「群雄割拠」論再考 -2011.3環境の「面白さ」を問う-
0.はじめに
こんにちは!お久しぶりの方はお久しぶり,初めましての方は初めまして,16bonbonです。このたび縁あって休日の息抜きにゲートボールにいそしむこととなり,それに伴いまして期間限定でブログを開設し,記事を執筆することになりました。拙い筆運びではありますが,この記事が読者の皆様の糧となり,ひいてはゲートボール文化振興の一助になることを願ってやみません。
はじめに,簡単に自己紹介をしておきましょう。自分のメイン活動期は2010.9-2012.9の2年半で,チャリオットさん率いる池袋勢,Linksさん率いる東陽町勢などが主なコミュニティでした。CSに持ち込んだ主なデッキはTokyoデブリ,墓地BF,墓守,暗黒界,TG天使,インゼクター,ラヴァル,ガジェット,カオスなどで,罠ビートからパワーデッキ,イロモノ・ローグの類,自作アーキまで,ジャンルを問わずその時々で最も良いと考えたものを選択してきました。自分と面識のある人はおそらくガジェットの印象が強いでしょうが,一般的には「bonbonカオスの人」と認識されているかもしれません。魔道・征竜環境を見る前に大学入試のため引退し,東大に入ってから一瞬復帰した(プトレヒーロー環境)のですが,将棋とMTGを始めたためすぐにフェードアウト。現在に至るという感じです。
2011.3環境は2012.9環境と並ぶ「群雄割拠」の時代で,古き佳き遊戯王を懐かしむ人に対して魅力的な環境として有名です。そこで,小稿では「群雄割拠」を切り口に,ゲートボールの魅力を考えてみたいと思います。
さて,一般に競技としてTCGを捉える際,その「面白さ」とは「ゲーム性の高さ」を意味しています。「競技としてゲーム性が高い」とは,ざっくり言えば「強いやつが勝つゲームである」ということであり,ゲーム性の高さは主に「選択肢の多さ」「運要素の多寡」の2点によって規定されていると考えられます。順番に見ていきましょう。
1.選択肢の多さ(=技術介入の余地の広さ)
誰が座っても同じ結果になるゲームが勝負事として面白いはずがありません。プレイヤーの取れる選択肢の多さは常にゲーム性を測る指標の一つとなっていますが,ひとくちに選択肢といってもTCGの場合には大きく2つの差別化ポイントがあります。
(1)デッキ選択の自由度
デッキ選択の自由度はTCGプレイヤーが重視する「面白さ」のポイントの一つであり,様々なデッキに活躍の余地が与えられた「群雄割拠」の環境はしばしば理想的なものとみなされます。確かにTCGにおいてデッキ選択による差別化は重要なポイントであり,これが極端に失われるとTCGのウリであるゲームの多様性が失われてしまいかねません。ただし,いわゆる「メタ読み」に比重が置かれることはゲーム性を損なう危険性も孕んでおり,デッキ選択の自由度が高いことが必ずしもゲーム性の高さに直結するとは限らないという問題も存在します。この点は次章で詳述します。
(2)プレイの自由度
プレイスキルが勝敗に大きな影響を及ぼすのがゲームとして健全な状態であるという認識は,TCGに限らずあらゆる勝負事の世界で広く共有されています。2011.9環境の覇者であるTG天使はプレイング難易度が高く,ミラーマッチも含めて非常に腕が出るデッキでした。そのため,2011.9環境は「群雄割拠」ではなかったものの,技術介入の余地は十分に確保されていたと言え,同時代的に人気があったことも首肯し得ます。
2.運要素の多寡
運要素はTCGを語る上で切っても切り離せません。将棋のように運要素を極力排除するのもゲームとして一つの在り方ですが,適度な運要素はゲームに変化をもたらし,ゲームの定跡化を防ぐことで「生の思考」の賞味期限を延ばすというプラスの効果も持っています。
運要素の負の側面は言うに及ばず,プレイヤーの力量とゲームの勝敗の関係を歪める点にあります。六武の門,血の代償,異次元からの帰還,ハリケーンといったオーバースペックなカードたちの前に,なすすべなくデッキを畳んだという経験を持っていない方はおそらく一人もいないでしょう。そうしたゲームが,短期的に見て面白いはずがありません。ただし,運要素は短期的に見て理不尽な勝敗をもたらしたとしても,長期的には収束します。そのため,時には理不尽な負けを喫することもあれば,時にはイージーウィンを達成することもあり,長い目で見れば強いプレイヤーの勝率は高いパーセンテージに落ちつくことがほとんどです。
とはいえ,あまりに理不尽なゲームが頻繁に発生するようでは考えモノであることも事実。運要素は適量が大切なのです。では,TCGにおける運要素とはどのようなものがあるのでしょうか。
(1)配牌,ツモの運
これは自明でしょう。相手の強力なトップデッキによって負けたり,あるいは強烈な初手の事故によって身動きできずに負けたりといったことは,TCGの常です。これらの「不運」は使用しているデッキの性質による部分もあるので,一概にすべてを「運」とくくってしまうのは乱暴なのですが,「群雄割拠」と関連しない論点なのでひとまずこの点は棚上げしておきましょう。
(2)対戦ペアリング,メタゲームの運
小稿のテーマ,「群雄割拠」の功罪を考えるにあたって,メタゲームの有する不確定性を議論の俎上に載せることは必然です。小規模なイベントであれば属人的な分析からメタゲームをある程度の確度で予測することは可能ですが,一般的に言ってメタゲームの予測には不確定性がつきまといます。それはプレイヤーの「予測力」の無さによるというよりも,どういう人が参加するか,参加者はどんな思考・性格を持っているのかといったメタゲームそれ自体の「偶然」性に由来しています。
MTGのスタンダード環境は有力なアーキタイプが2,3種類しかないということが多く,およそ「群雄割拠」からは遠いですが,裏を返せば「メタゲーム外し」による大敗は発生しづらく,プレイスキルによって成績が規定されやすいということでもあります。一方で多種多様なアーキタイプがひしめくモダン環境はまさしく「群雄割拠」であり,メタゲームを予測することは殆んど不可能です。そのため,イベントで対戦した相手が偶然自分の選択したデッキにとって不利であったという状態は殆んど「不運」と評価してよく,「群雄割拠」であることが負の運要素となってゲーム性を低下させてしまっているケースが存在するのです。
3.2011.3環境の「面白さ」
以上のような点を踏まえて2011.3環境の「面白さ」を考えてみましょう。
(1)非拡散的な「群雄割拠」
先ほど例示したMTGのモダン環境では,順当にクロックを刻むゲームプランを取るフェアデッキ(≒罠ビート)の他に,多種多様なアンフェアデッキがあります。手札からコストを踏み倒して強力なフィニッシャーを展開するものがあったり,墓地を利用したコンボデッキがあったり,呪文を連打してワンショットキルを行うものがあったりと,アンフェアデッキも一枚岩ではなく,どれも弱点となるポイントに差があります。さらにいずれも高速のデッキであるため,逐一対策するよりも自分の強力な動きを押し付けるデッキ選択をした方がよいという結論に落ち着きがちです。
一方で2011.3環境は,「群雄割拠」であることは変わらないものの,もう少し踏み込んで考えてみると,それがアナーキーなメタゲームにつながる拡散的な「群雄割拠」とは異なることが分かります。以下に自分の主観に基づく環境分布を載せてみましょう。
- Tier1
TG天使
- Tier2
デブリジャンド,TG代償ガジェ
- Tier3
ヒーロー,六武衆
- Tier4
墓地BF,wakaガジェ,暗黒界,カラクリ,スキドレTGなど
ここに挙げたものもあくまで一例に過ぎず,このほかにも多くのローグデッキが十分にトーナメントレベルで通用する地力を有しています。まさに「群雄割拠」です。しかし,これらは大まかに次のように分けることができるのではないでしょうか。
- 高速展開・ワンショット系
六武衆,カラクリ,TG天使
- 墓地コンボ系
デブリジャンド,暗黒界
- 罠ビート系
TG代償ガジェ,ヒーロー,wakaガジェ,墓地BF,スキドレTG
実際にはどんなデッキもこのように単純化することはできません(とくに墓地BFやヒーローなどはこの分類だと一意に定まりません)が,この分類はあくまでもモデルであり,論旨と関係がないので,分類それ自体には深入りしません。ここで強調しておきたいのは,アーキタイプ自体は多種多様であっても,それぞれのとるゲームプラン,およびそれに伴うメタカードがある程度収束しているということなのです。参考までに表にして示せば,
- 高速展開・ワンショット系
激流葬,神の警告,トラゴエディアなど
- 墓地コンボ系
D.D.クロウ,転生の予言,イビリチュア・メロウガイストなど
- 罠ビート系
サイクロン,砂塵の大竜巻,サイバー・ドラゴン,スノーマンイーターなど
といった具合に。環境に存在するあらゆるデッキが拡散的すぎる場合(たとえば「六武衆にはパペットプラントしか効かない」「暗黒界には暗闇を吸い込むマジックミラーしか効かない」といった具合のケースが10も20もある場合)では,「群雄割拠」は競技性を低下させるはたらきをしますが,2011.3環境はその例には当てはまらないと言えるのではないでしょうか。
(2)プレイ選択肢の多さ
そもそも遊戯王というゲームは他のTCGに比べてテンポの概念が非常に緩く,手数を多く繰り出せるためプレイの選択肢が広がりやすい性質を帯びています(他TCGではしばしば「マナ」概念が用いられるため,手数に制限がかかりプレイ選択肢が制限されます)。この性質はともすれば凶悪なコンボデッキを生み出してしまうためインフレを抑えるのが難しいという難点がありますが,健全なカードパワー水準でコントロールされている限りにおいてはプレイスキルを強く反映する魅力的なシステムだと言えます。
さて,2011.3環境は基本的に低速環境です。いま懸念されたような極端なインフレは発生しておらず,伝統的な罠ビート同士のアドバンテージゲームは長いターン数をかけた攻防になることも珍しくなく,どの脅威に対してどの罠をあてるべきか,あるいは罠を温存すべきかといった択が無数に発生します。恐らく「罠デッキが使いたい!」というゲートボール愛好家も多いのではないでしょうか?
一方で,TG天使やデブリジャンドといったパワーデッキも無尽蔵の展開力を有しているわけではなく,仕掛けるタイミングや罠の踏み方,ライフ管理,コンボの選択などが複雑で,いずれもピーキーな性質を持ち高度なプレイスキルを要求されるという特徴があります。
(3)環境の処女性
実際の2011年3月から8月にかけての6カ月間に存在していた環境と,かもめ亭ルールにおける2011.3ゲートボール環境との間の差異も,「面白さ」にアクセントを加えています(この点はいつか稿を改めて書きたいと思っています)。簡単に言えば,
①2011.3当時はTG天使が「発明」されていなかったこと
②(かもめ亭ルールでは)先行ドローがなくなったこと
の2点が想像以上に大きな差異をもたらしているということなのです。2011.3当時の環境トップは六武衆とデブリジャンドでしたが,①によりTG天使に相性の悪いデブリジャンドが失速し,②により六武衆が弱体化したため,環境の勢力関係図が根本から書き換わってしまいました。それによって六武やジャンドに不利とされていた雑多な罠デッキも息を吹き返し,ローグデッキとしてはスクラップやラギア,旋風BFなどを見かけます。また,純正の代行者を使用する人口が極端に減少したため,サイドボーディングプランも大きく変更されています。そのほか,TG天使の陰に隠れてあまり注目されていませんが,同じく環境終盤に出現したTG代償ガジェも大きな変更因子になっていることは見過ごせません。
4.むすびにかえて
最後にかもめ亭ルールを持ち上げたことで何だかカイザさんの回し者みたいになってしまった感もありますが,小稿でゲートボール2011.3環境の「面白さ」の一端をお伝えすることができたのならば,これにまさる喜びはありません。乱筆失礼いたしました。
皆さん,ゲートボールしましょう!
こんにちは!お久しぶりの方はお久しぶり,初めましての方は初めまして,16bonbonです。このたび縁あって休日の息抜きにゲートボールにいそしむこととなり,それに伴いまして期間限定でブログを開設し,記事を執筆することになりました。拙い筆運びではありますが,この記事が読者の皆様の糧となり,ひいてはゲートボール文化振興の一助になることを願ってやみません。
はじめに,簡単に自己紹介をしておきましょう。自分のメイン活動期は2010.9-2012.9の2年半で,チャリオットさん率いる池袋勢,Linksさん率いる東陽町勢などが主なコミュニティでした。CSに持ち込んだ主なデッキはTokyoデブリ,墓地BF,墓守,暗黒界,TG天使,インゼクター,ラヴァル,ガジェット,カオスなどで,罠ビートからパワーデッキ,イロモノ・ローグの類,自作アーキまで,ジャンルを問わずその時々で最も良いと考えたものを選択してきました。自分と面識のある人はおそらくガジェットの印象が強いでしょうが,一般的には「bonbonカオスの人」と認識されているかもしれません。魔道・征竜環境を見る前に大学入試のため引退し,東大に入ってから一瞬復帰した(プトレヒーロー環境)のですが,将棋とMTGを始めたためすぐにフェードアウト。現在に至るという感じです。
2011.3環境は2012.9環境と並ぶ「群雄割拠」の時代で,古き佳き遊戯王を懐かしむ人に対して魅力的な環境として有名です。そこで,小稿では「群雄割拠」を切り口に,ゲートボールの魅力を考えてみたいと思います。
さて,一般に競技としてTCGを捉える際,その「面白さ」とは「ゲーム性の高さ」を意味しています。「競技としてゲーム性が高い」とは,ざっくり言えば「強いやつが勝つゲームである」ということであり,ゲーム性の高さは主に「選択肢の多さ」「運要素の多寡」の2点によって規定されていると考えられます。順番に見ていきましょう。
1.選択肢の多さ(=技術介入の余地の広さ)
誰が座っても同じ結果になるゲームが勝負事として面白いはずがありません。プレイヤーの取れる選択肢の多さは常にゲーム性を測る指標の一つとなっていますが,ひとくちに選択肢といってもTCGの場合には大きく2つの差別化ポイントがあります。
(1)デッキ選択の自由度
デッキ選択の自由度はTCGプレイヤーが重視する「面白さ」のポイントの一つであり,様々なデッキに活躍の余地が与えられた「群雄割拠」の環境はしばしば理想的なものとみなされます。確かにTCGにおいてデッキ選択による差別化は重要なポイントであり,これが極端に失われるとTCGのウリであるゲームの多様性が失われてしまいかねません。ただし,いわゆる「メタ読み」に比重が置かれることはゲーム性を損なう危険性も孕んでおり,デッキ選択の自由度が高いことが必ずしもゲーム性の高さに直結するとは限らないという問題も存在します。この点は次章で詳述します。
(2)プレイの自由度
プレイスキルが勝敗に大きな影響を及ぼすのがゲームとして健全な状態であるという認識は,TCGに限らずあらゆる勝負事の世界で広く共有されています。2011.9環境の覇者であるTG天使はプレイング難易度が高く,ミラーマッチも含めて非常に腕が出るデッキでした。そのため,2011.9環境は「群雄割拠」ではなかったものの,技術介入の余地は十分に確保されていたと言え,同時代的に人気があったことも首肯し得ます。
2.運要素の多寡
運要素はTCGを語る上で切っても切り離せません。将棋のように運要素を極力排除するのもゲームとして一つの在り方ですが,適度な運要素はゲームに変化をもたらし,ゲームの定跡化を防ぐことで「生の思考」の賞味期限を延ばすというプラスの効果も持っています。
運要素の負の側面は言うに及ばず,プレイヤーの力量とゲームの勝敗の関係を歪める点にあります。六武の門,血の代償,異次元からの帰還,ハリケーンといったオーバースペックなカードたちの前に,なすすべなくデッキを畳んだという経験を持っていない方はおそらく一人もいないでしょう。そうしたゲームが,短期的に見て面白いはずがありません。ただし,運要素は短期的に見て理不尽な勝敗をもたらしたとしても,長期的には収束します。そのため,時には理不尽な負けを喫することもあれば,時にはイージーウィンを達成することもあり,長い目で見れば強いプレイヤーの勝率は高いパーセンテージに落ちつくことがほとんどです。
とはいえ,あまりに理不尽なゲームが頻繁に発生するようでは考えモノであることも事実。運要素は適量が大切なのです。では,TCGにおける運要素とはどのようなものがあるのでしょうか。
(1)配牌,ツモの運
これは自明でしょう。相手の強力なトップデッキによって負けたり,あるいは強烈な初手の事故によって身動きできずに負けたりといったことは,TCGの常です。これらの「不運」は使用しているデッキの性質による部分もあるので,一概にすべてを「運」とくくってしまうのは乱暴なのですが,「群雄割拠」と関連しない論点なのでひとまずこの点は棚上げしておきましょう。
(2)対戦ペアリング,メタゲームの運
小稿のテーマ,「群雄割拠」の功罪を考えるにあたって,メタゲームの有する不確定性を議論の俎上に載せることは必然です。小規模なイベントであれば属人的な分析からメタゲームをある程度の確度で予測することは可能ですが,一般的に言ってメタゲームの予測には不確定性がつきまといます。それはプレイヤーの「予測力」の無さによるというよりも,どういう人が参加するか,参加者はどんな思考・性格を持っているのかといったメタゲームそれ自体の「偶然」性に由来しています。
MTGのスタンダード環境は有力なアーキタイプが2,3種類しかないということが多く,およそ「群雄割拠」からは遠いですが,裏を返せば「メタゲーム外し」による大敗は発生しづらく,プレイスキルによって成績が規定されやすいということでもあります。一方で多種多様なアーキタイプがひしめくモダン環境はまさしく「群雄割拠」であり,メタゲームを予測することは殆んど不可能です。そのため,イベントで対戦した相手が偶然自分の選択したデッキにとって不利であったという状態は殆んど「不運」と評価してよく,「群雄割拠」であることが負の運要素となってゲーム性を低下させてしまっているケースが存在するのです。
3.2011.3環境の「面白さ」
以上のような点を踏まえて2011.3環境の「面白さ」を考えてみましょう。
(1)非拡散的な「群雄割拠」
先ほど例示したMTGのモダン環境では,順当にクロックを刻むゲームプランを取るフェアデッキ(≒罠ビート)の他に,多種多様なアンフェアデッキがあります。手札からコストを踏み倒して強力なフィニッシャーを展開するものがあったり,墓地を利用したコンボデッキがあったり,呪文を連打してワンショットキルを行うものがあったりと,アンフェアデッキも一枚岩ではなく,どれも弱点となるポイントに差があります。さらにいずれも高速のデッキであるため,逐一対策するよりも自分の強力な動きを押し付けるデッキ選択をした方がよいという結論に落ち着きがちです。
一方で2011.3環境は,「群雄割拠」であることは変わらないものの,もう少し踏み込んで考えてみると,それがアナーキーなメタゲームにつながる拡散的な「群雄割拠」とは異なることが分かります。以下に自分の主観に基づく環境分布を載せてみましょう。
- Tier1
TG天使
- Tier2
デブリジャンド,TG代償ガジェ
- Tier3
ヒーロー,六武衆
- Tier4
墓地BF,wakaガジェ,暗黒界,カラクリ,スキドレTGなど
ここに挙げたものもあくまで一例に過ぎず,このほかにも多くのローグデッキが十分にトーナメントレベルで通用する地力を有しています。まさに「群雄割拠」です。しかし,これらは大まかに次のように分けることができるのではないでしょうか。
- 高速展開・ワンショット系
六武衆,カラクリ,TG天使
- 墓地コンボ系
デブリジャンド,暗黒界
- 罠ビート系
TG代償ガジェ,ヒーロー,wakaガジェ,墓地BF,スキドレTG
実際にはどんなデッキもこのように単純化することはできません(とくに墓地BFやヒーローなどはこの分類だと一意に定まりません)が,この分類はあくまでもモデルであり,論旨と関係がないので,分類それ自体には深入りしません。ここで強調しておきたいのは,アーキタイプ自体は多種多様であっても,それぞれのとるゲームプラン,およびそれに伴うメタカードがある程度収束しているということなのです。参考までに表にして示せば,
- 高速展開・ワンショット系
激流葬,神の警告,トラゴエディアなど
- 墓地コンボ系
D.D.クロウ,転生の予言,イビリチュア・メロウガイストなど
- 罠ビート系
サイクロン,砂塵の大竜巻,サイバー・ドラゴン,スノーマンイーターなど
といった具合に。環境に存在するあらゆるデッキが拡散的すぎる場合(たとえば「六武衆にはパペットプラントしか効かない」「暗黒界には暗闇を吸い込むマジックミラーしか効かない」といった具合のケースが10も20もある場合)では,「群雄割拠」は競技性を低下させるはたらきをしますが,2011.3環境はその例には当てはまらないと言えるのではないでしょうか。
(2)プレイ選択肢の多さ
そもそも遊戯王というゲームは他のTCGに比べてテンポの概念が非常に緩く,手数を多く繰り出せるためプレイの選択肢が広がりやすい性質を帯びています(他TCGではしばしば「マナ」概念が用いられるため,手数に制限がかかりプレイ選択肢が制限されます)。この性質はともすれば凶悪なコンボデッキを生み出してしまうためインフレを抑えるのが難しいという難点がありますが,健全なカードパワー水準でコントロールされている限りにおいてはプレイスキルを強く反映する魅力的なシステムだと言えます。
さて,2011.3環境は基本的に低速環境です。いま懸念されたような極端なインフレは発生しておらず,伝統的な罠ビート同士のアドバンテージゲームは長いターン数をかけた攻防になることも珍しくなく,どの脅威に対してどの罠をあてるべきか,あるいは罠を温存すべきかといった択が無数に発生します。恐らく「罠デッキが使いたい!」というゲートボール愛好家も多いのではないでしょうか?
一方で,TG天使やデブリジャンドといったパワーデッキも無尽蔵の展開力を有しているわけではなく,仕掛けるタイミングや罠の踏み方,ライフ管理,コンボの選択などが複雑で,いずれもピーキーな性質を持ち高度なプレイスキルを要求されるという特徴があります。
(3)環境の処女性
実際の2011年3月から8月にかけての6カ月間に存在していた環境と,かもめ亭ルールにおける2011.3ゲートボール環境との間の差異も,「面白さ」にアクセントを加えています(この点はいつか稿を改めて書きたいと思っています)。簡単に言えば,
①2011.3当時はTG天使が「発明」されていなかったこと
②(かもめ亭ルールでは)先行ドローがなくなったこと
の2点が想像以上に大きな差異をもたらしているということなのです。2011.3当時の環境トップは六武衆とデブリジャンドでしたが,①によりTG天使に相性の悪いデブリジャンドが失速し,②により六武衆が弱体化したため,環境の勢力関係図が根本から書き換わってしまいました。それによって六武やジャンドに不利とされていた雑多な罠デッキも息を吹き返し,ローグデッキとしてはスクラップやラギア,旋風BFなどを見かけます。また,純正の代行者を使用する人口が極端に減少したため,サイドボーディングプランも大きく変更されています。そのほか,TG天使の陰に隠れてあまり注目されていませんが,同じく環境終盤に出現したTG代償ガジェも大きな変更因子になっていることは見過ごせません。
4.むすびにかえて
最後にかもめ亭ルールを持ち上げたことで何だかカイザさんの回し者みたいになってしまった感もありますが,小稿でゲートボール2011.3環境の「面白さ」の一端をお伝えすることができたのならば,これにまさる喜びはありません。乱筆失礼いたしました。
皆さん,ゲートボールしましょう!