CRISPR/Casを使ったウイルス検査手法の開発を巡る熱いバトル

近年、研究者界隈で大きな話題になっているCRISPR/Cas。「核酸の認識と切断」からなるこの技術は、ゲノム編集に応用できるだけでなく、ウイルスを高感度で検出する手法に使えるのではないかと考えられています。

CRISPR (クリスパー)  究極の遺伝子編集技術の発見

CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

  • 著者ジェニファー・ダウドナ,サミュエル・スターンバーグ
  • 価格¥ 1,728(2018/03/14 22:08時点)
  • 出版日2017/10/04
  • 商品ランキング14,781位
  • 単行本333ページ
  • ISBN-104163907386
  • ISBN-139784163907383
  • 出版社文藝春秋

さて、CRISPR/Cas研究の第一人者として知られるJenifer Doudonaらのグループが「CRISPR/Cas12aが高精度のDNA検出ツールとして使える」と言うことを示した論文を発表しました (Science, 2018)。さらに、 DoudonaらとCRISPRの特許で争っているFeng Zhangらのグループも同じ号に「Cas13とCas12aとCsm6が核酸検出ツールとして使える」という論文を発表しています (Science, 2018)。

この辺りの争いについてもう少し詳しく書いていきます。

 

 

CRISPR/Casをウイルス検出に使うというアイディア

菌がウイルスに対して持つ自然界に存在する獲得免疫システム、それがCRISPR/Casです (CRISPR – WikipediaCell, 2018)。

つまりこのシステムをウイルスの検出ツールとして使うという発想自体は古くからあるものであり、実際マイクロアレイと組み合わせた論文が発表されていたりします(Appl Environ Microbiol, 2010) 。
ヒト細胞のゲノム編集にCRISPR/Casを使うというアイディアの特許は Jenifer DoudonaらとFeng Zhangらが争っていますが、簡便なウイルス検出技術にCRISPR/Casを使うと言う分野でも熱い戦いが繰り広げられています。

 

CRISPR/Casを使ってRNAウイルスを検出した

まずDoudnaらがRNAを切断する新たなCasタンパク質であるC2c2 (Cas13a) を発見し、これがRNAの編集やRNAの検出に使えると言う論文を発表しました (Nature, 2016)。そのわずか半年後、Feng ZhangらがRPA  (Recombinase Polymerase Amplification) というin vitro核酸増幅技術とC2c2 (Cas13a) 組み合わせたSHERLOCK法 (Specific High Sensitivity Enzymatic Reporter UnLOCKing) を開発しました。

この技術を使えばごくごく微量 (attomolar, 10^-18) のデングウイルスやジカウイルスが検出でき、CRISPR/Casの新たな応用可能性が示されました (Science, 2017)。

 

CRISPR/Casを使ってDNAウイルスを検出した

その更に数カ月後、 DoudnaらはCas12a (cpf1) というCasが1本鎖DNAを切断することを発見し、プレプリントサーバに発表しました (bioRxiv, 2017)。今回、Science誌に出た論文は、前述したSHERLOCK法とCas12aによる1本鎖DNAの切断とを発見を組み合わせることで、ヒトの検体からDNAウイルスであるヒトパピローマウイルスHPV16とHPV18を迅速に検出できたと報告しています(Science, 2018)。

Feng Zhangらも負けていません。同じ号のScienceに、プローブを蛍光多色標識することで複数のウイルスRNAを同時に検出する発展技術SHERLOCKv2を発表しました (Science, 2018)。Doudonaらのプレプリントを見たのかCas12aを利用した検出も論文には含まれています。

 

終わりに

こうして見ると「発見のJenifer Doudna」、「応用のFeng Zhang」と言う感じですね。ゲノム編集技術の開発でもまさに同じような争いが繰り広げられてきております。

CRISPR (クリスパー)  究極の遺伝子編集技術の発見

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  • 著者ジェニファー・ダウドナ,サミュエル・スターンバーグ
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  • 出版社文藝春秋

この分野に興味が出てきた人は、Jenifer Doudnaが書いた『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』という本を読むことを強くオススメします。人間によるゲノム編集の歴史、CRISPR/Casの発見とその応用、さらにCRISPRがどのように人類の未来を変えうるかドラマチックに書かれていてとても面白かったです。個人的には特許を巡る争いでの牽制球を兼ねているのかな、と思いました。

ウイルス診断技術でも争っていることを知って、ますますCRISPR/Casから目が離せそうにありません

 

参考文献

CRISPR-Cpf1によるPAMの寛容な認識機構 : ライフサイエンス 新着論文レビュー

4月16日:CRISPRは検査にも使える(Scienceオンライン版掲載論文) | AASJホームページ

 

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