日本を代表するアニメ作品ドラえもん。その映画となればほとんどの人が小さいときに一度はみたことあるんじゃないでしょうか。僕も子どものころはテレビでやってたり、レンタルしたのを夢中になってドラ映画をみていました。
数あるドラ映画の中でも僕が一番好きなのは、『ドラえもんのび太のブリキの迷宮(ラビリンス)』です。
謎のブリキンホテル、不気味な大迷宮、いつも頼りになるドラえもんの不在。ハラハラとドキドキがつまった脚本は、大人になった今みてもその面白さは色あせていません。
特に印象に残るのが、映画のラスボス、ナポギストラー博士です。
見かけは東条英機、名前はナポレオン、チンギスハーン、ヒトラーを組み合わせた正に独裁者の鑑みたいなロボットです。出番こそ少ないものの、ドラえもんを拷問したり、人類殲滅を企む悪役ぶりに子どもの僕としては非常に恐ろしい存在でした。
しかし、最近この映画を見直してみると、子どもの頃とは違った印象を受けました。「あれこれっておかしくないか?」「え、本当にそうなの?」そうしたちょっとしたひっかかりが積み重なった結果、一つの疑問が僕の中ででました。というのは
ナポギストラー博士って本当に悪人(悪ロボット)なのか?ということです。
映画のなかで、ドラえもんはいつだって正義で、相手は悪い奴っていうのがお約束です。しかし何度考えても僕にはこの疑問が氷解することはなかったのです。
というわけで、今回はこのナポギストラーの功と罪についてちょっと考察してみたいと思います。
1、残酷すぎるラスト
まずはおさらいとして映画のあらすじをみてみましょう。長いので大体ストーリーを覚えてる人はすっとばしても構いません。
こうしてナポギストラー1世との対決にいどむドラたちですが、そのクライマックスは歴代ドラ映画の中でもトップクラスに残酷な結末を迎えます。とはいえバッドエンドというわけではありません。ある日の真夜中、酔っ払って寝ぼけたのび太のパパ・のび助がスキーと海水浴が同時に楽しめるというブリキンホテルに部屋を予約する。その話を聞き、春休みはどこにも旅行に行けないと諦めていたのび太は大喜びし、みんなにも自慢してしまう。しかし、それがパパの夢だと知ると、すっかり落胆してしまう。ところが、翌日、野比家の玄関に見知らぬトランクが置かれていた。トランクから出現した門を抜けると、そこはブリキンホテルの建つブリキのおもちゃの島、ブリキン島であった。
ホテルの人々に手厚くもてなされ、のび太とドラえもんは島で遊んでいたが、やがてのび太がわがままを言い出す。ドラえもんは渋々ひみつ道具を 出して説明を始めるが、のび太はそれをろくに聞きかずに操作を始めてしまう。暴走した道具によって、のび太はその場から猛スピードで走り出し、行方をくら ましてしまう。呆れ果てたドラえもんは「未来へ帰る」と叫ぶものの、しばらくしてのび太の捜索を開始する。しかし、突如として現れた謎の飛行船から電撃を受けた彼は、そのままさらわれてしまう。
ひみつ道具の暴走から開放されたのび太は、ドラえもんの「未来へ帰る」という発言を思い出し、本当に怒って帰ってしまったのではないかと不安になり ながらホテルに戻る。そして「決して入るな」と言われた地下室にうっかり足を運んでしまう。そこには物々しい声を発する不気味な扉があり、すっかり気味が 悪くなった彼は、二度と島へは訪れないと心に決めてトランクを仕舞い込むのであった。
それから3日が過ぎるがドラえもんは姿を見せない。ジャイアンとスネ夫は旅行の話はのび太の口からの出任せと決めつけ、糾弾しようとする。一方で静 香はそんなのび太を庇い、ドラえもんがついているから大丈夫とふたりの言う無茶な賭けに乗ってしまう。彼女に迷惑を掛けられないと思ったのび太は、三人を ブリキンホテルへ招待することを決める。
ブリキン島をすっかり満喫した一行であったが、突如ブリキンホテルが襲撃を受ける。ジャイアンの活躍で追い払うことができるが、そこでドラえもんが 連れ去られた事実を知らされることとなる。4人がドラえもんの救出を決意した矢先、突如ブリキン島が動き出す。なんと島そのものが大型の宇宙船だったのである。
ブリキンホテルの主(主代理)である少年サピオがのび太たちの前に現れた。彼はチャモチャ星からやって来た宇宙人で、ドラえもんを連れ去ったのは彼を追ってきたチャモチャ星のロボット軍隊だというのだ。のび太たちはドラえもんを助けるため、そしてチャモチャ星の危機を救うため、星を支配する独裁者ナポギストラーに挑むのだった。(Wikipediaより)
映画のラストバトルで、ドラえもんとのび太は、サピオの父が作ったコンピュータウィルスをナポギストラーに感染させ、全ロボットにそれを伝染させてロボットたちを皆殺しにします。本当に皆殺しです。ロボットの国には民間ロボットや非戦闘員もいたのに、容赦なく全部故障させてしまいました。
「いーとーまきまき」とコメディちっくに描かれていますが、要はドラえもんたちは、極めて感染力の高い生物兵器を用いて一つの国にパンデミックを起こし、ロボット民族を鏖殺したのです。ドラえもんたちにそこまでさせるナポギストラーとは一体どんな悪人だったのか。
ドラたちが相手勢力を皆殺しにすることは滅多にありません。相手を殺すこと自体は実は結構あるんですが、大抵は親玉だけを殺したたら部下は力を失って、あとはほったらかしにすることが多いです。(パラレル西遊記、魔界大冒険など)
ここでナポギストラーとの比較のためにドラ映画にでてくる他の敵役を見てみましょう。その属性は大きくわけて①侵略者、②犯罪者、③クーデターの首謀者の3パターンあり、その決着は⑴降参、⑵逮捕、⑶討伐、⑷和解の4パターンです。(もちろんそれぞれ重複することもありますし、特殊パターンもあります)
今回は概観をみるだけなので、僕が視聴したことのある映画だけを表にしました。さてどうでしょうか。
(追記)大魔境のブルススはダブランダーの誤字。
とりあえず私利私欲による犯罪者と侵略者は、悪人と考えても良いでしょう。もちろん中にはある程度、正当性のある侵略もありますが、その場合には大抵ドラは彼らと和解しています。(恐竜人、天上人、昆虫人など)
クーデターの場合も同様です。大魔境のダブランダーや太陽王伝説の魔女レディナなど、手前勝手な理由で平和な社会を揺るがす存在は、映画の悪役とするには申し分ないでしょう。
2、ナポギストラー1世の革命
しかし、ナポギストラーは上記の悪役たちとはちょっと違うのです。ナポギストラーが行ったのは侵略でも、私利私欲だけに基づく犯罪でもない。上の表ではクーデターという言葉を使いましたが、ナポギストラーが行ったのは、革命と言った方が正確だと思います。
ここで再確認します。ナポギストラーが生まれたチャモチャ星は社会のほとんどをロボットに依存する超ロボット社会です。人間は生産と労働のすべて、ついには自分たちの生命活動すらロボット任せにしていました。
ナポギストラーが行ったのは、そんな国で人間の支配を受けていたロボットたちを率いて、怠惰な人間を放逐し、ロボットに主権を与える。これこそ正に革命ではありませんか。今まで人間に服従していたロボットを、人間に対する支配者にした。それこそがナポギストラーの業績です。
彼がいかなる理由で人間支配を覆したのかはわかりません。もしかしたら単に功名心や出世欲といったものが動機だった可能性もあります(町中には彼を讃える看板が設置されていました)。しかしそれでもなお、結果だけみると彼の興したロボット帝国はロボットにとって非常に住みやすい場所だということはよくわかります。
栄える都市
ロボットたちはテレビまで楽しんでいる。
例えば同じようにクーデターを起こし、星の実権を手に入れた小宇宙戦争の独裁者ギルモア。彼が支配するピリカ星は監視が厳しく荒廃したディストピアです。
荒れ果てた町並み
国民は常にピシアに監視されている。
チャモチャ星の豊かさとロボットたちの自由を謳歌する様子をみれば、同じ独裁者といえど、ナポギストラーはギルモアとは比較にならないほど政治手腕をもっていることが伺えます。
ナポギストラーは、ロボットたちを支配し労働どころか自分で動きさえしない人間に代わり、勤勉に働くロボットたちだけの王国を作った。果たしてこれが悪だと言えるでしょうか? ドラえもんたちはこんな素晴らしい国をウイルス兵器で滅ぼしてしまったのです。悪はどっちだ!?
3、人間とロボットの内紛
しかしこれまでの意見に対してこう考える人もいるでしょう。
「その国が素晴らしいのはロボットにとってだけだ。ナポギストラーは人類の滅亡を企んでいたではないか」
「ロボット兵団はドラえもんに拷問をして、故障させてしまった。これは悪だと思う」
「ナポギストラーは人間との共存を拒むロボット主義者だ」
確かに、それら一つ一つを見るとナポギストラーの闇の面が見えてきます。しかしそれを踏まえてもなお、僕はナポギストラーの正当性を主張せずにはいられないのです。
さて、ここで一人の人物を紹介します。
サピオの父親、ガリオン・ブリーキン侯爵です。
ドラ映画史上まれにみるキチガイです。
彼は、人類の中でいち早くロボットに依存しすぎることの危険性とナポギストラーの反乱に気づいていました。彼はそのことをチャモチャ星の王様に直談判しますが、無下にされてしまいます。
そこで侯爵は一計を案じました。何と、国中の全てのロボットを破壊するコンピュータウイルスの開発に着手し、実際に完成させてしまったのです。
こんなものマッドサイエンティストもいいところです。例えるなら「原発が人間に害をなす」といって、原発を破壊するためのミサイルを開発するとか、あるいは「パソコンが人間を堕落させる」と主張して一国のコンピュータをすべて故障させるウイルスを作るようなものです。
繰り返しになりますがチャモチャ星はその社会も経済も、人間の生命維持ですらロボットに依存する社会です。そんな国に対して、わずか数時間でロボットの機能をすべて破壊してしまったらどうなるか? 想像するだに恐ろしい死屍累々たる有様になるでしょう。というか真っ先に侯爵の息子サピオが死ぬような気がするんですが。
劇場内ではナポギストラーの革命成功後にウイルスが使用されたので、その存在も人々に許容されていました。しかしそれでも国王は「わしらはすべてを失ってしまった。おしまいじゃ……」と落胆しています。それも当然。しつこいようですが、チャモチャ星はロボットによって成り立つ国。ロボットが停止すれば文明の全ては塵芥と化します。
しかしこのガリオン・ブリーキン侯爵は落ち込む国王に向けてこういいます。「おしまいではありません。始まりですよ。もともと人類は洞窟に住み、石器を使いながら文明を築いてきたのです。やりなおしましょう。機械に頼らず、人間が人間らしく生きていける社会を作りましょう」
なるほど、一理なくもありません。ナポギストラーによって覆された国家を人間の手に取り戻すためには、一度ロボットをすべて取り除かなければないというのも確かに一つの現実です。本当は戦闘ロボットだけを排除できればいいのですが、イメコンを通じてロボットたちは一つに繋がっているので、民間ロボット虐殺もやむをえないことなのかもしれません。
けれど、この人がもしナポギストラーの革命以前にこのウイルスを使っていたと考えれば、その異常性に気づくのではないでしょうか。
ブリーキン侯爵は、このコンピュータウイルスを作っているときこう考えていたことでしょう。
「ロボットに依存しすぎている今の社会は狂っている。そんなことだからナポギストラーのようなのが現れるのだ。こうなったらロボットをすべて破壊して、ほら穴に暮らす原始社会に戻るしかない!」
ポルポトか何かですかね。
もちろんガリオン・ブリーキン侯爵がこのウイルスをナポギストラーとの交渉のカードにしたり、革命が成功してしまった際の最後の切り札と想定していたのかもしれませんが、それにしても効果が大きすぎる。私たちでいえば日本という国に住む人間を数時間以内に皆殺しにできる殺人ウイルスですからね。その脅威性は原子力ミサイルの比ではありません。
そもそも上にあげたような使い方は現実味が薄いです。もし革命前に「ナポギストラーよ、こっちにはこんなウイルスがあるんだ。使われたくなかったらクーデターを起こすのをやめろ」と言ったらどうなるか。ナポギストラーは王様にそのことを告げ、ガリオン・ブリーキン侯爵は一国を滅ぼす兵器を勝手に作った危険人物として逮捕待ったなしです。革命後では今度はナポギストラーに近づくことができなくなります。ナポギストラーは既に侯爵が開発している兵器の存在を薄々と知っていた。ロボット政権のアキレス腱である自分を守るためにあらゆる手段を用いるでしょう。映画で感染させることができたのは、あくまでドラえもんというイレギュラーのおかげです。
侯爵は一応は使用に際して王様の許可をとろうとしていますが、許可が降りる可能性は完全にゼロです。その場で逮捕されてくれればいいのですが、もしお人好しの王様がブリーキン侯爵を逃してしまったら、彼はその後どうするでしょうか。誰に相談するでもなく一国を滅ぼすウイルス兵器を作ってしまう人です。無許可でナポギストラーにこのウイルスを使っていた可能性は高いでしょう。紛れもないテロリストですね。そうでなくとも、こんな強力すぎるウイルス兵器をもっていること自体、ナポギストラーを刺激しないはずがないんです。
ところでナポギストラーは当初の計画ではクーデターを成功させた暁に、人間をどうしようと考えていたのでしょうか? ナポギストラーが最初から人間を見下していたのは恐らく間違いないでしょう。ロボットに社会の運営のすべてを任せ、自分で歩くことすらできなくなった人間は、ナポギストラーにとって下等な存在でしかなかったはずです。しかし本当にだからといってナポギストラーが最初から人間を皆殺しにしようとまで思っていたのでしょうか?
ここからは少し想像の話になりますが、ナポギストラーがガリオン・ブリーキン侯爵のロボット抹殺兵器の存在を知ったとき、彼はどんな想いを抱いたのでしょうか?
「我々ロボットは、今まで散々人間のために働いてきたのに、人間ときたら、すこし自分たちの地位が脅かされようとしただけで、我々を皆殺しにしようとしている……こんな人間どもに生きる価値があるのか?」
もちろんこれはただの想像です。しかし普通に考えればガリオン・ブリーキン侯爵の裏切りを知った瞬間、ナポギストラーは人類の絶滅を決心したことでしょう。さもなければ自分たちが絶滅させられてしまうから……。
そう考えればあの残酷なドラえもんへの拷問も許容されなければなりません。なんといっても自分たちロボットを滅亡させる兵器が、まだ敵の手にあるのですから。彼にとってそんな恐ろしいことはありません。それこそ何人、何千人殺そうが速やかにその兵器を破壊しなければと考えるでしょう。
皇帝であるナポギストラーには自国民をまもる義務があります。のび太たちはチャモチャ星とは何も関係ない人間ではあったのですが、ロボットたちにとっては関係ありません。いちいち確認をとる暇すらもったいないくらいに差し迫った状況であったのだから。事実、のび太たちはそのウイルス兵器を使ってロボットたちを殲滅しました。
僕はこういいたい。
ナポギストラーが人類との共存を拒んだ? 違います。先に共存を拒んだのは人間の方です。
ナポギストラーは人類を滅亡させる悪? 違います。先にジェノサイドを企んだのは人間の方です。
ドラえもんたちは劇中、サピオの「ありがとうみなさん、チャモチャ星のためにこんなにまでして」という言葉に対して、
「僕たちはただの……正義の味方です!(一同爆笑)」
なんて恥ずかしげもなくいっています。彼らはこのように無邪気に笑いながらロボットたちを民族浄化してしまいました。相手はたかが機械なんて言い訳が通用しないことは言うまでもありません。
ウイルスという卑劣な生物兵器を用いて無抵抗のロボットたちまで殺す非道を許すサピオたちは本当に正義なのか? 僕には疑問です。というかサピオはのび太たちを誘拐してむりやり命がけの戦争に巻き込むとか、頭おかしいんでしょうか。
いずれにせよこの映画で描かれている戦いは、人間とロボットの対等な戦争です。そこには正義も悪もない。ナポギストラーだけを取り上げて悪と糾弾することはできないはずです。
まとめ
•ナポギストラーが起こしたのは被支配者を解放する正当な革命であった。
•先に人間とロボットの共存を拒んだのは人間サイドである。
•人間もロボットも対等に戦った内紛であった。どちらかを悪とはいえない。
記事にある通り、僕はナポギストラーの行為は侵略ではないと考えています。侵略とはある勢力が別の勢力の土地や主権を一方的に奪う行為をいいます。現実の世界でいうと日本や中国の場合、自らの土地や主権を行使するときに、互いの権利は衝突しません。にも拘らず片方がもう片方の土地や主権を犯した場合は侵略が成り立ちます。しかしチャモチャ星では人間とロボットは同じ土地に生きています。人間が主権を行使しようとするとロボットの主権を犯すことになり、ロボットが自立しようとすると人間の主権を犯すことになります。
人間とロボットを、貴族と農奴に置き換えてみてください。農奴と貴族は同じ土地に住みながら農奴はただ働き続け、一方で貴族は遊びほうけている。そんな国で農奴が蜂起して貴族を駆逐したという構造です。ナポギストラーが生まれる前から人間はロボットの主権を侵害していたのです。これに対してナポギストラーが人間の主権を侵害しかえしたからといって絶対的な悪とはいえないでしょう。
ウイルス兵器に関しても悪手としかいいようがありません。再三繰り返していますが、チャモチャ星にとってロボットは絶対に必要な生活基盤なんです。それを皆殺しにするなんて絶対にありえない。チャモチャ星はブリーキン侯爵がロボットを全て破壊してしまったせいで原始時代に戻ってしまいました。映画ではハッピーエンドで終わっていましたがロボットに依存していたチャモチャ星の医療、食料生産、教育、治安維持も壊滅し、大量の餓死者、病死者、社会混乱が起きるのは確実です。それまで国民総ニートやってたヤツらが過酷な原始社会に耐えられるはずもない。普通の映画であれば社会が安定するまでドラえもんに頼ることもできるでしょうが、チャモチャ星の場合はそれもできません。ロボットを捨てて最初に戻ろうとしているのにドラえもん(ロボット)に頼ってたら結局同じことだからです。
そもそも人間サイドにとってロボットの皆殺しは必要なことじゃなかったんですよ。ウイルスはナポギストラーを再び人間に従順にさせるもので良かった。イメコンがある以上、ナポギストラーのコントロールさえ掌握してしまえば国内のロボットのコントロールをすべて握れるんですから。それかナポギストラー単体を破壊するウイルスで良かった。映画で使われたウイルスはイメコンを通じて国内のロボットに感染させるといってるので、その行程を省くだけなら技術的にも可能なはずです。ちゃんと勝ち筋はあるんです。わざわざ国内のロボットをすべて破壊する必要はありません。
振り返ってみると、ここに作者の何かしらの主張や命題がある気がしてなりません。
個人的には作者のロボットの対する期待の限界を示した物か、アンチテーゼではないかと思っています。
ロボットは発展すれば、便利なのは勿論、友達であり信用できる相棒になった。しかし、人から見てそのロボットはいつまで経っても所詮はペットのような存在。いくら家族とは言っても自分の子どもと比べると所詮はペットの位置づけ。
例えば映画などで、人が自己犠牲をしてでも守りたいような家族や親族、車に引かれそう子どもを自己犠牲で助けるシーンがあります。しかし、その対象がロボットになることは非常に稀です。ロボットはいくら貢献してもペットの立ち位置よりも上、場合によっては人よりも上位の存在にはなれない。何かこんな事を思ったりしました。
ナポギストラーのその意見には、確かに人間以外からの視点ならそう思っていてもおかしくないだろうなと自分も人間ながら少し納得させられてしまっただけに、映画でそれが削除されてしまったのは、ナポギストラーの言動の正当性?が損なわれてしまった感じはあります。
それでもナポギストラーは悪役ではないとは言えないと思います。
劇中の人間収容所でのロボットの会話に「そろそろ処分が決まる」という台詞がありました。ラストの人間収容所爆撃は、自分達が滅ぼされるかも知れないから、とかぼちゃ丸さんが書いている通りに解釈することもできます。
しかし、その前のシーンでは、人間達のほとんどは収容所に入れられているため、自分達に危害が加わることはほぼないはずです。それなのに「そろそろ処分が決まる」と言うのは、やはり最初から人間を絶滅させようと考えていたからこそではないでしょうか。
ちなみに話は変わりますが、大魔境の悪役はダブランダーですよ。ブルススはむしろペコの忠臣だったはずです。
息子「専制政治の罪とは人民が政治の失敗を他人のせいにできる、という点に尽きるのです。その罪の大きさに比べれば、百人の名君の善政の功も小さなものです」
要は、そういう事。
もう一度、あの星の人たちがやり直すためには、独裁(=人類が怠ける為の)システム=ロボットは全て滅ぼさなくちゃいけなかった。だから、石器時代からやり直すという、希望に満ちた地獄があの人たちには待ってる。
主人公絶対正義、敵役絶対悪の勧善懲悪なんて幼稚な描き方は、藤子・F・不二雄先生は、絶対にしない。