今回で、この連載コラム「北京のランダムウォーカー」は、400回を迎えました。私が北京駐在員時代に開始して、丸8年が経とうとしています。その間、中国は胡錦濤時代から習近平時代へと、ダイナミックな変化を遂げました。一昨日(11日)にはとうとう憲法も大胆に改正し、習近平政権は2期目の5年に入ります。今後とも、「中国のいま」をお伝えしていきますので、引き続きご愛読、よろしくお願いします。
3月8日、全国人民代表大会で、王毅外相が、年に一度の記者会見に臨んだ。5年の任期を終えて、国務委員に昇格すると目される王毅外相にとって、最後の会見である。
この5年間、王毅外相の発言を聞いていて、「2大特徴」と言えるのが、カッコつけたモノの言い方が多いことと、上司である習近平主席に媚びる表現が多いことだ。自己顕示欲と自己保身精神が混ざり合ったようなその物言いは、独特のものがある。
この日の会見は2時間3分にわたった。私は中国中央テレビのインターネット放送で生中継を見た。発言は大変長いものなので、テーマ別にピックアップしてお届けする。それぞれ発言の後に、私の寸評を入れた。なお、番号は単に発言の順番であり、重要度順ではない。
「(2012年11月開催の)第18回共産党大会以来、習近平同志を核心とする党中央の正確な指導のもとで、われわれは確実に、中国の特色、中国の気概、中国の風格を持った大国外交の道を歩み出した。そしてそれは、国家の主権と人民の利益を維持、保護し、国内の改革開放の大局に奉仕するために重大な作用を発揮し、歴史的な成果を収めてきた。
昨年10月、習近平総書記が第19回中国共産党大会の報告の中で強調したのは、われわれは各国と共に、新型の国際関係を建設していかねばならない、共同で人類の運命共同体を構築していかねばならない、それこそが新時代の中国の大国外交の目標だということだった」
(寸評)いまからちょうど5年前に、習近平政権が出帆した時、習近平主席が強調していたのは、アメリカとの「新型の大国関係」だった。それは、世界の「2大国」としてオバマ政権に承認してほしいという願望を込めたものだった。
だが、2013年にオバマ大統領はこれを無視し、2014年には「認めてもよいがアジアの周辺国と摩擦を起こさないでもらいたい」と注文をつけた。そして2015年以降は、南シナ海問題やサイバーテロ問題などで対立してしまい、「新型の対立関係」などと揶揄される始末だった。
それが、2016年11月、トランプ候補が大統領選でまさかの勝利となったことで、「中国にとって百年に一度の好機到来」(中国の外交関係者)となった。実際、トランプ政権発足後のこの一年あまりで、習近平政権は大いに自信をつけた。一言で言えば、アメリカが自壊していったため、中国の相対的な国際的地位が、急速にアップしていったからだ。
そこで、今度は中国の方がアメリカを無視して、「新型の国際関係」と「中国の大国外交」と言い始めたのである。
「2018年は、19回党大会の精神を貫徹する開局の年であり、中国外交は、習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想に導かれて、新たな行動を起こし、新たな現象を展開するだろう。今年の中国外交がスポットライトを当てるのは、次の4つの主体的な活動においてだ。
第一に、4月に海南島で挙行する「ボーアオ・アジア・フォーラム」で、今年のテーマは「改革開放」。今年はまさに、中国が改革開放政策を取り始めて40周年にあたる。ボーアオで改革開放の成功経験を総括し、新時代の深化した改革を展示し、開放の新たな見通しを拡大させていく。
第二に、6月に青島で挙行する「上海協力機構」(SCO)の首脳会議だ。テーマは「上海精神」の発揚。メンバーを拡大して以降のSCOは、互いの信頼の温もりを重ね合わせ、互利、平等、協商、多様な文明の尊重、共同発展の追求という『上海精神』で、SCOが発展していく壮大な一ページを開くのだ。
第三に、9月に北京で挙行する『中国アフリカ提携フォーラム首脳会議』だ。テーマは『一帯一路』。アフリカ各国の兄弟姉妹たちは、このフォーラムを契機として、全方位的に『一帯一路』の建設に参加していく。そして中国とアフリカの全面的な戦略的パートナーシップ関係に新たな動力を注入していくのだ。
第四に、11月に上海で初めて挙行する『中国国際輸入博覧会』だ。テーマは『市場開放』。中国は世界に向けて両手を広げ、市場の潜在力を示す。各国の参加を歓迎し、発展の新たなチャンスを中国と分かち合おうではないか」
(寸評)ボーアオ・アジア・フォーラムは、「中国版ダボス会議を作れ」という朱鎔基首相の強い意向で、2002年から春に年次総会を始めた。いまや「習近平版ダボス会議」と言った方が正確かもしれない。ダボス会議では発言が完全に自由だが、ボーアオでは習近平批判はタブーである。
SCOは江沢民時代の2001年、中国が初めて音頭を取って始めた国際機構だ。中国、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスの6ヵ国が発足メンバーだが、昨年、インドとパキスタンも加わり、中央アジア一帯の一大国際機構に成長している。王毅外相はこの日、SCOの「結集力、行動力、影響力」の3点を引き上げ、5年以内に「上海協力機構長期友好平和条約」を参加国の間で締結する意向を示した。
中国アフリカ提携フォーラム首脳会議は、前回2006年に北京で開かれた時に取材したが、大変盛況だった。北京の至る所にアフリカの人々が溢れ、チャイナマネーの威力を見せつけられたものだ。何せアディスアベバにあるアフリカ連合(AU)の本部ビルは中国が建てており、いまやアフリカ大陸はチャイナフリカと言われるほどだ。ほとんどのアフリカ諸国のトップが、北京に集まるだろう。
改革開放40周年は今年12月で、それに合わせて中国が輸入拡大に尽力していることを見せるイベントが、中国国際輸入博覧会だ。トランプ大統領が、中国との貿易不均衡を最も声高に叫んでいるに違いない中間選挙の月に持ってきているところがミソである。