バレエとクラシック音楽をモチーフにした変身ヒロイン物という他に類を見ない作風で、放送開始から15年以上が経った今も多くのファンに愛され続けている『プリンセスチュチュ』。その名作を彩った劇中曲をオーケストラが演奏するという、スタッフやファンが長年、夢見ていたコンサートがついに実現。4月14日(土)に東京・三鷹市公会堂 光のホールで『プリンセスチュチュ15周年記念コンサート 金冠町音楽祭 ~Das Goldkronefest~』が開催され、チケットも発売中です。
そこで、『プリンセスチュチュ』のメインスタッフであり、今回のコンサートの主催者でもある、伊藤郁子さん( 原作・キャラクターデザイン)、佐藤順一さん(総監督)、和田薫さん(音楽)に、アニメ制作時の思い出やコンサートの最新情報などについて伺ってきました。
「こういう女の子のアニメがあったら面白いな」というイメージが降りてきた──2002年から2003年に放送された『プリンセスチュチュ』が15周年を迎えました。昨年はBlu-rayBOXが発売されトークイベントも開催。そして、4月には、コンサートも開催されます。こんなにも長く愛される作品となった『プリンセスチュチュ』は、どのような経緯で生まれた作品なのでしょうか?
伊藤:具体的に企画として考え始めたのは、『魔法使いTai!』(1996年~1999年。通称『まほTai!』。伊藤さんはキャラクターデザイン、佐藤さんは監督を務めた)の頃だったと思います。キャラクターデザインとして声をかけていただいたのですが、当時はまだオリジナルのキャラを作ったことがなかったんですね。
それで、『まほTai!』のキャラを描く前に、「自分の絵ってどんなだったかな?」とか思いながら、さらさらっと描いたのがバレリーナの女の子でした。子供の頃からクラシック音楽が好きで普段も聴いていたからか、「こういう女の子のアニメがあったら面白いな」というイメージがすっと降りてきたんです。
せっかくイメージが降りてきたのだから、企画として真面目に考えてみようかなと思ったのがスタートで、仕事の合間に好きなクラシックを聴きながら、いろいろと考えたり描いたりして。なんとなくまとまったら、周りのアニメーターさんやプロデューサーさんたちに、「こんな企画を考えたから、誰かやらない?」という感じで話していました。
──佐藤さんが総監督として参加することになったのは、いつ頃だったのですか?伊藤:『魔法使いTai!』を作っていた(制作スタジオの)トライアングルスタッフの社長さんがとても気に入ってくださって。プロットを書いて、ちゃんとした企画にしてみようという話になったんです。その時、社長さんが佐藤さんに声をかけて下さったんです。
佐藤:それからは、2人で居酒屋会議です(笑)。『まほTai!』の時もそうでしたね。
──佐藤さんは、伊藤さんの企画を聞いてどのような印象を受けましたか?佐藤:クラシック音楽を使った作品で、バレリーナの女の子が踊って戦うということぐらいが決まっていたんですけど。私はクラシック音楽には詳しくなかったし、バレエも観たことがなかったので、難しい要素がいっぱいあるなって感じでした(笑)。
──では、作品作りはどのように進んでいったのでしょうか?佐藤:手がかりは、伊藤さんの頭の中にしかないですから。飲み会は、伊藤さんが何を考えているかのリサーチでした(笑)。
伊藤&和田:あはは(笑)。
佐藤:その後のシナリオ打ち合わせも、半分はリサーチでしたね。
伊藤:私は、とりあえず思いついたことをドーンと言うんですよ。すると、佐藤さんたちが「え?」となりながらも、いろいろとアイデアを出してくれるんです。
──和田さんは、どのような経緯で音楽を担当されることになったのですか?佐藤:作曲は、誰にお願いしようかという話になった時、厚みのある音楽を作れる人に作って欲しいと思い、和田さんにお願いしました。
和田:監督から、クラシックの曲をたくさん使って、メインはチャイコフスキーの『くるみ割り人形』といった話を聞いた時、かつてない企画だという驚きはありました。でも、同時に「バレエとアニメ? どんな作品なんだろう?」という戸惑いもありましたね(笑)。
佐藤:狐につままれたみたいな(笑)。
和田:アニメの中でクラシック音楽が効果的に使われていることはありましたが、ほぼ全編にわたってクラシックという作品は観たことが無かったので。これはどうなるのだろうと思ったのが最初の印象でした。
伊藤:クラシック音楽に詳しくない人でも、有名な曲のフレーズだけは覚えていたりするじゃないですか。どんな人の心にも入り込める力がある、だからこそクラシック音楽とアニメは絶対はまると思ったんです。
絵コンテの段階からクラシック音楽にドラマを合わせていった──制作時、皆さんが特にこだわった点などを教えてください。佐藤:せっかくクラシック音楽を使うので、絵コンテの段階から音楽にドラマを合わせていきたいなと思っていて。それは、全編通して上手くいったと思っています。各話メインの音楽シーンには編集の時に音楽を用意して無理にでも音楽に絵を合わせるんです。
長すぎてそのまま使えない曲は、先に編集してもらってそれを合わせたり、曲に合わせてシナリオの構成を変えたりもしましたね。あと、バレエの動きに関しても全然分からなかったので、1回、みんなでバレエスタジオに行って教わったりもしました。
伊藤:バレエの先生に教わった経験は大きかったですね。まったく知らなかった知識もたくさんありましたし、絵を描く上でも、実際に自分でやってみた経験が生かせました。スタジオに行った時は、佐藤さんもバーにしがみついてレッスンを受けていましたね(笑)。
──音楽制作は、どのような形で進んだのでしょうか?和田:最初に、使いたいクラシック音楽のリストをいただきました。ただ、クラシックの曲だけではドラマの進行上、十分ではないと言うか。コミカルなシーンの曲など、いろいろな方向性の曲も欲しいということで、クラシックの雰囲気を残した劇伴的な曲も作ることになりました。
和田:キングレコードさんには自由に使えるクラシックの音源があったので、そこに無い曲と、新たに作った劇伴的な曲をレコーディングしました。フルオーケストラで録ったのですが、限られた時間の中で非常に多くのバリエーションを録らなくてはならなかったので大変でした。
普通、クラシックのオーケストラのレコーディングって、しっかりとリハーサルを重ねてから録るんです。一方で、通常の劇伴のレコーディングは、現場で初めて楽譜を見て1回か2回リハしたら、もう本番。だから、そのことも前提に曲を書いてあるんですね。
『チュチュ』の場合、レコーディングのスケジュールは劇伴に近くて、1回リハをしたら、すぐに本番。例えば、プロコフィエフの『シンデレラ』という曲は、すごく難しくて、初見でいきなり弾くのは大変なんです。
レコーディングに来てもらったプレーヤーは上手い人ばかりでしたが、リハーサルをした後に「もう一回リハーサルをして」と目で訴えかけてくるんですよ(笑)。でも、時間がないので、それを流して本番に入ったりしましたね(笑)。でも、先ほども話しましたが、クラシック音楽をここまでアニメに使うことは無いので、プレーヤーにとっても、新鮮な経験だったと思います。
伊藤:フルオーケストラで演奏されるのを見た時、「私がやりたかったのはこれだ!」と思いました。私が子供の頃ってアニメのサントラが売られ始めた時期で、チュチュの企画を漠然と練りながら「いつか自分の作品の音楽もオーケストラで」という妄想を膨らませていたので。そんな妄想が現実になった事で、さらに音楽祭をやりたいという野望が生まれたのだと思います。
最初はカルテットという話から、20人ぐらいのチェンバーオーケストラに。──4月14日(土)には、劇中の音楽をオーケストラが演奏する『プリンセスチュチュ15周年記念コンサート 金冠町音楽祭 ~Das Goldkronefest~』が開催されます。伊藤さんがずっと抱いていたという妄想は、どのようにして実現することになったのでしょうか?伊藤:私だけではなく、メインスタッフのみんなで「やれたらいいね」という話は以前からしていたんです。でも、実際にできるかと言ったら……いろいろと大変だなあって(笑)。
佐藤:15周年に向けてファンの人たちに喜んでもらえる企画を計画していた中、「『チュチュ』の音楽をみんなで聴きたいよね」とは話していたんです。でも、実現のハードルが高いことも分かっていたので、「みんなで BGM(サントラ)を聴けば良いか」とか思ったりもしてました(笑)。
和田:クラシックのコンサートって、基本、1年前くらいからの準備が必要なんですよ。ホールを押さえたり、楽団をオファーしたり……。
佐藤:コンサートについては我々は全くの素人なので。実際にできるものなのか、どうかも分からない。
伊藤:音楽祭に関しては、とにかく和田さんに動いていただけないと、実現はしなかったですね。
和田:ははは(笑)。このくらいの規模のコンサートにしようということが決まってから、ちょうど良いホールを探したのですが、23区内は全滅で。やっぱり1年先くらいになっちゃうかなと思ったところで、三鷹市公会堂の光のホールを見つけたんです。昔からあるホールですが、リニューアルしてすごく綺麗になっているんですよ。そうやって、なんとかホールを確保できたことは大きかったですね。
佐藤:腹が決まった感じはありました。
伊藤:ホールの写真を見た時、具体的な音楽祭のイメージが想像できてドキドキしました。
佐藤:和田さんから、いくつかの会場の候補を挙げて頂いた中には、他の条件は合うのに、演奏オンリーでトークは NGというホールもあって。音楽だけでなく、トークもやりたいということは最初から決めていたので、そこはダメだなってなったりもしましたね。
和田:『チュチュ』で使われている曲のオーケストラの編成は、70人~80人くらいの規模の曲が多いんですけど。そうなると、1500人とか2000人くらい入るホールが必要になる。実際、どれくらいのお客さんが来てくれるんだろう、みたいな話もしましたね。
佐藤:最悪、演奏者は4人ぐらいで、とか(笑)。
和田:初めての音楽祭だし、最初はカルテットからみたいな話もしてましたね。
伊藤:スタートはそこからでした。
和田:でも、演奏する曲を選んでいく中、「もう少しオーケストラっぽい編制で聴きたいよね」という話になって。最終的には、20人ぐらいのチェンバーオーケストラ (小編成のオーケストラ)になりました。その結果、今回の規模の会場になったんです。
耳だけでなく全身で『プリンセスチュチュ』の世界に浸れるはず。──今、お話できる範囲で、コンサートの内容を教えて下さい。和田:クラシックの曲は1曲がすごく長いのですが、今回は、その曲を劇中で使ったサイズにして、いろいろな曲を聴きながら、作品のことを思い出していただけるような構成にしています。
佐藤:曲と曲の間には、『題名のない音楽会』みたいな感じで、和田さんに解説もしていただく予定です。
和田:曲の演奏やトークの他、監督にオリジナルの脚本を作っていただいてるんですよね。
佐藤:はい。キャストさんも来て下さるので、音楽とともに、短い朗読劇をやっていただこうと思っています。
伊藤:自分がお客さんになって、『チュチュ』の音楽を生で聴くことです(笑)。
和田:あはは(笑)。
佐藤:最初、伊藤さんには、メインで喋ってもらおうと思ったんですけどね。
伊藤:私はちょっとしか喋りません。今回のイベントは音楽祭ですし、和田さんにメインでお話をして欲しいんですよね。きっとお客さんもそれを楽しみにしてくれていると思うので。和田さんがステージに立ってるだけで、『題名のない音楽会』の収録してるみたいなドキドキ感もあるだろうし(笑)。今までの『チュチュ』のイベントとは、またひと味違った雰囲気のものになると思います。
佐藤:音楽に軸足を置いたイベントにはしたいですし、それが僕も楽しみですね。
和田:長年、『チュチュ』のファンでいてくださった方にとっては、本当に待望のコンサートになると思います。『チュチュ』を観て、クラシックの曲を好きになって下さった方もたくさんいると思うのですが、今回、スクリーンにアニメの映像を流しながら、生の演奏を聴いて頂ける予定です。普通のクラシックのコンサートとも、他のアニメのイベントとも違う、このイベントだけの独特の雰囲気を皆さんにぜひ楽しんでいただきたいですね。
──私は、クラシックのコンサートを生で聴いたことはないのですが、生の演奏ならではの魅力とは、どのようなところにあるのでしょうか?和田:基本的にCDやデジタルの音源などは、ステレオで聞いても2チャンネル。でも、ホールで聴く時は、20人のプレーヤーがいるなら、20個のスピーカーがあるようなもの(笑)。さらにホールの響きもあるので、音楽に包まれながら楽しんでいただけると思いますよ。
伊藤:体中で音を感じて、耳だけでなく全身で『プリンセスチュチュ』の世界に浸れるはずです。
和田:今回、特別に組織した「Orchester Goldkrone Akademie」(金冠アカデミー・オーケストラ)には、日本のトッププレイヤーが集まって下さっています。指揮をお願いした茂木大輔さんも、N響(NHK交響楽団)のオーボエの首席で、『のだめカンタービレ』とか色々な企画のオーケストラもやられている方。素晴らしい演奏に期待していただきたいと思います。
──佐藤さんと伊藤さんからも、音楽祭で楽しみにして欲しいことを聞かせて下さい。伊藤:当日、会場では音楽祭特別仕様のグッズを販売する予定で、今、その準備を頑張っています。グッズの情報などは公式サイトに掲載予定なので、更新を楽しみにして頂けたら嬉しいです。手作り感満載のイベントですし当日人手も足りなくなりそうなので、「私も物販手伝う」と言ったらプロデューサーに止められてしまいました(笑)。
コンサートが開催出来るのも『プリンセスチュチュ』を大好きでいてくださる皆さんの応援のお陰ですし、今回特別に編成された素晴らしいオーケストラで最高の音楽を楽しみ、震えるくらい『チュチュ』世界に浸ってもらえるよう、スタッフの愛と感謝の気持ちがいっぱい詰まったコンサートにしたいと思っています。今、私たちが感じているワクワク感が多くの皆さんに伝わって、今回初めて興味を持たれた方もこの機会にぜひ足をお運びいただき、音楽ホールならではの雰囲気で物語を体感してもらえたら嬉しいです。
佐藤:音楽のイベントって、いろいろな作品で提案はするんですけど、「やるだけでも赤字」と言われて実現しないことが多いんです。今回は、私たちスタッフの手作りのイベントですけれど、これが成功するかどうかは、次に繋げるという意味でも重要だと思っていて。この音楽祭が上手く行くったら、「ウチもやってみよう」という作品も出てくるかもしれない。私たち自身も、今回成功したら、さらにという夢は広がっていきますしね。そういった意味でも、ぜひ皆さんの応援をいただいて、大成功させたいと思っています。
「『プリンセスチュチュ』のことはあまり知らないけれど、どんなコンサートなのかな?」という感じで興味を持っていただいた方も、会場に来ていただけたら、素敵な思い出を持ち帰っていただけるはず。入場券は発売中(3月7日時点)なので、ぜひ多くの方に来ていただきたいです。
[取材・文・写真/丸本大輔] イベント情報
『プリンセスチュチュ15周年記念コンサート 金冠町音楽祭 ~Das Goldkronefest~』
主催:金冠町音楽祭実行委員会
日時: 2018年4月14日(土) 16時開場 17時開演
場所 : 三鷹市公会堂 光のホール
チケット:全席指定 9000円 【音楽祭限定ポストカードをプレゼント ※当日入場時にお渡しします】
e+ イープラス 2月15日(木)朝10時から販売開始
→販売サイト
《演奏》Orchester Goldkrone Akademie
《作曲・音楽監督》和田 薫
《芸術監督》藤田崇文
《指揮》茂木大輔
《ピアノ》菊地裕介
《出演》和田 薫/加藤 奈々絵/矢薙 直樹/佐藤 順一
■プリンセスチュチュ Blu-ray BOX 期間限定版
30,240円(税込)
発売中
「プリンセスチュチュ」特設サイト
プリンセスチュチュ15周年記念コンサート 公式サイト
金冠町音楽祭 公式ツイッター(@kinkangakuen)
(C)HAL・ガンジス/TUTU
(C)TUTU/金冠町音楽祭実行委員会