※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。
うーっ!
あーっ!
うーっ!
……って声しか頭に浮かばないまま、この記事が書けず、書こうとしてもついおふとんでスマホを見てしまい、もう1年が経ってしまいました。こちらのご投稿に対し、お答えしたい、お答えしたいと思いながらも、ずっとずっとずっとずっとずっと、書けなかったんです。
以下、ご投稿、全文そのまま掲載します。
生きるのにしんどいことも多かったのかなと思いながら読みました。そして、もしかしたら私はあなたを無意識に傷つけるようなことを言うかもしれない。それでも聞きたい。「女と結婚した女」に質問。
男の人は好きになれないのでしょうか。好きになる男が現れなかっただけではないのでしょうか。この人と結婚したいと思った人が「女」で相手も同じ気持ちだったということなのでしょうか。
好きになるのに理由はないって言うこともありますが、男の人は無理と思う理由・原因があれば教えてほしいところです。
言っておきますが、差別する気も嫌悪もありません。「そういうことなのですね」という気持ちと「なんでだろう」ってきもちです。
「しんどいことも多かったのかな」「あなたを無意識に傷つけるようなことを言うかも」「差別する気も嫌悪もありません」。恐る恐る、そろーっと、腫れ物に触るようにご質問くださったのが伝わってきます。
そのせいでしょうか。私はいま、なんだか、「怒ってはいけないという義務感」に駆られています。「生きるのにしんどいことも多かったと思われる、差別や嫌悪の対象とされがちな立場から、社会の皆様に理解していただくには、怒らず丁寧にお話申し上げなければならない」と。
なので、怒らずに申し上げます。いえ、正確に言えば、怒りを抑えて申し上げます。
あのね、たとえば心に決めた異性がいる人に対して、「好きになる同性が現れなかっただけではないでしょうか」なんておっしゃいます?
心に決めた人がいる人に、「他に好きになる人が現れなかっただけではないのでしょうか」なんて。そんなの、相手が異性だろうが同性だろうが、とっても、とっても失礼なことだと私は思いましたよ。
ご投稿くださった方、こんな風に申し上げてごめんなさいね。もしかしたらこの辺で「あっ無理」ってなって記事を閉じてしまわれるかもしれない。
でも私、正義の弱者様パンチをかまして勝ち誇るみたいな人間であろうとは思わないのよ。ただ、一個の人間でありたいと思うの。
なのでここから下は精一杯、ご投稿者の方の立場を想像して考え、ご投稿者の方のご質問にお答えしようと思います。よかったらお付き合いください。
まず、はじめになんですけど……
「みんな異性を欲望するはずだ」と思ってしまうの、あれ、逆に、なんでなんですかね? これ、「なんで異性愛者は同性愛者を理解できないんだ!」みたいな主語のでかい話ではなくて。私自身も、女を愛する女である私自身も、例えば、次のようなことから未だ自由ではないんですよ。
・いわゆるカミングアウトをしていない人が、無意識に異性愛者に見えてしまう。
・異性との失恋や離婚を経験した人が、次もまた恋愛や結婚をしたいかどうか、次もまた相手に異性を望むかどうかは本人に聞かないとわからないのに、ろくに話を聞かず「またいい男(女)見つかるよ!」とか言って励ましたつもりになってしまう。
あと、異性を欲望しない人に対して当たりが強い風潮もありますよね。以下の具体例はちょっと、人によっては嫌なことを思い出すかもしれないので、性にまつわる暴言・暴力を受けた傷がまだ乾いていない人はちょっと1ブロック分読み飛ばしていただきたいんですけど。極力、生々しすぎないように書きます。
・「こいつまだ独身なんだぜ!」「中年童貞〜」「彼氏いない歴○年」とか言って、異性と関係を持たないことをネタにしていい/自虐していいというような空気。
・「まだ魅力的な異性に出会っていないだけ」「まだ男を/女を知らないだけ」などと、無理やり合コンに連れ出す。または、ポルノ作品を見せるなどする。 ・独身、または同性パートナーと生きるなどして、異性婚の形を取らない人に対して、「大人になりきれない」「結婚ごっこ」などと言い未熟扱いする。
このへんのことに対して、私が怒り悲しむのは簡単です。でも私、思うのね。このへんのことをやらかしちゃう人の心の底にも、怒り、悲しみがあるのではないかしらと。
・「俺を恋愛対象外にするなんて」とレズビアン女性や無性愛女性などに怒ったり傷ついたりする男性。また、それの男女逆バージョン。
・「自分は異性婚で苦労をしているのに、独身者や同性婚をしている人は異性婚の苦労から自由なように見えてムカつく、自分と同じ苦労を味わえ」という気持ち。 ・国家の存続、生物の本能、神の意志、みたいな、でっかいものを司る立場から「お前ら義務を果たせ!」と叫ぶことで立派にでっかくなりたい気持ち
私は「なんで異性がダメなんだ」ってもう人生で幾度も幾度も聞かれてきました。本連載や、書籍「百合のリアル増補版」などでもお話した通り、15歳から22歳までは、同性愛なんていけないという思いから男性とお付き合いしてきましたが、その間の7年間は、「なんで同性がダメなんだ」なんて聞かれることはありませんでした。一度たりとも。
女であり、女と生きる。そういう生き方をする私に、否定されたと感じる方はいらっしゃるようですね。「私が夫と結婚して生きてきたことをあなたまさか否定するつもりじゃないでしょうね」とか「俺ら男を恋愛対象外にするなんて許せない」とか。
が、大丈夫です。その話は私、してないです。最初から。誰を否定したいとか、誰がダメとか、そういう話は最初からしてないんです。
ただ私は言います。私は女だ、と。そして女が好きだ、と。
私はおっぱいが好き。しょうがないのよ、哺乳類だから。
それから、女性ホルモンっぽい匂いが好き。エストロゲンの匂いっていうのかな。好きな人が香水つけてると、「香水、どいて!私の好きな子の匂いが隠れちゃう!!」ってなる。
女として生きる、という経験を共有したときの戦友感も好き。
女を愛するからには男の役割を果たさなければならない、と思い込んでいる女性からその役割を脱がすことに勝るエロスは私にとってはちょっとないみたい。
あと、「あ〜ん、いっちゃう〜(義務感)」みたいな、射精という体のメカニズムを持っている人向けに翻訳したセックスをする必要がなくて、母語のまま語り合える安心感も好き。それでも、お互いの方言みたいなものはある。それを探求するのも好き。
誰にも見せないけど二人だけにわかる、こっそりお揃いの下着をつけるのも好き。
女子化粧室で並んでお化粧直しするのも好き。口紅を貸してあげるのも好き。わざと借りるのも好き。
かつて働くことも、学ぶことも、投票することも許されず、それでも心に抱いた自由を守り通した、女の先輩たちの歴史が好き。
私、好きよ。女が好きよ。
そしてこの、好き、って気持ちは、「男を好きになれない」なんて否定形で表現されるものではないのです。
お知らせ
3/24(土)に牧村さんが登壇されます!詳細はコチラ
cakesの人気連載が書籍化しました!
結婚というおとぎ話のハッピーエンドを打ち破り、
性にとらわれず「私を生きる」メッセージに満ちたエッセー集。
noteで公式ファンクラブを開設しました!
・牧村朝子さんと直接コメントのやりとりができ、あなたの誕生日を名指しでお祝い。
・新刊発売時に、限定サイン本をご用意。
・取材旅行時のお土産をプレゼント。
・イベントへの優先案内。
・限定動画や音声を公開。
などの特典があります。
牧村さんのことをより深く知りたい方は、ぜひご覧ください。