【元ロシア・スパイ】使用された神経剤はロシア製=英首相

メイ英首相はこの事件に対するロシアの関与を指摘し、断固とした措置を取ると述べた
Image caption メイ英首相はこの事件に対するロシアの関与を指摘し、断固とした措置を取ると述べた

英南西部ソールズベリーで今月4日にロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)に神経剤が使われたとされる殺人未遂事件に関して、テリーザ・メイ首相は12日、ロシアで開発された軍用レベルの神経剤が使用されたことを明らかにした。この事件には「高い確率で」ロシアが関わっていたと指摘している。

メイ首相は国家安全保障会議の後に下院で、「英国の地で軍用レベルの神経剤が使われたことは単なるスクリパリ氏に対する攻撃ではない」 と指摘。「これは英国に対する無差別で無謀な攻撃であり、市民の命を危険にさらした」と述べた。

また、秘密兵器研究所ポートン・ダウンでの調査により、スクリパリ氏らに使用された神経剤はノビコック剤と呼ばれる種類であることが判明した。メイ首相によると、ロシア政府は過去にノビコック剤を生産しており、現在も可能だという。

メイ首相は「この事件はロシアによる英国への直接的攻撃か、ロシア政府が大惨事を起こす可能性の高い神経剤を制御できず、第三者の手に渡ってしまったかのどちらかだ」としている。

英外務省は駐英ロシア大使を召喚し、説明を求めている。またボリス・ジョンソン外相は大使に対し、ノビコック剤に関する「漏れのない完全な」情報を化学兵器禁止機関(OPSW)に開示するよう要求した。

メイ首相は13日中に「信頼性の高い回答」が得られなかった場合、この事件をロシアによる「違法の武力行使」とみなし、14日の下院でこの件に関するより広範囲にわたる措置を発表すると説明している。

この件に関してはアンバー・ラッド内相も、13日に危機管理委員会(COBRA)の会合を開き、進展について協議する予定。

セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんは現在も入院している Image copyright EPA/ Yulia Skripal/Facebook
Image caption セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんは現在も入院している

ロシアを名指ししたことについて同首相は、「ロシアは過去に国家主導で暗殺を実行したことがあるほか、ロシアが亡命者の何人かを暗殺対象とみているとの調査結果」が元になっていると話した。

一方、野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、英露間の緊張がこれ以上高まらないよう、「骨のある対話」が必要だと述べた。コービン党首はまた、保守党がロシアの富豪から資金提供を受けていると指摘している。

諸外国とロシアの反応

レックス・ティラーソン米国務長官は英国の見解を支持し、ロシアが関与している可能性が高いとコメント。

「われわれは、この犯罪の首謀者と実行者が適切な厳罰に向き合うべきだということで一致した」と語った。

「米国は英国と共にあり、引き続き緊密に対策を練っていく」

メイ英首相の報道官によると、同首相は12日にエマニュエル・マクロン仏大統領と会談し、「ロシアの広範囲にわたる攻撃的な態度について協議し、引き続き同盟国が一丸となりこれを追及していくこのが重要との見解で一致した」

北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、あらゆる神経剤の使用は「恐ろしいことで、決して認められるものではない」と述べ、英国と連絡を取っていると明らかにした。

英政府は、この事件はNATOが集団的自衛権を行使する条約第5条には当たらないとしている。ただ英国の元国家安全顧問ピーター・リケッツ卿は、「NATOと欧州連合(EU)の後ろ盾を持ったより広い」対抗措置の方が効果が高いだろうと指摘している。

「プーチン(露大統領)をノックアウトすることはできないだろうが、抵抗し、仲間を増やすことはできる」

一方、ロシア外務省のマリア・ザカロバ報道官は、メイ英首相の発言を「英議会のサーカスショー」と批判した。

「結論は明らか。これは挑発による情報と政治の作戦にすぎない」

ウラジーミル・プーチン大統領は先に、BBCがロシアの関与について質問した際、「まずは事の真相を突き止めろ。話し合いはそれからだ」と述べた。

BBCのローラ・クンスバーグ政治担当編集委員によると、ジョンソン英外相とアレクサンデル・ヤコベンコ駐英ロシア大使の会談は「冷静だが緊張感があった」と話した。2人は握手を交わさず、ジョンソン外相は英国民がこの件について「激怒」していると述べたという。

スクリパリ氏の自宅でも捜査が続いている
Image caption スクリパリ氏の自宅でも捜査が続いている

スクリパリ氏とユリアさんは、ソールズベリーにあるショッピングセンターの外のベンチで倒れているところを発見された。2人を真っ先に助けようとしたニック・ベイリー刑事巡査部長は重体で入院したままだが、家族と会話しているという。

スクリパリ氏はロシアの退役情報将校で、英情報部MI6に機密情報を提供していた罪で2004年にロシアで有罪となっているが、スパイ交換によって釈放され、2010年から英国で生活していた。

英政府は11日、2人が倒れる前にいたパブやレストランを当日や翌日に利用した人約500人に、所持品を洗うよう呼びかけた。スクリパリ氏とユリアさんが食事をしていたイタリア・レストラン「ジッジ」のチェーン店やソールズベリーのパブ「ザ・ミル」のテーブルから神経剤が検出されたためで、両店舗は現在も閉鎖されている。

ソールズベリーでは12日も警察と英陸軍による活動が続いており、現場から約10キロ離れたウィンタースローで防護服を着た隊員が捜査対象車両を撤去する姿も見られた。このほか、スーパーのセインズベリーの駐車場も閉鎖された。

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【元ロシア・スパイ】 同じパブにいた男性 不安を語る
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ノビコック剤とは?

  • ノビコックはロシア語で「新参者」を意味し、1970年代から80年代にかけてソビエト連邦が秘密裏に作った神経剤グループを指す
  • そのうちのひとつ「A230」はVXガスの5~8倍の殺傷能力を持ち、数分で人を死に至らしめる
  • ノビコック剤は液体あるいは固体だとみられる。ノビコック剤のいくつかは、毒性の低い2種類の化学物質の状態で保存され、混ぜ合わせて殺傷性を高める「バイナリー兵器」だと考えられている
  • ノビコック剤のうち1種は化学兵器としてロシア軍での使用が許可されているという
  • これらの情報はロシアからの亡命者によって明らかにされた
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(英語記事 Highly likely Russia behind spy attack - PM

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