今回の論争が起きていることに関して、元保育士の飯沼健太郎さん(仮名、33才)は「もともとそういった要望は昔からあることで、たいていの男性保育士は保護者からそう言われてしまうことも覚悟しているはず」と語る。
飯沼さんには保育士として3才児を受け持っていた時、園長から「保護者からプールの授業のとき、女児の着替えはやめてほしいとの要望があった」と言われた経験がある。
「やはりいろいろな性犯罪が起きていますし、親御さんの気持ちもわかるので、まずは信頼関係をつくらなくちゃと思いました」
保育士の仕事は、長年女性の職域だったが、「男性ならでは」の保育もある。例えば体を動かすことは男性の方が得意なことが多く、ダイナミックな動きで子供たちを遊ばせることができる。しかし飯沼さんは、「保育士の業界では男性差別はけっこう多いんですよ」と寂し気に笑う。
「男性というだけで面接までいけないケースもありますし、施設内に“男性用のトイレがないから”という理由で採用されないこともある。また実際働くようになっても、着替えるスペースがないから、ピアノの裏とか物陰でさっと着替えたりという人もいますよ。ぼくの知人の男性保育士はトイレが男女兼用の職員トイレで用を足さなくちゃいけなくて、まあ、使いづらいじゃないですか。それでがまんすることが多くなって、仕事が終わるまで一日中トイレに行かなくても平気な体になった、と言っていました」(飯沼さん)
こういった悩みを抱いても、周囲に相談しづらい雰囲気もある。佐々井洋一さん(仮名、25才)の話だ。
「ぼくが勤めている保育園には、男性保育士はぼくしかいません。悩むことも多いですよ。例えば母子家庭の1才の子供の場合、男性と接する機会があまりないからか、ぼくに会うたびに泣いてしまうということがありました。何もしていないのに泣かれてしまうとやっぱり寂しい気持ちになるんですが、そんなとき相談したくても、周りには女性の先輩しかいません。
一般的な会社でしたら仕事帰りに同僚の女性と2人きりで食事や飲みに出掛けたりするかもしれませんが、ぼくはそうしないようにしていました。保護者の目がありますから、変な噂や誤解を招くような行動はできない。正直、ストレスはたまる一方ですね」
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