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一般のみなさまへ

子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために

1.子宮頸がんとHPV

1)日本における子宮頸がんの最近の動向はどうなっていますか?

 子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2,900人が死亡しており、患者数・死亡者数とも近年増加傾向にあります。特に、20歳~40歳台の若い世代での罹患の増加が著しいものとなっています。

子宮頸がん説明図

2)子宮頸がんはどのようにして起こるのですか?どのように予防できるのですか?

 子宮頸がんの多くはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因となります。HPVの主な感染経路は性的接触です。HPVはごくありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50%~80%は、生涯で一度はHPVの感染機会があると推計されています。したがって、性交渉の経験のある女性は誰にでも子宮頸がんを発症する危険性があると言えるのです。しかしながらHPVに感染しても多くの人は無症状のまま一過性の感染に終わり、病気を発症することはありません。HPVが持続的に長く感染し続けるごく一部の女性において、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成・上皮内がんという前がん病変を経て、数年程度かかって子宮頸がん(浸潤がん)が発生することがあるのです。
 前がん病変の内に発見して治療を行うことでがんへの進展を防ぐ(二次予防)が子宮頸がん検診(細胞診)です。ただ、頸がんや前がん病変を有する人が検診で陽性を示す割合(感度)は50%~70%と十分に高いとは言えず、がんや前がん病変がある人でも、一定の割合で検診では異常なし(偽陰性)と判定されてしまう危険性があるのです。これに対し、HPVの感染自体を予防して前がん病変・頸がんを発生させないようにする(一次予防)のがHPVワクチンです。現在使用可能なHPVワクチンは頸がんの約6~7割を予防できると考えられています。HPVワクチンと子宮頸がん検診の両方による予防が最も効果的です。

子宮頸がん説明図

3)子宮頸がんの治療法は? 治療後の後遺症にはどんな症状がありますか?

 前がん病変やごく初期の早期がんまでに発見されれば、子宮頸部円錐切除術による子宮温存も可能です。しかしながら円錐切除術はその後の妊娠における早産のリスクを高めたり、子宮の入り口が細くなったり閉じてしまう可能性などのリスクを伴い、将来の妊娠・出産に影響が出る可能性があります。

子宮頸がん説明図
(左図:円錐切除術)
(円錐切除術では子宮頸部を円錐状に切除するだけですので、子宮全摘術と異なり、子宮頸部 の一部と子宮体部は温存されますので、その後の妊娠が可能です。日本では年間10000人程度の方がこの手術を受けておられます。)


 一方浸潤がんに対しては根治手術(子宮や卵巣・リンパ節を広く摘出)や放射線治療・抗がん剤による化学療法が選択されます。子宮頸がんの治療成績はかなり向上してきていますが、依然として進行症例の予後は不良であり、またこれらの治療により救命できたとしても、妊娠ができなくなったり、排尿障害、下肢のリンパ浮腫、ホルモン欠落症状など様々な後遺症で苦しむ患者さんも少なくありません。

2.HPVワクチン

1)日本で承認されているHPVワクチンはどのようなものですか?

 国内で承認されているHPVワクチンは2価と4価の2種類があります。2価ワクチンは子宮頸がんの主要な原因となるHPV16型および18型に対するワクチンであり、一方4価ワクチンは16型・18型および尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対するワクチンです。ワクチンはすでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められません。したがって、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も有効です。

2)HPVワクチンの効果は国内外でどのように示されているのですか?

 HPVワクチン接種を国のプログラムとして早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などの国々では、HPV感染や前がん病変の発生が有意に低下していることが報告されています。これらの国々では、ワクチン接種世代と同じ世代のワクチンを接種していない人のHPV感染も低下しています(集団免疫効果といいます)。また最近のフィンランドの報告によると、HPVに関連して発生する浸潤がんが、ワクチンを接種した人たちにおいては全く発生していないとされています。
 国内においても複数の研究が進行中です。新潟県、大阪府での研究では、ワクチン接種者におけるHPV感染率の低下がすでに示されています。

子宮頸がん説明図
(左図:NIIGATA STUDY中間報告)
(NIIGATA STUDYでは、20~22歳の女性におけるHPV-16型・18型の感染率が、ワクチンを接種していない人では2.2%であったのが、ワクチンを接種している人では0.09%と極めて低率でした。)



 秋田県、宮城県における研究では、20~24歳の女性の子宮頸がん検診において異常な細胞が見つかる割合が、ワクチン接種者では非接種者と比較して有意に少ないことが判明しています。特に宮城県ではワクチン接種者において前がん病変の頻度の減少も報告されています。現在さらなる全国規模のデータも蓄積されており、解析結果が期待されています。

3)HPVワクチンの安全性はどう評価されているのですか?

 WHOは世界中の最新データを継続的に解析し、HPVワクチンは極めて安全であるとの結論を発表しています。一方、HPVワクチンは筋肉注射であるため、注射部位の一時的な痛み・腫れなどの局所症状は約8割の方に生じます。また、若年女性で注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こした事例が頻度は少ないですが報告されているため、接種直後は30分程度安静にすることも重要です。
 平成29年11月の厚生労働省専門部会において、慢性疼痛や運動障害などHPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されておらず、これらは機能性身体症状と考えられるとの見解が発表されています。
 また平成28年12月に厚生労働省研究班(祖父江班)の全国疫学調査の結果が報告されました。これによると、HPVワクチン接種歴のない女子でも、HPVワクチン接種歴のある女子に報告されている症状と同様の「多様な症状」を呈する人が一定数(12~18歳女子では10万人あたり20.4人)存在しました。

子宮頸がん説明図 (左表:全国疫学調査結果)
(HPVワクチン接種歴のない12歳~18歳の女子においても、「多様な症状」を呈する人が10万人あたり20.4人存在することが判明しました。)


4)HPVワクチン接種後に「多様な症状」が現れた場合の治療の現状を教えてください。

 ワクチン接種後に何らかの症状が現れた方のための診療相談窓口が全国85施設(全ての都道府県)に設置されています。また平成27年8月には日本医師会・日本医学会より「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」が発刊され、接種医や地域の医療機関においての、問診・診察・治療を含む初期対応のポイントやリハビリテーションを含めた日常生活の支援、家族・学校との連携の重要性についても明記されました。
 平成29年7月の厚生労働省研究班(牛田班)の報告では、HPVワクチン接種歴があり症状を呈する方に対する認知行動療法と言われるような治療方法の効果に関する解析結果が示され、症状のフォローアップのできた156例中115例(73.7%)は症状が消失または軽快し、32例(20.5%)は不変、9例(5.8%)は悪化したとされました。しかしながら症状の回復しない方がいるのも事実であり、そのような方への治療法は確立していません。

子宮頸がん説明図

 今後も複数の診療科の専門家が連携して治療にあたるとともに、社会全体でこのような症状で苦しんでいる若い女性をしっかり支えていくことが重要です。今後も私どもは、HPVワクチンの接種の有無にかかわらず、こうした症状を呈する若年者の診療体制の整備に、他の分野の専門家と協力して真摯に取り組んでまいります。

5)現在、接種の推奨が中止されているそうですが、実際に接種はできますか?
接種後に重篤な症状がおきたときに、救済制度はあるのでしょうか?

 HPVワクチンは平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種化されました。現在、自治体から接種対象者に接種時期をお知らせしたり、個別に接種を奨めるような積極的勧奨は中断されていますが、定期接種としての位置づけに変化はなく公費助成による接種は可能です。詳しくは平成30年1月に厚生労働省がホームページに公開したリーフレットも参考にして下さい。万一接種後に重篤な有害事象が発生した場合は、予防接種法に基づく救済制度の申請は可能で、因果関係の審査の後、必要な補償が受けられる可能性があります。

3.日本産科婦人科学会のHPVワクチンに関する考え方について教えてください。

 WHOは平成27年12月の声明の中で、若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクにさらされている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことに繋がる現状の日本の政策は、真に有害な結果となり得ると警告しています。日本産科婦人科学会は、先進国の中で我が国に於いてのみ将来多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり命を落としたりするという不利益が生じないためには、科学的見地に立ってHPVワクチン接種は必要と考え、HPVワクチン接種の積極的勧奨の再開を国に対して強く求める声明を4回にわたり発表してきました。私どもは、これからも子宮頸がんとHPVワクチンに関する科学的根拠に基づく正しい知識と最新の情報を常に国民に向けて発信するとともに、子宮頸がんの予防およびこの病気の撲滅を皆様と共に目指していくべきと考えております。

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