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稲村亜美さん“襲撃事件”は女性への暴力が止まない日本社会の縮図

2018年3月13日 17時30分

ライター情報:勝部元気

YouTubeより

中学生の野球大会開会式で始球式を行ったタレントの稲村亜美さんが、グラウンドで球児の集団から“襲撃を受ける事件”があり、運営側の対応や一部マスコミの報道が炎上しています。

インターネット上で実際の映像を見た人もいると思いますが、群衆がジリジリと稲村さんに詰め寄り、一気に押し寄せる様子は非常に恐ろしい光景です。Twitterでも「気持ち悪い」と憎悪の感情を述べるアカウントが多数ありましたが、当然のことでしょう。

今回は先に結論から述べてしまいますが、この事件は女性への暴力が止まない日本の縮図だと思います。以下のように、中学生自身、大会運営側、芸能事務所、マスメディアのいずれの点においても、女性への暴力に抑止が働いていないわけです。

(1)男子への性教育が崩壊していて、女性への暴力を行うことに歯止めが効かなかった男子がたくさんいる。
(2)重大な事件が起こったにもかかわらず、運営側は大会続行の意思決定をする=女性への暴力の加害性を過小評価している。
(3)芸能事務所が所属する稲村さんの人権や尊厳を守るために毅然とした態度を取ったようには見えない。
(4)マスコミは稲村さんが不問にした対応を「神対応」と表現し、女性への暴力被害を告発しにくい社会を幇助している。


男子への性教育が崩壊している


まず、実際の映像を見て、女性への暴力をいとも簡単に行ってしまう状況にいる日本の男子中学生が、これほどまでに多いという事実をまざまざと見せられて、青ざめた人も多いと思います。

このような“暴動”が起こってしまったのは、やはり「同意なき身体的接触=暴力かつ人権侵害だから悪いこと」という教育が徹底されていないからでしょう。「マナー違反だからやっちゃダメ」程度にしか捉えられていないため、全体でマナーのタガが外れたことで、「みんなでやると悪くない」になってしまったのだと思います。

これは決して教育関係者だけの問題ではありません。男性による女性への暴力が「いたずら」「やんちゃ」と過小評価される社会です。セクハラ等もそれを規制する特別な法律は存在せず、世界各国と比べて対策が甘過ぎます。結局のところ、今回の事件は大人たちが男子の加害性を育ててきた結果起こったことではないかと思うのです。

「男子中学生は“性欲の塊”なのに、アイドルを投入するほうがおかしい」と指摘する人もいましたが、それは全然違います。性欲とは相手の同意があった上で性的なコミュニケーションをしたい欲求であって、相手の同意なくとも接触したいのなら、それは「加害欲の塊」です。また、「稲村さんの服装が問題だった」と指摘する人もいましたが、服装は全く関係ありません。どのような格好をしていようとも、襲うほうが100%悪いのです。

なお、私は中学高校での性教育講演の仕事がピークを迎えている時期なのですが、「男子はオオカミだから(女の子を襲いたくなっちゃうのも仕方ないよね)」みたいな大人の言説を聞いたら、「男というのはそんな暴力的な存在じゃない!」と言えるようになってほしいと伝えています。焼け石に水かもしれないですが、どうか稲村亜美さんを襲った人たちのようには絶対にならないでほしいです。

むしろ本来は女子のためだけではなく、男子の人生のためにも、このような「加害予防教育」を全国で徹底してやるべきでしょう。それもスポットではなく、日常から親や学校が一緒になってしっかりと叩き込んで行く必要があると思います。

運営の大人たちは加害者を甘やかしている


次に、今回最も問題だと思うのが、運営側(日本リトルシニア中学硬式野球協会関東連盟)の事後対応です。既に連盟はお詫びの文章をHPに掲載していますが、これを読んでも自分たちの問題を理解しているとは思えませんでした。というのも、まるで「事前検討」が不十分だったことが炎上の原因かのように書かれているからです。

ですが、今回は事前対応(たとえば警備員の配置等)以上に、事件が起きた後も大会続行の意思決定をしたことや、重大事件なのに炎上するまで公式謝罪なしという事後対応の酷さが批判を浴びているのだと思います。

たとえば、選手が飲酒や喫煙を行ったのなら、チーム全体が参加停止処分になることでしょう。それなのに、集団による女性への暴力というケースでは平然と大会を続行したわけで、それは運営が飲酒や喫煙という他者の直接的な加害ではない行為よりも、女性への暴力の重大性と加害性を軽く見ていることの証左です。

本来“襲撃”に加わった子供たちに自分たちの行った「事の重大さ」を分からせるために、大会は即座に中止するべきでした。それなのに、続行したということは子供たちに対して「あなたたちのしたことはそれほど問題のあることではないですよ」というメッセージを伝えていることと同義です。

先の謝罪文では選手の教育を徹底して猛省を促す旨を宣言していますが、女性への暴力の加害性を甘く見た対応をしてしまう大人たちに、いったい何が教えられるのだろうという疑念しか湧きません。子供は大人を映す鏡です。一番変わらなければならないのは運営の大人たち自身なのを分かっているのでしょうか?

ライター情報: 勝部元気

株式会社リプロエージェント代表取締役社長。社会派コラムニスト。1983年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。専門はジェンダー論や現代社会論等。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。著書『恋愛氷河期』(扶桑社)。所有する資格数は66個。

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