地下鉄サリン事件などオウム真理教が起こした一連の事件で、死刑判決が確定した13人の死刑囚のうち、7人について法務省は14日、東京拘置所から他の拘置所へ移送した。移送の狙いは何なのだろうか――
全文を読む
地下鉄サリン事件などオウム真理教が起こした一連の事件で、死刑判決が確定した13人の死刑囚のうち、7人について法務省は14日、東京拘置所から他の拘置所へ移送した。移送の狙いは何なのだろうか――
◇
1995年3月のオウム真理教による地下鉄サリン事件では13人が死亡、6000人以上が負傷した。社会を震かんさせたこの無差別テロ事件から来週で23年になる。
オウム真理教は1989年には被害者の会を組織していた坂本弁護士の一家殺害事件。1994年には長野県松本市の住宅街にサリンをまき、住民8人が死亡した松本サリン事件を引き起こした。1995年2月には目黒公証役場の事務長だった仮谷清志さんを拉致し、死亡させるなどした。
どの事件も社会に大きな影響を与えたが、こうしたオウム真理教の事件を巡っては192人が起訴され、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚ら13人の死刑が確定している。仮谷さん拉致事件の主導的役割を果たし、松本死刑囚の側近中の側近だった井上嘉浩死刑囚。地下鉄サリン事件など11の事件で殺人などに関与した新実智光死刑囚。松本死刑囚の主治医でサリンを生成するなどした中川智正死刑囚らがいる。この13人はこれまで全員、東京拘置所に収容されていた。ところが法務省は14日朝、このうち岡崎一明死刑囚、横山真人死刑囚、林泰男死刑囚、早川紀代秀死刑囚、井上死刑囚、新実死刑囚、中川死刑囚ら7人を東京拘置所から別の拘置所に移送した。
死刑を執行する場所というのは拘置所の中にあり、東京を含め全国に7か所ある。そのうちの仙台、名古屋、大阪、広島、福岡の5か所に7人が移送された。
Q:この後、死刑が執行されるということなのか?
そもそも法務省は死刑を執行前する前にいつ、どこで執行するかは公表していないので分からない。現段階では法務省は、今回の移送はあくまでも手続きの一環だとしている。死刑囚の親族がもっと面会しやすくなるように実家に近い拘置所へ移すことも考えられるそうだ。
Q:死刑をいつ執行するのかどういうふうに決められているのか?
刑事訴訟法では法相は判決確定から6か月以内に死刑執行を命じなければならないと定めている。だがそんなに早く執行されているケースはない。更に共犯者の裁判が続いていると執行しないのが通例なので、オウム事件で死刑は1件も行われて来なかった。ところが、高橋克也受刑者の裁判が今年1月に終わり、これで一連のオウム事件の全ての裁判が終結した。そのため、13人の死刑執行はいつあってもおかしくない状況だ。
ある法務関係者によると、死刑執行のタイミングは罪の重さや裁判で死刑が確定した日から経過している年月、再審の申し立てをしているかなど様々な条件で決められるとしている。
今回の事件でいうと松本死刑囚は13人のうち2番目に早く死刑が確定しているが、一連の事件を全て主導していることが明らかなことから、先に執行すべきではないかという議論もある。
Q:もし死刑が執行されたらどんな影響が考えられるのだろうか?
オウム事件に詳しい滝本太郎弁護士は、一つは死刑執行をきっかけにテロが起きる可能性。可能性は低いそうだが、監視する必要があるとしている。そして元信者らが後追い自殺する可能性。また、「教団の考え方では死ぬと殉教者とされるので、松本死刑囚だけでなく他の12人も殉教者となって神になる」などと考えるのではと指摘している。
一方で、国際社会からどう見られるかという点も考慮される可能性がある。今世界では140か国が死刑を実質的に廃止していて、国連は日本など死刑制度がある国に対し、「廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を行っている。こうした中で、日本が13人の死刑を一斉に執行するのは国際社会から非難される可能性もあり、こうしたことも考慮されるのでは、ということだ。
裁判員制度が始まり、国民も死刑判決に関わるようになった。14日の動きが死刑制度への賛否にかかわらず、死刑制度を知って議論を深めるきっかけになるかもしれない。
要約に戻る