メディアにはそれぞれ思想バイアスがかかっているので、その前提でニュース速報や解説記事を読まなければならない。
ところが、日本のメディアが海外メディアの報道をそのまま引用する時、出典元の海外メディアはどの思想タイプなのか分からず、バイアスを鵜呑みにしてしまうことがある。
そこで、欧米メディアのタイプ分けをいくつかご紹介しよう。
♣目次
- メディアバイアスの軸とタイプ分け
- メディアバイアス分類と信頼度調査(PEW)
- 主要メディア紹介
- CNN
- Fox News
- NPR
- NBC
- PEW以外の分類(保守派、中道派)
♣バイアス軸とタイプ分け
おおざっぱには、上図のような4象限でバイアス分類されることが多いようだ。上下は権力に対する依存度、左右は集団主義 vs. 個人主義。
- 右上(Classical Conservatism): 強い国家&強い個人主義(カリスマ主導政治)
- 右下(Social Conservatism): 弱い国家&強い個人主義(リバタリアン、無政府主義)
- 左上(Social Liberalism): 強い国家&強い集団主義(間接民主主義、暴民政治)
- 左下(Classical Liberalism): 弱い国家&強い集団主義(集産主義的無政府主義)
♣アメリカ市民とメディアに関する調査(PEW)
右に行くほど保守、左に行くほどリベラルという分類だ。保守で有名なのがFox News(アメリカ共和党支持報道が多い)。リベラルで有名なのが、CNN(アメリカ民主党支持報道が多い)。
この図は分かりづらいが、「どのメディアをメインに参照してますか?」という問いへの回答だ。ベージュ色がアメリカでアンケートに答えた全市民の平均値。ワイン色は、リベラル(左寄り)~保守(右寄り)の思想タイプ別に、どのメディアを参照しているかクラスター分析した結果。
Source: “Political Polarization & Media Habits” by Pew Research Center (Oct. 2014)
総合第1位: CNN(16%)
アメリカのニュース専用放送局(ケーブル&衛星TV)。
Cable News Networkの略。朝から晩までずっとニュース。タイム・ワーナーの系列子会社。
報道内容はリベラル寄りと言われ、リベラル~中道の視聴者からの支持が高い。
トランプ大統領が「フェイクニュース」としてCNNを槍玉にあげることが多い。
総合第2位: Fox News(14%)
アメリカのニュース専用放送局(ケーブル&衛星TV)
21st Century Fox系列子会社。
共和党でメディアコンサルの経験がある人物をCEOに迎え、1996年に創業。以来、共和党支持で有名なニュースTV局だ。
総合4位: NPR(5%)
全米900のラジオ局を束ねる非営利組織
メディアの民営化に伴い、1970年にラジオはNPRに、テレビはPBSに。NPRのイメージはアメリカ版NHKラジオ。
車社会アメリカでは未だラジオのプレゼンスが高く、2009年時点で週1回以上NPRを聴いた人数は2億人を超えるとされる。ラジオ以外にポッドキャスト配信も行う。
リベラル寄りの思想で知られる。
メディアの信頼度
縦に並ぶのはメディア名。色分けは、ワイン色が信頼できると回答した人数>信頼できない人数、グレー色は信頼できる=信頼できない、山吹色は信頼できる<信頼できない。
主要メディアに絞って、信頼度の数値を表記すると・・・
- バリバリのリベラル: NPR、PBS、英国BBCなど公共性の高いメディアを信頼
- ややリベラル: CNN、NBC、ABCなど露出の高いテレビ局を信頼
- 保守: Fox Newsほぼ1択
- リベラル・保守不問: The Wall Street Journal、The Economistなど経済紙を信頼
という結果になった。
続いて上図は、「どのメディアが信頼できませんか?」という問いの結果だ。
- リベラル(民主党支持): Fox Newsが大嫌い
- 保守(共和党支持): MSNBCとNBC Newsが大嫌い
という結果になった。
NBCとは?
MSNBCは、IT企業マイクロソフト(MS)とアメリカ3大TV局の一角NBCによって共同設立されたニュース専門TV局だ。
NBCの大株主はComcastで、Comcast傘下(つまりNBCの兄弟会社)には、ユニバーサル(映画)、ユニバーサルスタジオ(遊園地)、USA Network(娯楽総合TV局)、CNBC(ニュース専用局)が含まれる。
♣PEW以外のメディア分類(参考程度に)
やや主観が入っていて、分類が雑にも感じるが、Pew Research Center以外が提示する分類結果もどうぞ。
♠保守派David Horowitz氏
Source: “Viral Chart Claims to Fight Fake News, Promotes Biased Media” by Truth Volt (Project Initiated by The David Horowitz Freedom Center)
先述のPew Research Center調査結果は、政治思想に比較的中立なシンクタンクで、調査レポートの精度にも定評がある。
一方こちらのDavid Horowitz主宰組織は、ホロウィッツ氏が保守なので、ややバイアスがかかりやすい。
上図は、左がリベラル、右が保守。上が信頼度高、下が信頼度低という分類だ。
ホロウィッツ氏の視点だと、リベラル派が大好きなCNNはSensational or Click Bait(扇動的またはウェブクリック誘導的)と分類されている。さすがにもう少し信頼度を高くしてあげてもいいと思うが・・・。
♠中道派Sheryl Attkisson氏
Source: “Media Bias: A New Chart” by Sheryl Attkisson (Apr. 2017)
アトキッソン氏は3年間CNN、その後21年間CBSで報道担当し、報道分野のエミー賞も受賞しているベストセラー・ノンフィクション作家。
CNN、CBSともにリベラル寄りのメディアだが、アトキッソン氏本人は中道で、事実に徹した報道に定評がある。CBSを2014年に退社したのは、CBSがリベラル寄りバイアスがかかっていて、報道姿勢に疑問を感じたからとの説もある。
なお上図は、左(リベラル)と右(保守)をざっくり分類しただけで、右端だから極右、左端だから極左、上だから信頼できるという意味はない。単にロゴを貼り付けるスペースの問題のようだ。
ただし、下に行くほどニュース報道よりは、バラエティ寄りだったり中小のメディアと言えるが。
♣ちなみに筆者は・・・
私が日頃、どのようなメディアに触れているかと言うと、
- CNN(リベラル、アメリカ)
- Huffington Post(リベラル、アメリカ)
- The Economist(やや保守、イギリス)
- The Financial Times(やや保守、イギリス)
- BBC(リベラル、イギリス)
- The Guardian(リベラル、イギリス)
- AFP(中道、フランス通信社)
あたりだろうか。
CNNとThe EconomistはPodcastが充実しているので、定期的にオーディオ視聴。
他はネット検索して複数メディアがヒットしたら、まずはなるべくイギリスメディアから参照するようにしている。また、世界三大通信社(AP、ロイター、AFP)のうち、国際情勢に関してはフランスAFPを優先して参照する。
なぜなら、どうしても日本のメディアに接していると、アメリカ経由のニュースに触れる機会が多く、「そもそも何をニュースに取り上げるべきか?」がアメリカ寄りの発想になってしまうリスクがあるから。
どう書くかの前に、何を書くかの時点でバイアスがかかってしまうんだよね。
次回は、アメリカ主要ニュースTV番組の視聴率比較について、ブログを書こうかな。