大幅に回復している福島の漁業資源、どう活かすか

いわき市小名浜の小松理虔です。アンコウは鍋より友酢和え派です。

福島県の漁業資源が回復しているというニュースがここのところ増えてきました。そして、その資源の回復に歩調を合わせるように、福島県の行政サイドからも「資源管理型漁業」を模索する動きが始まってきました。

マダラ個体数5倍の衝撃

休漁でマダラの生息数増加(福島民友 2015/11/26)

水産総合研究センター(横浜市)は25日、本県を中心とした太平洋沖のマダラの生息数について、2014(平成26)年時点で、震災前の2010年時点と比べ5倍以上に増えたことを明らかにした。

出典:福島民友

太平洋北部マダラ未成魚、休漁で回復(みなと新聞 2015/12/9)

太平洋系群の推定資源量は2013~14年に26万トン。15年に19万トンと減少したものの、高水準で推移している。水産総合研究センター東北区水産研究所は「震災後に福島沖の漁業が鈍化(試験操業のみ)し、小型魚が守られた結果」と分析。

出典:みなと新聞

福島県は目下、安全性の確認された魚種のみ(2015年12月14日現在67種類)を流通させる「試験操業」を行っています。「試験」というくらいなので、通常の操業に比べ、魚種も水揚げ量もかなり限定されているのですが、漁そのものの回数が減っているため、魚の個体数が回復してきているわけです。

私もメンバーに加わっている市民主体の海洋調査チーム「うみラボ」でも、今年の春にマダラを爆釣しました。メバル狙いの仕掛けなのに、メバルのいる海底にたどり着く前にマダラが食いついてしまうといったことも起き、マダラの増加は肌で感じていました。それだけに、今回の「マダラ5倍」のニュースは非常に納得がいくものではあります。

うみラボ調査で巨大マダラを釣り上げたメンバー
うみラボ調査で巨大マダラを釣り上げたメンバー

資源管理漁業を模索し始めている福島県

それにしても「5倍」という数字のインパクトはデカいです。マダラ以外の魚種についても、例えばヒラメなどの大型化・資源回復も進んでおり、さすがにこれを利用しない手はないということで、福島沖の漁業資源を守るための制度づくりについて、年度内にも福島県が指針を策定することになりました。

沿岸漁業、水産資源管理で年度内に県が指針(福島民報 2015/12/7)

県は東京電力福島第一原発事故による沿岸漁業の操業自粛で水産資源が増え、大型化している実態を踏まえ、年度内に新たな水産資源管理・利用方針を策定する。資源管理をしない場合、供給過剰による値崩れや乱獲につながる懸念があるためだ。(中略)水産資源の大型化に伴い、漁獲対象を従来より大きく設定すれば、収入増が見込めるほか、選別作業などの手間を削減できるという。資源の保護にもつながる。例えば、「常磐もの」の代表格として人気を誇っていたヒラメについては東日本大震災と原発事故前、30センチ未満は取らないよう規制していたが、35センチや40センチに規制を拡大した場合、単価の上昇で年間漁獲金額は数1000万円増えると試算している。

出典:福島民報

福島民報の記事にもあるように、資源管理を進めないと、せっかく増えた魚も乱獲される恐れがあり、必然的に供給過剰になって、あっという間に漁業資源の枯渇を招くことになります。本格操業が始まる前、現在の試験操業のうちにしかるべきルールを策定し、本操業に移行するときには資源管理の枠組みが構築されている状態にするのがベストです。

漁業先進国と思われがちな日本ですが、資源管理の分野では国際的に立ち後れており、「日本の漁業は世界で一番イケてない」と語る水産関係者も少なくありません。震災前の福島の漁業も、量でカバーしようという漁業が主流でした。

しかし、獲り尽くすような漁業では価格は上がらず、さらに量を獲るようになり、ますます資源が枯渇するというスパイラルに陥ってしまいます。ただでさえ逆風なのに、育ちきっていない魚を大量に流通させてしまえば、買い叩かれるのは自明です。

福島県で一歩踏み込んだ資源管理漁業がスタートすれば、それは、福島の漁業が抱えていた震災前からの課題を克服することにも繋がりますし、ひいては日本の漁業を変革するチャンスにもなります。これを導入しない手はありません。

福島から資源管理漁業の潮流をつくる

仮に他県で資源管理型漁業を導入しようとすれば、大規模な「禁漁」を強制させることになり、漁業者からの反発も大きくなります。しかし、福島県で現在行われている試験操業は、すでに事実上の資源管理型漁業といってよく、他県よりもショックは小さいはずです。東電の休業補償があるうちに、実効性のある枠組みを構築すべきです。

今後、福島第一原発の廃炉を見届けながら、福島の漁業のイメージを向上させ、さらに価格的な優位性を持ったブランド力をつけていくことは、かなりの困難を伴います。買い叩かれないだけの「ウリ」がなければなりません。やはりその1つが資源管理です。

例えば、資源管理の国際認証である「MSC認証」を1魚種でも取得できれば、2020年の東京オリンピックでの国際的なアピールにも繋がります。

実は、ロンドンオリンピック以降、ホスト国が提供する水産物は持続的な漁業で獲られたことが認証された製品に限られることになりました。東京オリンピックで「MSC認証」のついた福島県産の魚を世界の人に食べてもらう。福島の漁業の再生、そしてビジョンを世界に示すチャンスではないでしょうか。

原発事故によって数多くのものが失われた福島の海にあって、回復した漁業資源は最後に残された宝です。数十年と言われる廃炉を見届けるためには、次の世代に、この宝を受け継いでいかなければなりません。若い漁業の担い手を増やすためにも「儲かる漁業」に転換していくことが求められます。資源管理は、そのための鍵です。

そしてまた、この福島の宝は、日本の漁業を変える可能性が十分にあるという意味において、日本の宝でもあります。福島の漁業の問題を「福島だけの問題」として捉えるのではなく、「自分たちの食卓を守るための問題」だと認識を改めていくことが必要だと個人的には感じています。

福島県産のマダラは試験操業中なので鮮魚店でも購入可能(写真提供:大川魚店)
福島県産のマダラは試験操業中なので鮮魚店でも購入可能(写真提供:大川魚店)

福島の宝を「日本の宝」にするために

福島の漁業を復活させるための大前提となるのが汚染水対策であることは言うまでもありません。

現在、福島第一原発の汚染水対策として採用されているのが、建屋から離れた山側の井戸で汲んだ水を海に流す「地下水バイパス」、建物の近くにある井戸で汚れた地下水をくみ上げ、放射性物質を取り除いてから海へ流す「サブドレン計画」、さらに、汚れた地下水が海へ流出するのを防ぐ「海側遮水壁」の3つです。

最新の報道によれば、サブドレンでの地下水くみ上げが効果を発揮し、地下水が原子炉建屋に流入する量が減少しているといいます。

地下水流入 1日100トン減少 福島第1、井戸でのくみ上げ効果(2015/12/12 日本経済新聞)

東京電力福島第1原子力発電所で、事故を起こした原子炉建屋などに流入する地下水の量が9月中旬以降、1日あたり約100トン減少したことが政府の汚染水処理対策委員会の分析でわかった。建屋周辺の井戸「サブドレン」で地下水のくみ上げを始めた効果とみられ、新たな汚染水の発生の抑制につながっているもようだ。

出典:日本経済新聞

しかし一方で、4月から試験が行われてきた「凍土壁」の運用はまだ始まっていません。東電は、凍土壁の運用が始まれば、来年度には建屋の地下に流入する地下水を1日100トン未満まで減らせると目論んでいるようです。東電にはとにかく頑張って頂くほかありませんし、より開かれた情報発信をして頂きたい。

もちろん、私たち自身も、福島の魚について学び、汚染水対策やモニタリング調査を厳しく監視しながら、折に触れて情報のアップデートを続けることが必要です。思考停止に陥らず、福島の海と積極的に関わり、知ろうとすること。私たち自身も続けていきたいものです。

ちなみに福島県産のマダラは試験操業の対象になっており、福島県内の鮮魚店などで購入することができます。マダラは雑食性で、カニなどを食べてしまうことから「タラが増えすぎるとカニが減ってしまう」と懸念する漁師もいます。増えたマダラを、どうおいしく調理し、食卓に活かすか。それも、私たちの課題かもしれません。

私も、この冬は、アンコウの友酢和えより、マダラの鍋を目指したいと思います。