この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年3月17日5時まではどなたでもご覧いただけます。
現在、幾つもの原子力発電所が、再稼働に向けて新規制基準にかかわる適合性審査を申請している。新基準に基づいて厳しい安全対策を施しているものの、万が一過酷事故が起こった場合どうなるのか。原子力開発の経験を持つ桜井氏が、過酷炉心損傷事故対応能力の重要性と緊急性について考察する。
日本の原発は、現実的な危機管理体制と人材が弱い。形式は整っているものの、効果的に機能しないのだ。少なくとも筆者が見る限り、過酷炉心損傷事故(SCDA)に対応できる政府レベル・事業者レベルの危機管理体制と、事故収束に対応できる高度な専門知識を有する人材が揃っていない。そのことは福島第一原発事故の混乱からもみてとれる1)。
しかも、事故後でさえ問題は改善されていない。原発の新規制基準は、あくまでハードウエア対策であり、電力会社の組織力や技術力などのソフト対策は、福島第一原発事故前のままである。
米国では、商業用軽水炉の運転を前にして、原子力委員会による原発災害研究がなされた。さらに、1970年代の世界の本格的な商業用軽水炉の運転に合わせ、「確率論的安全評価(PSA)」のような新しい手法などが展開された。日本でも同様な手法を導入したが、米国の一周遅れだった。
福島第一原発事故では、1~3号機がメルトダウン・メルトスルーしたが、東京電力が高度な過酷炉心損傷事故への対応能力を備えていたら、1号機はともかく、2、3号機は冷温停止に導けた可能性があった。本稿では米国の事例などからその点を考察する。