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【私説・論説室から】

ドイツへの片思い

 拓殖大教授の佐藤健生さん(70)は戦後処理などを巡る日独比較論議の論客の一人だ。

 ドイツの取り組みを紹介するシンポジウムでは、あえて従軍慰安婦問題の現状を報告してもらう場も設けた。

 ドイツの脱原発もあり、さまざまな分野で日独比較はやむことがない。ただ、「ドイツを見習え」式の乱暴な主張にもなりがちな対比には反発も強い。三年前、来日したメルケル首相が「慰安婦問題の解決を促した」と報じられた際には、「嫌独」や、ドイツを煙たがる「煙独」といった言葉も飛び交った。

 「日本人が誘導して言わせている部分もあります。教えたがりのドイツ人に対し、学びたがりの日本人の片思いなんですね」。佐藤さん自身もそうだったのだろう。

 歴史を木と森の関係に例える。戦争当時の人には木しか見えず、後の世代は森しか見ない。ドイツでは、この世代間の引き継ぎが何とか間に合い、建前を守り抜く原則を確立できたのが、日本との違いだという。

 「暗記科目になってしまった歴史ですが、一番大事なのは“なぜ”と“どうして”。歴史は単なる過去ではなく、現在、未来へとつながるものなのです」

 十七日午後二時から文京区の拓殖大キャンパスで開く最終講義のテーマは「ストーリーとヒストリー」。学外からの聴講が可能で、事前申し込みの必要もない。 (熊倉逸男)

 

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