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第183話 最強賢者、交渉を見守る
「これ……何ですか? 虫?」
「いや、こいつが全ての元凶、寄生型魔物だ。……初めて見る種類だな」
寄生型魔物はとても体が小さい上に、30種類にもなる隠蔽魔法を自分で生成するため、発見は困難だ。
そのため、宿主を使い潰しても新たな宿主がいれば、寄生型魔物は何度でも復活できる。
前世の時代にも、一匹の寄生型魔物にあやうく滅ぼされかけた国があったくらいだ。
「こんな小さいのが、全ての元凶ってこと?」
「ああ。寄生型魔物の中では、これでも大きい方だけどな」
「こんなの、見つけられませんね……」
そんな話をしていると、遠くから試験官が走ってくるのが見えた。
どうやら試験官も、戦闘終了に気がついたようだ。
「炎に巻き込まれたように見えたが、マティアス達は無事か!?」
「見ての通り、全員無事だ。……それで、ランクはどうだ? Aランク上位として認められそうか?」
「もちろんだ! あの炎や魔物の数を見れば、誰だって納得する!」
走ってきた試験官が、そう言って周囲の焼け野原を見渡す。
それから、思い出したように言った。
「ランクを上に認めさせるのに、証拠として魔物の素材が必要だから、用意しておいてくれ。……ボスの素材はどこだ?」
「ボスの素材……これでいいか?」
そう言って俺は、寄生型魔物の死骸を取り出す。
武器の素材としては使えないが、魔道具や魔法薬の材料としてはかなり優秀……というか、特殊な用途に使える素材だ。
今後使う機会があるかもしれないので、できれば手元に持っておきたかったが……ランクアップのためなら仕方ないな。
そう考えながら、俺は素材を取り出したのだが……。
「な、何だこれは? まさかこれが、さっきの炎を起こしたとか言わないよな?」
寄生型魔物を見て、試験官は困惑の表情を浮かべた。
なんとなくは予想していたが、やはりそうか。
こんな小さいのが全ての元凶だなんて、寄生型魔物についての知識がないと分からないよな……。
「魔物が強化された元凶は、全てこの魔物だぞ。……ダメか?」
「マティアスが言うなら本当なんだろうが、ダメだな。こいつを持って行ってSランク級だと言われても、鼻で笑われるだけだ」
うーん、ダメか。
まあ、寄生型魔物はこいつに限らず、極めて強力な隠蔽魔法を持っているからな。
今の魔法技術では発見できず、正体不明の魔物大発生として記録されているのかもしれない。
そもそも、普通の魔物が強化されたという発想にさえ至らない可能性もある。
「そいつじゃなくていいから、もっと目立つのはないのか? 本体じゃなくていいから、Aランク上位だと言い張れる素材だ」
「そうだな……これはどうだ?」
そう言って俺は、寄生型魔物の宿主となっていたフレイム・リザードの素材を取り出す。
生前はなかなか強そうだったのだが、生命力を全て『魔生の炎』に注ぎ込んでしまった後なので、だいぶ質が落ちている。
「Aランク下位くらいには見えるが……上位となると難しいな。戦闘を見てれば一発だったんだが」
やはり、ダメか。
寄生型魔物についての認識が広まっていないと、強さを分かってもらうのが難しいようだ。
戦闘を見ていた試験官はともかく、ギルドの偉い人にそれを分からせなければ、昇格はできないのだろう。
「……だが、マティアスには街を守ってもらった恩がある。厳しい条件だが、できる限りの交渉をしよう。即時昇格は無理でも、試験を短縮するくらいはできるかもしれない」
そう言って試験官が、素材を見つめる。
この試験官の言葉にどのくらいの力があるかは分からないが、Bランク昇格試験を任されるくらいなのだから、ギルドからはけっこう信用されているはずだ。
ここは、試験官に任せてみるか。
失敗しても、何か損をする訳じゃないし。
「頼んだ」
「任せてくれ。少しでも譲歩を引き出してみせるさ」
◇
それから、数時間後。
俺達は無事にギルドへと戻り、支部長への結果報告に立ち会うことになった。
「試験官ヤルドより、試験の結果報告です。Bランク以上と推定される新種の大型魔物86匹以上の討伐、および平原の安全性を確認し、試験は合格としました」
「了解した。凄まじい討伐数だな。……昇格おめでとう」
そう言って俺達のカードが、ランクBへと書き換えられる。
どうやら強化された蛇型魔物は、新型魔物としての扱いになるようだ。
……試験官、ヤルドって名前だったんだな。
さて、Bランク昇格の方はすんなり通った。
問題はここからだ。
「それで、Aランク昇格試験についてなのですが」
「ああ。この討伐数であれば、すぐにでもAランク昇格試験を――」
「いえ、超高ランク魔物の討伐による、即時昇格を提言します」
帰りに聞いた話だと、この提言は通らない前提らしい。
ここを起点にして、できる限りの譲歩を引き出すのが狙いらしい。
上手くいけば、普通は最低でも1ヶ月かかる試験を、2週間程度まで短縮できるという話なのだが……。
「……正気か?」
「今回の平原の異変は、全て一匹の魔物による影響でした。その魔物の力は最低でもAランク上位、実際には恐らくSランク級の魔物だと思われます」
「……それを、たった4人で討伐したと? 事前準備もなしに?」
そう言って支部長は、訝しげな目で試験官ヤルドを見る。
「はい。私が確認しました」
「強いとは聞いているが、にわかには信じられんな。……素材は?」
「こちらです」
そう言って試験官ヤルドが、強化されたフレイム・リザードの素材を差し出す。
寄生型魔物の素材は、出すと逆効果になりそうなので、今は出さない。
「……Sランクはおろか、Aランク上位にも見えんな。Aランク下位から、せいぜいAランク中位だろう」
「素材だけ見ると、そうなのですが……実際に俺は、この魔物がSランクに近いレベルの戦いをしているの見ました」
試験官ヤルドの言葉を聞いて、支部長が難しい顔をする。
疑っているというより、対処に困っているような雰囲気だ。
「ヤルドの今までの貢献を考えると、信じたくはあるのだが……あまりにも証拠に乏しい。私が頷いたところで、ギルドの上が納得しないだろう。他に何か証拠はないのか?」
「テストラ平原に、その際の戦闘による焼け跡と大量の魔物の死体があります」
「……ギルド職員を確認に向かわせよう。だが、その状況だけでは証拠に乏しいな。その死体に、Aランク上位の魔物が混ざっている訳じゃないんだろう?」
「数はすさまじいですが、Aランク上位はいません」
「ふむ……それだと、説得の材料としては弱いか……」
こうして、昇格の交渉は順調とはいいがたい感じで進んでいき、最終的には翌日へと持ち越されることとなった。
翌日の朝の会議で、結果が決まるらしい。
……いい結果が出ることを祈っておこう。
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