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2011.3環境分析(1) -安定性と「前後問題」-

 1.2011.3環境における「安定性」
 今回は「2011.3環境におけるデッキの安定性とは何か」という問いを設定し,これを考えることをテーマとしました。それと同時に,2011.3環境分析と絡めてクリーチャーデッキと罠デッキの考え方の違いも析出したいと思います。さっそく環境の有力なデッキの安定性を主観に基づいて図示してみましょう。

  - とても安定している
  wakaガジェ,カラクリ,六武衆
  - やや安定している
  デブリジャンド,TG天使
  - やや事故が多い
  ヒーロー,TG代償ガジェ,墓地BF
  - とても事故が多い
  暗黒界,スキドレTG


 「事故」をどう定義するかという点で留保が必要でしょうが,概ねこのような分布になっていると思います。クリーチャーデッキの「事故」とは,(天使の球体問題など若干の例外はありますが)ありていに言えば「動けない」にほぼ近似できる状況です。ジャンドならソーサラーやスポーアなどばかり抱えてライコウやカードガンナーなどを引かないという状況ですね。一方で罠デッキの「事故」とは,単に「動けない」ことを指すのではありません。例えばメタビートの初手において,「ライオウ,ライオウ,ブレイカー,増援,強制脱出」は明らかに「事故」と言うべきです。これはクリーチャーデッキと罠デッキの「動く」の定義の差に由来しています。クリーチャーデッキの場合は複数枚のクリーチャーのシナジーなどが機能して初めて「動いている」と評価されるのに対し,罠デッキはビートダウンを基本とするため,単にクリーチャー単体を召喚するだけで一応は「動いている」と評価されてしまいます。つまり,後者の方が「動く」のハードルが低いのです。しかし罠デッキの場合,単に「動いている」だけではゲームプランが機能しているとは言えません。ビートダウンによって8000点を削り切るためにはクリーチャーをバックアップする防御札,除去札が必要だからです。また,「警告,警告,月の書,デュアルスパーク,ミラクルフュージョン」も明らかに「事故」と言うべきであり,これは先ほどの例とは逆に擁立すべきクロックがないために罠が役割を持てないケースです。要するに,罠デッキの場合は「前」と「後ろ」をバランスよく引き合わせる必要があり(以下,「前後問題」),しかもそのハードルは思っているよりもずっと高いのです。

 2.具体的な分析
 サーチカードが多い展開デッキであるカラクリや六武衆は特筆すべき安定性を有していると言えます。もっとも先行ドローがないため往年の安定性を維持するには後手を選択する必要がありますが,ナチュビやシエンといった「蓋」を含む2ターンクロックであれば罠は1枚でも十分強力ですし,結束や解体新書,ブレイド等が絡む展開では追加のドローがありますから,「前後問題」もさほど目立ちません。
 また,wakaガジェは罠デッキではありますが,「前」にガジェットを採用することで少ない枚数でも持続的なクロックを確保することに成功しており,「前」不足「後ろ」過多の「前後問題」が発生しづらくなっている点がポイントです。6ガジェであるためガジェット固有の「ガジェ被り」問題も目立たず,ガジェットの動きと相性は悪いものの「ガジェ被り」対策になるマシンナーズを採用することで,安定性には万全を期しています。
 次点でTG天使やジャンドといったクリーチャーデッキが名を連ねます。TG天使は代行者を引けない「代行者問題」がネックではありますが,仕掛けのターンまでにヴィーナスが準備できればよいので,低速デッキに対して「代行者問題」で敗北することは少ないでしょう。一方でジャンドは事故のブレ幅が大きく,稀に全く動けない悲惨な事故が発生することもありますが,TG天使と違ってスタート札の制限が少なくあらゆる角度から動き始めることができるため,見た目ほど不安定ではありません。
 下位に入っていくと,ヒーローや墓地BFといった罠デッキが多くなってきます。これらのデッキは「前後問題」に加えデュアルスパークやグレファーといった専用パーツがあるため,罠デッキでありながら疑似的な「代行者問題」を抱えているのが泣き所です。TG代償ガジェはwakaガジェ同様前後問題には比較的耐性がありますが,9枚のガジェットによる「ガジェ被り」問題を解決する手段は基本的にブリューナクと血の代償のみで,やや不安が残ります。
 最下層のデッキは「前後問題」もコンボギミック問題も強く抱えています。暗黒界はバニラクリーチャーによる罠ビートが主軸ですから「前後問題」が大きくのしかかることに加え,グラファを墓地に落とした上で下級暗黒界を召喚しなければなりませんから「前」を複数枚要求します。さらに暗黒界の門はサイクロンや砂塵の大竜巻で妨害されてしまうなど,ギミックそのものも不安定です。スキドレTGはガジェと同様に「前後問題」には耐性がありますが,TGガジェやマシンガジェのようなクリーチャーでの盤面解決を完全に放棄してコンバットトリックまで含めた罠のみで補完しているため,「後後問題」が発生してしまっています。特に「前」が単体で戦闘スペックを保有していない中でのスキドレは大きな不安定要素であり,バルバロスなどを投入するのが安定した選択だとは思われません。

 3.「前後問題」の風化
 このように,伝統的な罠ビート系のアーキタイプにおいて「前後問題」は重要なテーマであり,「前後問題」という命名こそなされていなかったものの,この問題は2011.3当時から認識されていました。しかし,その後時間が経つにつれ「前後問題」は風化していくことになったのです。その歴史を追ってみましょう。
 2011.9はTG天使の時代でしたが,ラギアやヒーロー,ガジェットといった罠デッキも健在でした。神秘の代行者アースの存在は罠デッキに対して「前後問題」を強烈に認識させ,インゼクターの登場はその流れに拍車をかけたと言えます。2012.3環境ではインゼクターがさらにシェアを伸ばしており,環境に残った罠デッキが除去の多いヒーローと「前後問題」に強いガジェットであったことは,場に残したままにできないインゼクターの性質を思わせます。対インゼクター用サイドカードとしては大成仏やオーバースペックといった除去カードが当然用いられましたが,さらに環境理解が進んでくると,特にミラーマッチを中心に最終兵器としてヴェルズ・サンダーバードが採用され始めるに至りました。インゼクターに対してサンダーバードが強いという感覚は,まさに「前後問題」の典型であると言えます。
 インゼクターが弱体化し群雄割拠が進んだ2012.9では,「前後問題」は後景化することとなりました。既にガジェットは4エクシーズとしてジャイアントハンドなどの「蓋」を獲得していましたし,新たに登場したヴェルズはオピオンという前代未聞のロッククリーチャーを擁していたため,インゼクターのような強烈なインパクトがなくなれば「後ろ」抜きでも「蓋」をすることが可能でした。また,そもそも「蓋」が必要になるような打開力の高いデッキが減少したこともあり,クリーチャーデッキの側でもくらうどさんの罠0ヒーローや拙作の罠0カオスのように,ワンショット一辺倒のプランではないにも関わらず「後ろ」を放棄するというアプローチがとられ始めるようになりました。
 これよりあとの環境は私の詳しく知るところではありませんが,徐々にエクストラデッキのクリーチャーたちのなかに「前」と「後ろ」を兼ね備える者が増え始めたという大まかな傾向は指摘できると思います。シャドールのミドラーシュもそうですし,エクストラデッキではないですが魔導のジョウゲンシステムも同じ平面に捉えることができましょう。そして,プトレマイオス・プレアデス・インフィニティの天下は,このカードゲームにおける「前後問題」の終焉を確かに告げたのです。
 「前後問題」はゲートボール環境のエッセンスの一つです。当時罠デッキを手にこの問題に悩んだあなたなら,その苦悩と「面白さ」を共有できるのではありませんか?
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