全員抜いてやる!「トップ・オブ・トップ」になることを決意した瞬間 〜ユーチューバー・HIKAKINさんインタビュー【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・ 僕の夢とお金 / HIKAKIN

動画共有サイトYouTubeに投稿し、広告収入を得る「ユーチューバー」。小中学生のなりたい職業ランキング上位に登場し、いまやタレント並みの人気を誇る存在です。今回は、日本のユーチューバーの第一人者であり、チャンネル総登録者数1100万人を誇るトップユーチューバーのHIKAKINさんに、「プロの仕事とお金」について伺いました。
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憎しみがわくほどの挫折を経験

――前回は、HIKAKINさんがユーチューバーを目指したきっかけを伺いました。当時はすでにビートボックスの動画で有名になっていたわけですが、「ユーチューバーを仕事にする」という目標はすぐにかなったのですか?

アメリカのYouTubeパートナー、ミシェル・ファンさんの講演に感銘を受け、「僕もYouTubeを突き詰めて、仕事にしたい!」とテンションが上がりまくったところで、チャンスがやって来ました。2011年に行われた、「YouTube NextUp」プログラムという動画コンテストです。

僕のチャンネル登録者数は日本人でトップクラスだったし、応募した動画の再生回数もかなり上位にいました。受かるのは10組で、賞金が200万円。「これで会社を辞めて、YouTubeに専念できる!」と、結構自信を持ってコンテストに挑みました。周囲からも、「まあ、HIKAKINは大丈夫でしょ」と言われていましたし。

それが、ふたを開けてみたら10組の中に、僕は入ってない。
まさかの落選です。

あの悔しさって、なんというか……。悶絶しながら、憎しみみたいのがわいてくるんですよ。特定の誰かへの憎しみじゃない。「ここにいる全員、抜いてやる! 僕は違う次元に行くんだ!」という、漠然とした怒りみたいなもの。めちゃくちゃ燃えたし、あのエネルギーはかなり長持ちしましたね。

――そこから、どういう行動に出たんですか。

YouTubeの社員で、ユーチューバーへのアドバイザー的な仕事をされていた佐藤友浩さんに、相談に行きました。そこで、動画作りの基本をまとめたハンドブックをもらい、個別にもたくさんアドバイスをいただいて。自分でも国内外のトップクリエイターの動画を研究して、タイトルやサムネイル、リンクの貼り方など、編集スキルをまねしていきました。

――ハンドブックや他のユーチューバーをまねることに、躊躇はなかった?

なかったですね。ビートボックスだって、最初はトップのビートボクサーのまねでしたから。なんでもそうですが、いきなり「自分らしさ」を出そうとしても、無理です。

何かを始めるときは、まず業界のトップ・オブ・トップを研究し尽くす。自伝を買うとか、野球だったらその選手のフォームをひたすら見るとか。そしてそのまま、まねてみる。何度もまねしていくうちに、「自分だったらこっちが合う」「もっとこうしよう」とか、少しずつ見えてくるのだと思います。

そのころも、とにかく基本を実践して、トップクリエイターのまねをして、寝る間を惜しんで動画作りに励みました。そうやって3ヵ月くらい経って、気がついたらYouTubeからの収入が、会社員の給料を超えていたんです。

トップになるために「幅」を広げる

――ユーチュバーを仕事にする上で、欠かせなかったのが視聴者の幅を広げること。当時、ビートボックスの動画投稿が中心だった「HIKAKIN」チャンネルから、商品紹介などを中心とした「HikakinTV」へと、活動内容を変えていきます。

ビートボックスは大好きですが、ユーチューバーのトップを目指す中で、これだけをやっていては長続きしないと思うようになりました。ビートボックスって基本、「この音、本当に人間が出してるの?」という驚きの目で見られます。「カッコイイ、すごい!」と感動してくれるファンもたくさんいますが、これだけで食べていくには、やっぱり難しいと感じました。

安定して長く仕事を続けるには、音楽業界だったら歌って踊れる人。テレビならバラエティで司会ができるとか、トーク力がある人。ユーチューバーもそういう“幅”がないと、仕事にするのは難しい。

YouTubeの佐藤さんから、「オリジナルコンテンツを増やそう」とアドバイスいただいたのも大きかったですね。ビートボックス動画でヒットするのは、有名な楽曲のカバーがほとんど。でもそれだと収益化ができないので、きちんと広告を集められるオリジナルコンテンツを増やすことが必要と教えてもらったのです。

そこで2011年から商品紹介を始めて、ビートボックスだけじゃない、ブロガー的なユーチューバーを目指しました。

――これ、商品紹介を始めたばかりのころですよね。ビートボックスをしながら、間にピルクルの紹介が……。ちょっと中途半端な気がするんですけど(笑)。

★ピルクルの紹介(2011年7月)

わー、やばい! 黒歴史レベルですよ(笑)。
これには一応理由があって……。ビートボックスをずっと見てくれていたファンの中には、「他のことをやり始めた」とがっかりする人もいるじゃないですか。なので、いきなり商品紹介だけの動画にしないで、徐々に移行していったんです。

――その後、少し経ってからの商品紹介がこれです。

★自動販売機のおもちゃ紹介(2012年3月)

これも、恥ずかしー! 英語、超ヘタだし。
でも案外、当時としてはベストを尽くしてる。苦手な英語をなんとか使おうとして。

――海外にも視聴者を広げようとした?

いやいや、逆です。もともと僕のビートボックスは、海外のファンが多かった。音が中心なので言語の壁がなく、アクセスでいうと9割くらいが海外からでした。でも身近なネタを扱うブロガー的な動画だと、日本語なので海外の方から「わからない」と不満が出てしまいます。

なので、しばらくは「英語圏のファンのことも忘れていませんよ」というメッセージとして、英語の解説も入れていたんです。そこから徐々に国内のファン向けに特化していったんですけど、急激に変えることはしませんでした。

挫折したから、今がある

――過去の動画を追って見ていくと、HIKAKINさんがいかに進化を続けているかが、わかりますね。

案外ゆっくりですよ。視聴者の反応を見ながら、盛り上げ方や編集を少しずつ変えているので。自分自身、学びながらです。どこかで急に変わったとか、やり方を理解したとかいうわけではありません。6年間かけて、日々コツコツと、できることを改善してきました。

実はテロップをがっつり入れたのも、2017年の夏ごろからですし。テロップってすごい手間がかかるんですよ。3分の動画でも、全部入れると編集作業に3時間くらいかかる。だから迷ったんですけど、やっぱり入れると盛り上がるなと思って。

★最近の動画・激辛ヌードル辛さ108倍にして食べたら頭おかしくなったwww

――2012年の動画と比べると、テンションが全然違う。

初期の動画は、完全に素ですもんね(笑)。いまはカメラの前だと切り替えて、テンションを上げられます。やっぱりこういうのも、日々、視聴者の反応を見ながら少しずつ覚えていったんです。喜んでもらえたり、面白いと言われるとうれしいので、そっちにシフトしながら変えていきました。

――ビートボックスにこだわり過ぎず、スタイルを変えられたのは、最初にコンテストで落選した悔しさがあったから?

そうですね。僕はビートボックスが大好きで誰よりも練習したし、自信もあった。でも、それだけじゃ仕事にするのは難しいと気づいたのは、コンテストで落選したからです。これからのユーチュバーにはブロガー的な要素も必要だとか、動画を作り込むスキルも磨かなきゃとか、いろんなことを学ばせてくれた。落選したことで、ただ好きなことをやるだけじゃダメだとわかり、視野が広がったと思います。

――悶絶するくらいの悔しさも、経験してよかった?

はい。受かっていたらきっと、ビートボックスを極める方向に進んでいたでしょう。それはそれで良かったかもしれませんが、自分の可能性を広げることはできなかった。早いうちに挫折して、自分に足りないものに気づかされて、良かった。だから挫折にも意味があったと思います。

次回は3/20(火)配信予定です。

第8回 仕上げにアートを自分の目で観てみる

西洋と日本の双方で、アートの全体像を駆け足で巡ってきました。
言及したのは時代を画す巨匠とその作品ばかりなので、なんとなく見覚え・聞き覚えがあることも多かったのでは?
それら画家・作品それぞれのつながりが見えてくると、「なるほどわかった!」と思えます。流れを読む。文脈を知る。それがアートをいっそう楽しむポイントです。連載でもその点に注力してまいりました。

ですから、これまでの回を読んでいただいていれば、それだけでもう、
「アート? 西洋美術も日本美術も、だいたい知ってるけど」
と言い切って、まったくかまわないと思いますよ。
今回はもうひとつだけ、アートを知るために必須のことを挙げておきたく思います。それは、
実物に触れること。

世界でただひとつのオリジナルである。それが、あらゆるアートの価値の源泉です。アートの世界がすばらしいのは、そうしたオリジナルに接触する機会が、積極的に設けられている点です。それは主に展覧会というかたちで実現されますね。
アートを知る仕上げに、ぜひ展示へと足を運びましょう。
第7回「応仁の乱が転機? ピークへ至るまでの日本美術の流れ」を読む

ハズレのない展覧会の選び方

とはいえ、展覧会と名のつくものは無数に開催されています。テレビCMまで打って大々的に宣伝され、入場するのに行列しなければならない大型展もあれば、小さいギャラリーでひっそりと開かれ、足を踏み入れるのにたいそう勇気のいる展示だってあります。はて、どれを選べばいいのか。
ハズレのない選び方をひとつご提案しましょう。「常設展」に行けばいいのです。

多くの美術館には、収蔵品を見せるための常設展示室があります。よく話題となる企画展を開くのとは別の場所が、ちゃんと用意されているのです。

美術館の本来の役割は、美術品の収集、保存、研究、展示です。良心的な美術館であれば、アイデンティティを賭してコレクションを形成し、それらをいい状態で観てもらうことに腐心しています。その成果たる常設展に注目せずして、他にどんな観るべきものがあるでしょう。
それに、考えてみてください。パリならルーブル。ロンドンでは大英博物館。ニューヨークは近代美術館(MOMA)。海外旅行ではみなさん、世界的な美術館を観光ルートへ組み込みますね。そのとき観ているのは、各館の常設展示です。国内の常設展示にだけ目もくれないのは、なんとももったいない話です。

では、日本ならどこへ行くか? 東京の上野公園がオススメです。お花見やパンダのみならず、上野の杜は明治の昔から、日本有数の「美の殿堂」でもあります。敷地内に東京国立博物館、東京都美術館、上野の森美術館、国立西洋美術館、国立科学博物館が点在しています。ひとつの公園内にこれだけアート関連施設があるなんて、世界的にも類例がありません。

モネ、ゴーギャン、セザンヌも見られる美術館

そのうちから、まずは国立西洋美術館へ。
ここには充実の常設展示があり、整然と時代順に各作品が並べられています。ひと通り巡れば、西洋絵画史を目の当たりにした! と実感できること請け合い。
収蔵品のなかで最も古いのは、14世紀に描かれた《聖ミカエルと龍》。イタリア・トスカーナ地方の都市シエナで活動した、シエナ派の画家による作品です。
そこから始まってルーベンス、クールベ、マネら時代を代表する画家の絵を次々に目で捉えながら進んでいきます。と、展示の白眉ともいうべき一室へ行き着きます。視界がいきなり明るく開けたような感じ。かの印象派画家、モネの作品を集めた部屋です。
何気ない風景をたっぷりの光のもとに描き出す。そんな印象派の作風をよく示す《陽を浴びるポプラ並木》などの作で壁面が埋められ、身を置いているだけで陶然としてきます。

とりわけ目を惹くのは、第3回でも紹介した彼の代表作たる《睡蓮》です。晩年のモネは自宅の庭に池をつくり、睡蓮を浮かべて繰り返し、繰り返しそれを描きました。そうしてできた連作のうちの一枚。《睡蓮》は何しろ作品数が多いので、優品もそうでないものもありますが、こちらにあるのはかなりできのいいほうであること、保証します。
モネの部屋のほかにも、ゴーギャン《海辺に立つブルターニュの少女たち》、セザンヌ《ポントワーズの橋と堰》、それにピカソの作品なんかも常設展示として一挙に観ることができます。

いつでもふらり立ち寄れば、これほどの西洋美術の粋に出合えるとは、なんてありがたいことなのでしょう。

日本美術を観るならば

もう一件、東京国立博物館にもぜひ。こちらもいつだって、広大なスペースで常設展が催されています。
本館の1階は「ジャンル別展示」。彫刻、漆工、金工などに分かれ、各分野の最良のものが集められているので、思わず見惚れてしまいます。
そして2階が「日本美術の流れ」と題された展示。その名の通り、時代を追って名品の数々をたどれます。

会場に入るとすぐ、縄文時代の《火焔型土器》と対面します。教科書でおなじみ、縄文土器の実物を間近で観るのはおもしろい体験です。

絵画に絞れば、平安〜室町時代にかけてのものでは、仏教経典を絵画や工芸技術の粋を集めて彩った装飾経、物語絵巻、水墨画など。安土桃山〜江戸時代にかけては、武家の居住空間を雄壮に飾った襖絵や屏風絵、それに浮世絵まで。バラエティに富んだ品々が観られます。絵画表現が時代とともに移ろっていくさまを、はっきり感じ取れる展示です。

ここでは個別の作品名を挙げませんでしたが、それはこちらの常設展示では長期にわたり展示される作品が少ないゆえ。大半の日本美術は、長期展示に適さないのです。
絵や書はとくにそうですが、日本の美術品は和紙や絹などの支持体に、自然由来の絵具などを用いて描くことが多い。どの素材も温度や湿度、強い光などにめっぽう弱いのです。ですから公開して展示するにしても、作品そのものが受けるダメージを最小限に抑える必要と配慮が常に必要となるのですね。

国立西洋美術館と東京国立博物館。ふたつの常設展を観て回れば、西洋美術史と日本美術史の双方を丸ごと理解できます。そうですね、ここはがんばって半日分ほど時間を空けていただいて、連載で書かれていたことを頭の隅に置きつつ一気に巡ってみてください。帰路につくころには、何かまとまった「知と美の体系」が頭に組み込まれたことを、きっと実感しているに違いありません。

<今回のまとめ>
●美術館や博物館の「常設展」はハズレがない
●上野公園は、多数の美術館や博物館が点在する日本有数の「美の殿堂」
●西洋美術を観るなら国立西洋美術館、日本美術を観るなら東京国立博物館がおすすめ