員は、何度か来店しながらなかなか購入の踏ん切りがつかなかったお客様に対して『何が不満なんですか?』と言い放ち、気分を損ねてしまった。
でも、彼女はあとになって注意しても『私が何か間違ったことを言いましたか?』と涼しい顔をしていました。彼女からすれば悪意はない。
でも、我々はお客様に車を買っていただく立場。どんなことでも『ご不明な点などございませんでしょうか』と、腰を低くして繰り返し説明をしていかなければいけません。
要は日本語が下手なんです。こういう言葉の微妙なニュアンスの違いをなかなか理解してくれないのは、困ったものです」
ここ10年ほどの間、日本企業のグローバル化が叫ばれ、英語力はもっとも重要視されるスキルとなり、帰国子女たちが採用市場で引く手あまただった。
「英語重視の方針はグローバル化を推進したい上層部からのトップダウンで示されるため、人事部としては会社の要求をクリアできない社員を採用すれば、自分たちの責任問題になる。なんとしてもクリアさせるべく、英語が堪能な学生を血眼になって探していました。
彼らは小さいころから『ディベート』の授業を受けているから、なまじ弁は立つ。採用時のグループディスカッションでも、物怖じせずに持論を展開し、周りの学生を圧倒して議論を有利に運ぶ。
そのうえ、有名大学を出ていて、TOEICの点数も900点台は当たり前ですから、トータルとして見栄えがいい。上に対するアピールとして、どうしても採用したくなってしまったものです」(大手商社採用担当B氏)
こうして、我先にと帰国子女を乱獲しまくってきた企業は、さぞかし社内の国際化が進んだのだろうと思いきや、採用担当者から聞こえてくるのは、帰国子女の能力に対する不満の声ばかり。いまや帰国子女を採用する流れはすっかり途絶えているという。
大手メーカーの採用担当者C氏が言う。
「だんだんわかってきたのは、帰国子女は、とにかく筆記試験に弱いということ。ウチは、インターネット上で行う足切り段階のWEBテストの他に、独自で一般常識が問われる筆記試験を行うのですが、彼らはここでビックリするような点数で落ちる。
小学校で習う算数が解けないとか、総理大臣の名前が書けないとか、そういうレベルの失点をする。
試験は英語との合算なので、最終的にクリアしてくる帰国子女もいますが、これでは慶應や早稲田レベルの大学を出ていても、何の能力の保証にもならない」
早稲田や慶應を出た人間が算数すら解けないというのは、耳を疑う話だが、これには理由がある。
「彼らは早稲田や慶應の中でも、英語の点数が有利に働くAO入試や、英語の配点が高い試験を実施している学部の出身者であることが多いのです。とりわけ、採用担当の間で『要注意』として有名なのが慶應SFC(湘南藤沢キャンパス)です」(前出・C氏)