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第182話 最強賢者、攻撃を受け止める
「……効くか?」
そう言って俺は、空を見上げる。
すると、空を埋め尽くす魔物の間から、魔石が落ちてくる様子が見えた。
そして魔石が魔物の間に隠れて見えなり、数秒後。
ちょうど魔石が地面に落ちたタイミングで、周囲の魔物の動きが急に遅くなった。
どうやら、一発で上手くいったようだ。
「どんどん作って投げ込んでくれ!」
「分かりました!」
そう言ってルリイが量産した魔道具を、イリスがどんどん投げ込む。
すると、周囲の魔物が次々に動きを止めていく。
そうして……ほとんど動かなくなった魔物の中で、魔物が一匹だけ動いていた。
「……さて、ようやく戦えるか」
巨大化した魔物の中でもひときわ大きな、トカゲの魔物だ。
恐らく元々はフレイム・リザードだったのだろうが、寄生型魔物による強化の影響で、もともとの姿は見る影もない。
極限まで強化された手足と、長く伸びた牙。
今の見た目は、どちらかというと一種のドラゴンに近いだろう。
この強化具合からして、体の硬度もドラゴンと同じレベルにまで達しているはずだ。
だがドラゴンとは違って、無理矢理に行われた強化には歪みがあり、必ず弱点ができる。
俺は『完全探知』でその弱点を探り、剣に数種類の強化魔法を乗せて斬りつけた。
「ガアアアアァァァ!」
耳障りな音を立てて、フレイム・リザードが叫ぶ。
俺の剣は、フレイム・リザードの脚の一本を綺麗に切り落としていた。
だが……。
「あっ、脚が!」
脚を切り落とされた魔物を見て、アルマが叫ぶ。
理由は、一目見れば明らかだ。
切り落とされた脚のあった場所から、新たな場所から新たな脚が生えてきたのだ。
そして、俺に攻撃を仕掛けてくる。
フレイム・リザードが反撃までに必要とした時間は、せいぜい半秒。
俺は新たな脚の攻撃を、後ろに跳んで回避する。
「再生した!?」
「これ、どうやって倒すの……? 無敵なんじゃ……」
その様子を見て、ルリイ達が驚きの声を上げる。
新たに生えてきた脚は、元々生えていた脚と遜色ない……いや、それ以上に強靱そうだ。
初めて再生する魔物を見た者にとっては、ほとんど無敵に見えてもおかしくないはずだ。
だが、魔物の回復力は有限だ。
無理な再生を続ければ、魔石が過負荷で砕けて宿主は死ぬ。
まず間違いなく、俺の魔力が尽きるよりも早く。
だが……どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
「ガ……ガァァ……」
フレイム・リザードが不気味な声を出しながら、ゆっくりと首を持ち上げる。
そして、前世で何度か見た覚えのある魔法が、魔物の体内で生成されていた。
――『魔生の炎』。
ドラゴンのブレスに近いが、似て非なるもの。
宿主となる魔物の生命と全魔力を消費して破壊力に変える、寄生型魔物の真骨頂ともいえる魔法だ。
「……そう来たか」
『魔生の炎』は魔物の命を原料に魔力を生成するという点が特殊なだけで、基本的には魔力を炎に変換して叩きつけるだけの、きわめて原始的な術式だ。
そのため、あまり術式が洗練されていない。
だからこそ、ドラゴンのブレスと違って、少しくらい術式のバランスを崩したくらいでは無効化することができない。
はじめから自滅前提なので、本体を倒したところで『魔生の炎』は消えたりしない。
発動までに1秒ほど時間がかかるため、避けるのは簡単だが……寄生型魔物が狙っているのは、俺ではなくその後ろにいるルリイ達だ。
こうすれば、俺が避けられないのを承知の上で狙っているのだろう。
正攻法で勝てないとなれば、躊躇なく切り札を切る。
それも、最も効果的な形で。
……まったく、魔物にしておくのがもったいないくらいの判断力だ。
どうやら、受け止めるしかないらしい。
「な、何ですかあれ!?」
「何かヤバそう!」
フレイム・リザードの異常な魔力に、ルリイ達も気付いたらしい。
今の残り魔力は、最大値のおよそ半分。
まあ、何とかなるか。
「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!」
フレイム・リザードの断末魔の叫びとともに、直径10メートルにも及ぶ炎の球が放たれる。
これがただの炎であれば楽なのだが、残念ながら違う。
防御なしに受け止めれば、人間など灰も残らないだろう。
このような攻撃を前に、いくら『完全探知』で術式の構成を読んでも無意味だ。
「全員、動かないでくれ!」
俺はルリイ達に指示を出しつつ、防御魔法を展開する。
これだけの威力の魔法を、正面から打ち消すのは不可能だ。
そう考えつつ、俺は防御魔法を展開する。
ごく小さい面積に大量の魔力を集中させた、対魔法用の防御魔法だ。
そして、炎が俺を襲った。
一瞬ごとに、周囲の温度が上がっていくのが分かる。
そうして耐えること、数秒後。
ようやく炎が途切れて、周囲が見えるようになる。
平原は、見渡す限りの焼け野原になっていた。
周囲を埋め尽くしていた魔物たちも、巻き込まれて全滅だ。
そんな中――俺とルリイ達3人がいる場所だけが、ピンポイントで焼け残っていた。
もちろん、そうなるように防御魔法を調整したのだが。
「全員、無事だな?」
「はい!」
「結構熱かったけど、大丈夫!」
俺達が安否確認をする中、全ての力を使い果たして痩せ細ったフレイム・リザードが、ゆっくりと崩れ落ちる。
その頭部は自ら放った『魔生の炎』に焼かれて白骨化しており、以前の姿など見る影もない。
「えっと……よく分からないけど、倒したってこと?」
「ありえない量の魔力が見えた気がしますけど……もしかして、自爆攻撃ですか?」
「ああ。自爆攻撃だ。……まあ、本体は無事なんだけどな」
そう言って俺は、トカゲの足下の、何もないように見える空間を炎魔法で焼き払う。
炎が収まった後、そこには5センチほどの、小さなコガネムシのような形の魔物が転がっていた。
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