高齢化と人口減少が「空き家問題」を加速すると言われる。実際、戦後作られた多摩地域や埼玉県など郊外のニュータウンでは、すでに問題が顕在化しているところもある。そんな時代に、例外的に活力を増している団地があるという。練馬区の大泉学園町だ。何が起きているのか、現地を訪ねてみた。(写真・的野弘路)
現代ビジネスでは昨年、東京23区研究所(東京都渋谷区)と協力して、東京23区内の高齢化率(65歳以上の人口比率)を町丁別に割り出した(『「高齢者ホットスポット」の知られざる脅威』)。
その結果、高齢化率が高いエリアとして、北区の桐ヶ丘・赤羽台、足立区の花畑、板橋区の高島平など高度経済成長期に建てられた団地が上位に数多くランクインした。若い世代の流入がなく高齢化が過度に進んだこれらのエリアでは、街の活力が失われ、今後もさまざまな問題に直面することが予想される。
上の調査に伴い、不動産関係者に取材を続けているうち、気になるウワサを耳にした。戦前に開発された「大泉学園町」(練馬区)で、近ごろ若いファミリーが増えているというのだ。都心からの距離や規模感で見ると、高齢化率ランキング上位の桐ヶ丘、高島平とほぼ変わらない古い団地なのに、なぜだろうか。
大泉学園町は、関東大震災後の住宅需要を受けて、箱根土地(現在のプリンスホテル、西武鉄道グループ)が開発した住宅地。最寄りの西武池袋線(旧武蔵野鉄道)大泉学園駅も、この住宅開発に合わせて生まれた駅だ。
週刊マンガ雑誌のベテラン編集者はこう説明する。
「大泉学園駅といえば、東映動画スタジオ。日本初の長編カラーアニメ『白蛇伝』や『銀河鉄道999』を生み出したアニメの聖地です。池袋線の発車メロディも10年近く前に『999』に変わり、作者の松本零士先生も近所にお住まいなので、家を買うときに迷わず大泉学園を選んだ、というアニメファンも少なくないようです」
大泉学園は池袋までわずか15分という便の良さゆえ、近年、駅周辺に新築分譲マンションが増えている。
人工知能(AI)を活用した価格推定サービス『家いくら?』を使って、直近の相場を調べてみると、たとえば、北口直結のタワーマンション「プラウドタワー大泉学園」は、最上階の3LDK(76.06m2、2015年築)が6,951万円。こちらは商業施設「グランエミオ大泉学園」との複合再開発物件だ。
ほかにも、徒歩2分のタワーマンション「シティタワー大泉学園」の最上階3LDK(67.90m2、2010年築)が5,296万円。駅から徒歩10分、東映撮影所にほど近い大規模マンション「プラウドシティ大泉学園」は最上階の3LDK(74.08m2、2005年築)で4,305万円となっている。
これらはいずれも駅至近の都市型住宅。実は、冒頭で触れた、若いファミリーが増えている古い団地「大泉学園町」は、大泉学園駅からバスで10分ほど離れたところにあるのだ。
「交通の便が良くない郊外の団地は高齢化が進みやすい」という原則は、前出の高齢化率ランキングからも明らかだ。ところが、実際に訪ねてみた大泉学園町は、ウワサに違わず驚くべき様相を呈していた。