軽自動車の排気量アップは不可能!! 軽自動車規格のウラにある"諸事情"とは?

軽自動車の排気量アップは不可能!! 軽自動車規格のウラにある"諸事情"とは?

 軽自動車は660ccの排気量、そしてボディサイズなど厳格な規格のうえで成立している日本オリジナルのカテゴリーだ。しかしどんどん大きくなる軽自動車に対して、660ccという排気量が物足りないなんて感じている人も多いのではないだろうか? 技術的には1Lエンジンにするのはとっても簡単な話だし、排気量アップにはなんの障壁もないように思うが……。しかしそこには根深く残るお話がありました。鈴木直也氏が語ります。

文:鈴木直也/写真:平野学、スバル


■軽自動車の歴史は大型化の歴史

 現在に続く「軽自動車」の規格がほぼ固まったのは1954年。最初にヒット作となったスバル360が生まれたのが1958年。すでに60年以上も続いていて、日本独自のユニークなマーケットを形成している。

 

 この間、軽自動車の規格も何度か変わり、排気量は360cc→550cc→660cc、ボディサイズも全長3m→3.4m、全幅1.3m→1.48mまで拡大されてきた。

 最後の規格変更から今年で20年、最近またぞろ「エンジンもボディサイズももうちょと拡大した方がいいのでは?」と考える人も増えてきたようだ。

現代の軽自動車からするとかなりコンパクトなスバル360。それでも実用性は充分だった
現代の軽自動車からするとかなりコンパクトなスバル360。それでも実用性は充分だった

 たしかに、車重ほぼ1トンの現代の軽自動車に、660ccという排気量はアンバランス。1L程度に拡大したほうが、ドライバビリティはもちろん燃費も向上するだろう。じっさい、アジア新興国向けには、ほぼ軽と同じボディを使いながら800cc〜1Lエンジンを搭載したモデルも存在する。

 

 グローバル基準で適正な排気量/ボディサイズに規格変更すれば、途上国を中心に輸出も増やせるかもしれない。ところが、この問題はそれほど単純な話ではない。

 軽規格の問題を合理的に考るなら、ボディはもうちょっと幅を広げたほうがいに決まってるし、エンジンも1L程度に拡大した方がベター。じつは、そんなことはクルマを造っている当事者はみ〜んな先刻ご承知だ。

 ほんとうの焦点は軽規格のデメリットではなく、むしろメリットの部分。排気量やボディサイズを制限する代わりに与えられている優遇措置にある。

 

■排気量アップがそう簡単にいかないワケ


 これまで何度か軽枠の拡大があったが、その度に問題になったのが「軽枠を拡大して普通車に近づけるなら、税金なども普通車並みに負担すべきだ」という正論。今でこそトヨタも日産もOEMで軽を売っているからこういう発言はしないが、ひと昔前まで軽主力のメーカー(とくにスズキとダイハツ)は、大手メーカーのこういう反応を非常に気にしていた。

 たとえば、価格がほぼ同等のダイハツ車、タントとトールで比較見積もりを取ってみると、諸費用は別表のとおり。10年乗ると概算で24万5000円ほどタントの方が安くなる。

10年間で税金などの維持費だけでこんなにも差が出る
10年間で税金などの維持費だけでこんなにも差がでる

 多少ドライバビリティがよくなっても、この特典を失ったのでは元も子もない。なんといっても、軽の基本的な使い方はご近所の足なんだから、ランニングコストより保有コストの方がより重要。だからこそ「一人一台」という感じで気軽に買ってもらえるのだ。

 こういうデリケートな問題に触れたくないから、ここ20年ほど軽自動車の規格については無風状態。ある意味、寝た子を起こしたくないのである。そもそも論で言えば、モータリゼーション黎明期に自家用車普及促進のために作られた軽規格は、みんながクルマを持てるようになった段階でじょじょに優遇措置を縮小してゆくべきだったのかもしれない。

 ただ、今となってはトゥービッグ・トゥ・フェイル(編註:「破綻させるには大きすぎる」の意)だ。

 軽自動車はいまや日本の新車販売台数の35%弱(170万台以上)を売り上げる重要なプレーヤーに成長し、しかも地方では生活の足として根付いた一種の交通インフラ。いまさら特典を取り上げるなんて政治的にとてもムリ。

 

 2015年春に軽自動車税が7200円から1万800円に引き上げられただけで、軽の販売に急ブレーキがかかって大ブーイングとなったのは記憶に新しい。庶民はこの「保有コスト」というヤツにとりわけ敏感なのだ。だから、ぼくは軽自動車の優遇問題については発想をコペルニクス的に転換すべきだと思う。

現代の軽自動車の装備は充実していてコンパクトカーとの垣根も低くなっている(写真はダイハツムーヴ)
現代の軽自動車の装備は充実していてコンパクトカーとの垣根も低くなっている(写真はダイハツムーヴ)

 すなわち、軽自動車に税制をはじめとする各種優遇措置があるのではなく、それ以外の普通車の税や規制が重すぎると考えるべき。世界的な標準で見れば、税金にしろ保険料にしろ軽自動車のほうが標準に近いのだ。

 だから、軽自動車にまつわるルールを変えるなら、軽の負担を登録車並みにするのではなく、登録車を軽並みの水準に引き下げるのがスジ。

 そうすれば、おのずと排気量もボディサイズもユーザーのニーズに収斂してゆくはずだし、道路の狭さや車庫の事情などで現在の軽サイズを求めるユーザーだって少なからず残る。

 日本のモータリゼーションを元気にするには、保有コストが安いという軽のメリットを普通車(少なくとも1.5Lクラスまで)にも広げるべき。こっちの方が正義だと思うのですがいかがでしょう?

姉妹車や派生車に優劣あり、なし!? 注目の同門車対決 3選
姉妹車や派生車に優劣あり、なし!? 注目の同門車対決 3選

 同じメーカーの車でも、車種が違えば当然、車の中身や見た目が異なる場合が多い。いっぽうで、例えば「インプレッサから派生したクロスオーバーのXV」といったように、車としてかなり近い中身や外見をを持った派生車や姉妹車は近年増加してきている。いっけん、似たように見える同門車にも、さまざまな違いがある!!

文:松田秀士、鈴木直也、国沢光宏/写真:編集部
ベストカー2018年3月10日号


スバルの同門車は“セダンとワゴン”で明確な違いあり

■スバル WRX S4 VS レヴォーグ

 スバル車は多くのモデルでプラットフォームを共用している。現在最も進化しているのはインプレッサ系の「スバル グローバル プラットフォーム」。

 WRX S4とレヴォーグは、これより旧型のプラットフォームを改良したもので、この2車はプラットフォームもエンジン(2L車)もトランスミッションもAWDシステムもまったく同じものを採用している。唯一、違うのは3ボックスのセダンか2ボックスのワゴンというボディ形状だ。

 しかし、この2台の乗り味は明らかに異なるもの。レヴォーグはデビュー当時から、その固められたサスペンションによる乗り心地に対して異論が多かった。

 ホントは、走りが好きだからS4が欲しかったんだけど、レヴォーグ2.0GT-Sのほうが乗り心地もよさそうだし家族もOKを出してくれるだろう。と、レヴォーグを選んだ人、多いはず。しかし、いざ乗り比べると「S4のほうが乗り心地がいい!?」と思ったお父さんも多かったのでは。

 ただし、スバルは反省していた。2017年の改良でサスペンションストロークを延長し、スプリングレートもソフトに振った。同じような改良はS4にも施されたが、レヴォーグのハンドリングと乗り味は大きく変化。

 現在のレヴォーグはWRX S4よりも明らかに優等生の大人。すべてがマイルドだ。

【松田秀士】

WRX S4 2.0GT-S アイサイト/全長×全幅×全高:4595×1795×1475mm、価格:373万6800円
WRX S4 2.0GT-S アイサイト/全長×全幅×全高:4595×1795×1475mm、価格:373万6800円
WRX S4 2.0GT-S アイサイト/全長×全幅×全高:4595×1795×1475mm、価格:373万6800円
レヴォーグ 2.0GT-S アイサイト/全長×全幅×全高:4690×1780×1490mm、価格:361万8000円

同じ車種でも「走りが違う」スイフトのハイブリッド

■スズキ スイフト マイルドハイブリッド VS スイフト ハイブリッド

 標準スイフトのマイルドハイブリッドは、インテグレーテッド・スターター・ジェネレータ(ISG)といって、ベルト駆動の発電機(オルタネータ)をモーターとしても活用するタイプ。もっとも簡易型だから、モーター出力も2kW程度。乗った印象は「アイドルストップからの復帰が滑らか」というくらいで、いわゆるハイブリッドっぽさはほとんどない。

 いっぽうのストロングハイブリッドは、そもそもベースがシングルクラッチの5速AMT(MTをベースとしたAT。スズキでの名称はAGS)で、そこに10‌kWのモーターを追加している。電池容量は100V/4.4Ah(0.44‌kW/h)とミニマムだが、それでも1〜2kmほどのEV走行は可能だ。

それゆえこの両車、走りはぜんぜん異なる。

 マイルドハイブリッドはごく普通だが、ストロングハイブリッドはスムーズなモーターアシスト発進から、MT的にギアシフトしてスピードに乗せてゆく感覚。そして、アクセルオフ時のエネルギー回生などかなり独特。

 万人向けじゃないけど、ぼくはコッチが大好きです。

【鈴木直也】

スイフト ハイブリッドML/全長×全幅×全高:3840×1695×1500mm、価格:162万5400円
スイフト ハイブリッドML/全長×全幅×全高:3840×1695×1500mm、価格:162万5400円
スイフト ハイブリッドSL/全長×全幅×全高:3840×1695×1500mm、価格:194万9400円
スイフト ハイブリッドSL/全長×全幅×全高:3840×1695×1500mm、価格:194万9400円

トヨタとスバル 共同開発車で違いはあるのか?

■トヨタ 86 VS スバル BRZ

 初期モデルでは「滑らせて楽しいのが86。グリップ走行ならBRZ」などと言われてきたものの、今やノーマル車に関していえば同じだと思っていいだろう。どちらも意地を張るのに疲れ&微妙な差でコストアップになるのはツマらんということになったらしい。

 加えてサスペンション交換する人も少なくないため、もはや車種の差と言うより選んだサスペンションの特性になってしまう。標準グレードに関して言えば、好みのブランドをどうぞ。

 されどお互いのスポーツブランドでモデファイされている『GR』と『STI』は、けっこう違う車に仕上がってます。86 GRの場合、走る楽しさを追求しており、狙いはモリゾウさんがラリーの時に乗っている86の味を出すこと。実際、GRMN86とモリゾウさん仕様、けっこう近いという。

 いっぽうBRZ STIスポーツはパフォーマンスの向上に熱意を燃やす。サーキットのラップタイム向上を狙った感じ。まぁこれまた好みの差で決めればいいのかもしれません。

【国沢光宏】

86(6MT)/全長×全幅×全高:4240×1775×1320mm、価格:298万1880円
86(6MT)/全長×全幅×全高:4240×1775×1320mm、価格:298万1880円
BRZ S(6MT)/全長×全幅×全高:4240×1775×1320mm、価格:297万円
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