ドルが「一番の敗者」に、米国の政治混乱で貿易戦争リスクが増大
Lananh Nguyenトランプ米政権の最近の人事交代劇を受け、米国が世界貿易戦争の口火を切る瞬間が近づいており、そうなれば大幅なドル安を招く可能性がある。少なくとも1人の投資家の目にはそう映っているようだ。
ティラーソン国務長官やコーン国家経済会議(NEC)委員長らの穏健派が政権を去ったことで、米国は保護主義色の強い政策にシフトするリスクが高まっていると、アムンディ・パイオニア・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、パレシュ・ウパダヤ氏は言う。
ウパダヤ氏は米国主導の貿易戦争が起こる確率が最大30%あると推測。その貿易戦争が重しとなってドルは対ユーロで2年以内に約12%下げ、1ユーロ=1.40ドルになると見込む。米国が貿易相手国、特に中国との関係を緊迫化させ、諸外国が米国の保護主義に対して報復措置を取った場合、投資家はドルを売り、円、スイス・フラン、ユーロに逃避する公算が大きいと指摘。株式も打撃を受けるはずだと述べた。
ウパダヤ氏はインタビューで「ドルが一番の敗者だ」とし、ホワイトハウスから「自由市場論者やグローバリズム支持者が一人、また一人と去っている。経済ナショナリズム支持者が台頭している」と指摘した。
ドルを圧迫しているのは貿易や政治だけではない。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は年初来で約3%下げた。これは、米当局に続いて他の金融当局も緩和策の縮小に動くとの観測を受けた2017年の9%近い下落に続くものだ。
ティラーソン・トレード
13日はティラーソン国務長官解任のニュースに反応してドルと米国株が売られた。トランプ大統領が鉄鋼とアルミへの輸入関税導入を明らかにしたことを受け、先週にはコーンNEC委員長が辞意を表明したばかり。14日の外国為替市場でドルは対円、対ユーロの両方で小動き。
ゴールドマン・サックス・グループのストラテジストはドル下落の要因として、米国の保護主義ばかりでなく、世界経済の改善や米国以外の金融引き締め見通しなどもっと広範な材料を指摘する。過去20年間に歴代大統領が取ったさまざまな行動は貿易戦争を引き起こすに至っておらず、今回のトランプ関税もその範囲を超えていないというのが同社の認識だ。
しかし、米国の政治は投資家心理を左右しているようだ。ニューヨークの分析会社ジオクオンツによると、2016年7月から記録されている米政治リスクの指標は今月、ピークに達した。
ケンブリッジ・グローバル・ペイメント(トロント)のカール・シャモッタ氏は、「為替トレーダーはドルから逃げ出している」とリポートで指摘。「これは心理の驚くべきシフトを裏付けている。ホワイトハウスの混乱を受け、ドルは従来の安全な逃避先という役割を失ったようで、円とスイス・フランが不安を抱く市場参加者の逃避先になっている」と続けた。
原題:Dollar Is ‘Big Loser’ as Political Turmoil Fuels Trade-War Risk(抜粋)