4月から新番組「新しい別の窓」が始まり、映画「クソ野郎と美しき世界」も公開されるなど、活動を活発化させている元SMAPの稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さん。
そんな3人の再出発の原点となったのが、昨年11月にAbemaTVで放送された「72時間ホンネテレビ」だった。BuzzFeed Newsは、主題歌「72」の作詞・作曲・プロデュースを手がけた小西康陽さんに、楽曲制作の舞台裏や3人への思いを聞いた。
香取さんはすべての面で天才的
――お三方それぞれの印象を教えてください。
香取さんは、なんていうか天才なんですよ。天才としかいいようがない。(ピチカート・ファイヴの)野宮真貴さんもできないことない人だったんだけど、香取さんはそれを何十倍にしたような感じ。
――それ、野宮さん怒りませんか?
全然、大丈夫(笑)。まず反射神経がスゴイ。それから観察力がスゴイ。それからサービス精神もスゴイ。もうエンターテイナーとして、すべての面において天才的だと思った。芸能界では何をやっても成功する人なんだろうなあと。
一緒にミュージカルをやった時に、とにかくスゴイ人だなと思った。打てば響くっていう感じですね。
ただ感覚が鋭すぎて、つらい時もあるのかもしれない。僕みたいに、いろんな部分が鈍感な方が人生楽な時もあるじゃないですか(笑)
稲垣さんでアルバムをつくりたい
――稲垣さんはいかがでしょう。
稲垣さんはね、イメージ通りの超ジェントルな方。実はずっと前から、稲垣さんでやりたいアルバムがあって。
去年、八代亜紀さんの「夜のつづき」というアルバムをつくったんですね。家で聴いてると、まるで八代さんがスピーカーの横で歌ってるみたいな。すごい距離が近い、インティメイト(親密)なレコード。
で、男だったら稲垣さんでそういうアルバムをつくりたいなって、前から思ってたの。ジャズギター1本とかさ。音数が少なくて、稲垣さんが語りかけるような甘いバラード。アンディ・ウィリアムスとか、ジョニー・マティスみたいな。
草なぎさんは曲の質高い
――では草なぎさんは?
いいひと。
――そのまんま(笑)
草なぎさんとは、まだお話したことがないんですよ。
草なぎさんはいまギターに夢中で、曲をつくりまくってるでしょう。YouTuber草なぎの動画も見せてもらったんですけど、曲もちゃんとしていてクオリティーが高い。
とにかく勢いもあるし、僕だったらすぐにアルバムにしちゃうのに、と思いましたね。
「72」には3つの腹案があった
――「72時間ホンネテレビ」のテーマソング「72」を引き受けた経緯は。
去年の10月ごろに制作サイドからテーマソングをつくってほしい、という話が来たんですよ。配信が11月2〜5日だから、時間が全然なかった。
歌詞について、「何よりも、いままで待ってくださったファンの皆さんへの感謝。それから、新しいところでスタートするということが大きい」と言われて。
じゃあもう、歌い出しは「ありがとう」にしようと。でもそこから歌詞に悩んで、実は3つ書いたんですよ。
ベッドで生まれた名フレーズ
――3つも!どんな案があったのでしょうか。
「新しい地図」のサイトに動画があるじゃないですか。スタイリッシュなコピーが矢継ぎ早に出てくるやつ。そういうキレイ目な言葉を並べたものを、自分なりにも書いてみたのが一つ目。
もう一つは、知人に相談したら「東京のいろんな街でデートするみたいな歌詞はどうか」と言われて、ピチカート・ファイヴでも「東京の合唱」を書いたことがあったなあと。そのアイディアでも、ひとつつくってみたんです。
でもなんか、まだしっくりこないなぁと思って。僕は部屋の汚い寝室で寝転がってると、よく曲ができるんですよ。
ここ10年ぐらいの間に僕がつくった曲で1番気に入っていて、インパクトもあると思ってるのが、Negiccoの「アイドルばかり聴かないで」っていう曲で。そのベッドで寝転がってる時にできたんですけど。
ちょっと神頼みじゃないけど、なんかいいのできないかな、と寝転がって考えたんです。そうしたら、「72」の数字尽くしっていうアイディアが降りてきた。
ぼくが72杯もご飯を食べたら?
――あの名フレーズはベッドで生まれたんですね。
「ぼくが72時間も眠らずにいたら」「ぼくが72時間も喋り続けたら」とか、「ぼくが72〜」っていう歌詞で、いくつバリエーションができるかたくさん書いて。
香取慎吾さんはすごくいっぱいご飯を食べそうなイメージだから、「ぼくが72杯もご飯を食べたら」っていうのも考えたけど、いや、それはありえないなって(笑)
「ぼくが72時間も眠り続けたら」だと、周りも心配するよなあ、とか。
とにかくそんな感じで、悩みに悩んで。ついにデモテープをつくる当日になって、スタジオ入った時に「ああ、これ3つのアイディアをつなげばいいんだ」と。
――東京の街の名前は出てこないですが、どこか別の部分で生かされていると。
うん。街の名前は結局使わなかった。でも、どこかしら使ってますね。割とあるんですよ。アイディアに迷ってできないと思っていたものが、改めてつなげてみたらもう全部できてた、みたいな。
3人から「やっぱりユニゾンで」
――作曲面で印象に残っていることは。
最初にちょっとエッ!っていう条件を突きつけられて。制作側から「3人のユニゾンはナシでいきたい」って言われたんですね。
でも、あのタイプの音楽ってユニゾンなしでは成立しないじゃないですか。困ったなぁと思ったんだけどね。
それなら逆に、歌詞のワンフレーズことに矢継早に3人で割っていこうと。
僕とプログラミングの福富幸宏さんと、ディレクターと一緒に、3人になりきってやってみたのね。「ありがとう、あたらしい♪」って。これならカメラのカット割りもパッパッパッと変わるでしょ。
――ネットっぽいですよね。
そのアイディアでデモをつくって。そこから香取さんが、この歌詞を3人でどうやって歌い分けるか考えたんです。
で、その後に3人の側から提案があって、「やっぱりサビはユニゾンでいきたい」と言ってくれて。正直、ああよかったって思いましたね。
僕としては、自分の曲が少しでも強いインパクトを持ってほしいし。やっぱりユニゾンで歌ってくれたほうがいいよなあと。
香取さんが歌詞を割り振り
――香取さんは歌詞の割り振りまでされたのですか。
香取さんは本当にスゴイんだよ。コンサートの選曲もできるし、音楽的なイニシアチブもとれる人。
前にテレビでメドレーの仕事をした時に、香取さんが僕の仕事場に来たことがあったんですね。
「このつなぎだと踊れない」って目の前で踊って見せてくれて。「ここはあと何小節ぐらい必要だ」とか。香取さんは「俺が俺が」って言わないだけで、実はスゴイ人なの。
仮歌に説得力を
――3人の歌声についてはいかがですか。
香取さんはちょっと大人っぽくなったかなあ。稲垣さんはソフトな、本当にいい声。
草なぎさんが自分のつくった曲を歌っているのは、とてもいいと思う。自分の声質とかもわかってるでしょうから、あの方向でいってほしいですね。
――ノーナ・リーヴスの西寺郷太さんがコーラスを担当しました。
限られた時間のなかで、デモテープをインパクトの強いものにしたかった。それってやっぱり歌で決まるんですよね。で、郷太くんの仮歌だったら説得力があるだろうと思ってお願いしました。
郷太くんはアイドル音楽の良さもすごく知ってるし、みんなが何を求めるかを瞬時にわかってくれる人だから。郷太くんにしてよかった。
――最初は仮歌をお願いして、そのままコーラスを歌うことになったと。
そう。仮歌を歌った後に、郷太くんのなかでコーラスが聞こえたんだって。「ちょっとそれ歌ってもいいですか」って言われて、とてもいい感じだったので残しました。
予想外の反響
――「風通しいい感じ」というのは、いまの3人を象徴する言葉ですね。
いままでできなかったことが、すぐにできちゃう、ということで「風通しいい感じ」と。
意味の取りやすい歌詞にしようと思ってたんだけど、あれだけフィードバック(反響)があるとは考えてなかったです。番組であんなにかかるとも思ってなかったし。
ちょうど番組をやってる期間に渋谷でDJをする機会があったから、フルでかけちゃった。みんなすごく盛り上がってましたね。
「新しい別の窓」浮かばず悔しい
――「ホンネテレビ」ご覧になっていかがでしたか。
つまみ食い的に見させてもらったんだけど、1番悔しかったのは草なぎさんが歌った「新しい別の窓」っていう歌。
ああ、この歌詞が浮かばなかった僕はダサいなと思った(笑)。すごくいいよね、「新しい別の窓」って。
「風通しいい感じ」までは浮かんだけど、「新しい別の窓」はやられた!悔しいですね。
屈託なく楽しませて
――新たな道へ踏み出した3人へメッセージをお願いします。
番組を経て、本当にファンの皆さんに愛されてるっていうことが証明されたと思うんですよね。だから自信を持って、いままで通りに屈託なく、みんなを楽しませてほしいな。
――「屈託なく」っていいですね。スターは屈託ない方がいい。
そうなの。ずっと前から思ってることがあって、香取慎吾さんとか和田アキ子さんって、スタジオやレコーディングで会っても、テレビに出てる時と全然変わらないんだよね。イメージ通りなの。
でさ、なんとなくわかったのは、そういう風にテレビのなかとそれ以外とで全然変わらない人が、テレビで成功するんでしょうね。僕なんか人前に出ると、自意識過剰になってスカしちゃうようなタイプだから(笑)
もちろんそれなりにスイッチは入ってるんだろうけど、全然それが見えないっていうか。
だから、お茶の間でテレビに向かってしゃべってるおばちゃんたちは、逆にそういうのが見えてるんだろうね。「この人、カメラの外では違う人なんだよ」みたいな。
香取さんって見事にそういうところがなくて、あのままだもんなあ。いや、わかんない。もしかしたら、僕には見せてない部分があるのかもしれないけど(笑)
〈こにし・やすはる〉 1959年、札幌生まれ。作編曲家。1985年にピチカート・ファイヴとしてデビュー、2001年に解散。作詞作曲、プロデュースを手がけた「慎吾ママのおはロック」(2000年)は累計130万枚を超える大ヒットとなった。
稲垣さん、草なぎさん、香取さんが歌う「72」はiTunes、レコチョク、amazon
music、Google Play Musicでダウンロード販売中。
また、3人のレギュラー番組「新しい別の窓」が、AbemaSPECIAL 2チャンネルで、4月1日(日)午後5時から始まる。月1回、7.2時間の生放送だ。
Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.
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