平昌五輪に現れた、金正恩氏とトランプ氏のそっくりさん〔PHOTO〕gettyimages
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突然の米朝会談合意でわかった、金正恩の驚くべき「現状認識力」

これからの北朝鮮政策の話をしよう
米朝首脳会談が突然決まった。この背景には何があるのか? かねてから体制崩壊の危険性を感じさせるレベルの異次元制裁の必要性を唱えていた、国際政治学者・篠田英朗氏が北朝鮮政策の現状とこれからを考察する。

金正恩が持つ現状認識

アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩党委員長との米朝会談が5月までに開催される見込みになった。まず私が強い印象を受けるのは、金正恩氏が世界各国の情勢分析者と同じ現状認識を持っていることが確認できたことだ。

先月も書かせていただいたが(北朝鮮への武力行使を「やる気」のアメリカが、決してやらないこと)、北朝鮮がアメリカ本土攻撃能力を持つまでに数ヵ月の猶予しかないと言われる中、平昌オリンピック/パラリンピックが終わり、延期されていた米韓合同軍事演習が実施される3月下旬以降の時期に、非常に大きな山が来ることが自明視されていた。

金正恩氏も同じ見方を共有していた。だからピタリとその時期にあわせて布石を打ってきたのだ。そのため、当然、トランプ大統領も、待ち構えていたかのように、即座に呼応した。

北朝鮮政府は、南北首脳会談も提案していたが、実際には米朝会談を先行して実施する可能性を探った。韓国もそれを後押ししたと見るべきだろう。

両国とも、3月になって、アメリカが送っているシグナルに反応することを、何よりも優先させた格好だ。

北朝鮮政府は、不思議な政治体制だが、一応は同じ情勢分析をしている、ということが確認されたことは、大きい。

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半年ほど前に、北朝鮮に対しては、異次元制裁が必要であり(「北朝鮮危機」日本が全外交力を投入して実現すべき一つのこと)、それは体制崩壊の危険性を感じさせるレベルの制裁のことである(北朝鮮問題の現状打開にはこの「圧力」が最も必要だ)、ということを書かせていただいた。

数次にわたる国連安保理の権限をともなった経済制裁や、武力行使前夜を感じさせるアメリカ主導の追加制裁により、かつてない「異次元」性を北朝鮮政府に感じさせることができたのだろう。

それが米朝会談実施につながったことに、疑いの余地はない。金正恩氏は、少なくともこうした事態の進展を理解している。

 

韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は、北朝鮮訪問後、金正恩氏が、「北朝鮮に対する軍事的脅威が取り除かれ、体制の安全が保証されるのであれば核を保持する理由はないとの意思を明らかにした」と述べた。

実は、従来の北朝鮮の政策理論では、「体制保証」は、核保有にともなう核抑止によってこそ果たされるはずであった。

体制保証のためには核放棄が合理的な選択肢になりうる、という考えを金正恩氏に口走らせるところまで追い詰めたのは、経済制裁だ。

そしてその後の武力行使の可能性だ。これらによる体制崩壊の可能性が現実的になったからこそ、金正恩氏は態度を変化させた。

これまでの日本を含む各国の政策は、合理的なものであったことが証明されたのである。

ところが、一部の日本の識者の中には、米朝会談により、日本が孤立するのではないか、などと言っている人がいる。理解できない。