田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
学校法人「森友学園」(大阪市)に関する問題は、朝日新聞の報道を契機にして、近畿財務局だけではなく財務省本体を巻き込んだ政治スキャンダルに大きく発展した。12日、国会に提出された報告書には、近畿財務局が作成した決裁文書を含む14の文書で書き換えがあり、そのうち一つは昨年の情報公開法による開示請求後に行われたものだという。その書き換えは本省理財局職員の関与である。これは重大な問題だ。
特に注目すべきなのは、「佐川忖度(そんたく)」ともいえる財務省の闇だ。開示請求後の文書書き換えが一点あり、その書き換えの内容は、「近畿財務局と森友学園の籠池泰典理事長(当時)の交渉に関するメモ。籠池氏と価格交渉したと受け止められかねない部分」である。これは昨年の国会で当時の佐川宣寿(のぶひさ)理財局長(前国税庁長官)の「事前交渉はなく、また記録も残っていない」とする趣旨の証言につじつまを合わせるために行われたという。
一つの文書を書き換えたために、他の文書も整合性をとるために理財局の職員が次々と書き換えたらしい。このことを当時の理財局長であった佐川氏が知らないわけはないだろう。いわば財務省の理財局あげての書き換え問題である。情報公開法の本旨にも逆らう行為であるし、また別な罪にも問われる可能性が大きいのではないか。
もともと日本の官僚組織は、情報やタイムスケジュールをコントロールすることで、政治的な利益を得てきた。タイムスケジュールのコントロールには、官僚が政治家に比べて地位が長く安定的なため、政治家を事実上「使い捨て」できるメリットもあげられる。例えば、財務省は消費増税を狙い、時の橋本龍太郎、野田佳彦両政権を「捨て駒」にしてでも政治家に責任を負わせ、あとは増税という事実上の果実を得たまま組織を無傷で守った。
また、新聞やテレビなどとは長期的な暗黙の契約ともいえる関係を築いてきている。だからこそ、情報のコントロールはさらに露骨かつ大胆である。例えば、東日本大震災のときに、財務省は、まだ甚大な影響を見通せないころから、災害対策として増税路線の採用をいち早くメディアを通じて仕掛けてきたのである。この増税路線という情報操作は、政治家やメディアを巻き込みながら、復興増税という形で決着した。そしてこの復興増税は、民主党と自民党・公明党の三党の連携に道筋をつくり、やがて消費増税として結実する。大胆でまた非情なやり口である。
このような財務省のやり口は、経済評論を行う問題意識のある論者には大きく共有されていた。特に日本の長期停滞をもたらした元凶は、財務省と昔の日本銀行のタッグであったことは明瞭である。日本は長期停滞した間、雇用の悪化に伴って自殺者が長期的に急増するなど、経済的困窮だけではなく、実際に死者さえも出している。だが、そんなことは財務省という「ムラ社会」の前ではなんの問題でもないのだろう。まさに非情で闇の組織だ。あえていえば、たかだか受験競争で試験ができるだけで、これだけの権威と過大な権力を与えることが正しいとはまったく思えない。日本のエリート養成の失敗でもあるだろう。