高校の英語教科書も<文法偏重> から<4技能重視>へ

高校の新学習指導要領が、近く告示されます(3月15日までパブリックコメント=意見公募手続)。全面実施されるのは2022年度入学生(17年度の小学5年生)からで、「大学入学共通テスト」(21年1月から)もこの学年が大学を受験する年(25年1月)に合わせて見直されます。
注目点の一つは、外国語(英語)で4技能(聞く・読む・話す・書く)を総合的に育成することが、いっそう重視されることです。これに伴って<文法偏重>と言われてきた教科書も、大きく変わりそうです。

指導要領が求める授業と大学入試にギャップ

新指導要領の外国語では、文法事項の指導は「過度に文法的な正しさのみを強調したり、用語や用法の区別などの指導が中心となったりしないよう」配慮すべきだとクギを刺したうえで、教材は「文法事項などを中心とした構成とならないよう十分に留意」することを求めています。
ここで言う教材には当然、「主たる教材」である教科書が含まれます。
現行の指導要領には、教材に関する言及はありませんでした。なぜ、こんな表現が盛り込まれたのでしょうか。

4技能を指導することは、現行指導要領でも同じのはずです。4技能をフルに使ったコミュニケーション能力の育成を重視する姿勢を明確に示すため、従来の英語I~IIという科目名を「コミュニケーション英語」I~IIIに変えたほどです。さらに、「授業は英語で行うことを基本とする」ことも明記されました。

しかし実際の大学入試では、大学入試センター試験で「聞く」(リスニング)は入っているものの「読む」(筆記)が中心で、個別試験の多くも「読む」「書く」に限定して出題されることがほとんどです。そのため高校の授業も、大学入試対策を意識して文法事項に力を入れざるを得ず、学年が上がるほど4技能を活用した言語活動が低調になっているのが実態です。本来は積極的にコミュニケーションを図る態度を育成するはずの「英語表現」I・IIでさえ、教科書が文法重視になっていると指摘されるほどです。

授業も外部検定も国際的な基準に合わせて

新指導要領では、「コミュニケーション英語」を「英語コミュニケーション」に変更しました。「コミュニケーション」と「英語」をひっくり返しただけのようにも見えますが、そこには、どうにかしてコミュニケーション能力の育成を重視する姿勢を徹底したいという意思を読み取ることができそうです。

また、現行の「英語表現」や「英語会話」は、「論理・表現」I~IIIに替わります。交渉やスピーチ、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッションといった言語活動を通して、英語による発信力を強化する科目です。
今回の改訂では、小中高を通して、4技能を「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の5領域に分けたことも見逃せません。外国語学習の国際的な基準であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)に合わせたものです。共通テストの英語4技能評価はGTECなど外部の英語資格・検定試験を活用することになっていますが、これらの外部検定もCEFRに準拠しています。
今回の改訂は、「入学者選抜」も含めた高大接続改革の中で行われることも大きな特色です。生徒の側も、従来の「大学入試」のイメージを変える必要があるでしょう。

(筆者:渡辺敦司)

※学校教育法施行規則の一部を改正する省令案及び高等学校学習指導要領案に対する意見公募手続(パブリックコメント)の実施について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/02/1401394.htm

※2016年度 英語教育実施状況調査(高等学校)の結果
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/07/1384236_02_1.pdf

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

※2017年4月に小学生が利用した学校・参考書・問題集以外の学習法の利用率を調査。文部科学省「H28年度学校基本調査」の児童数を用い利用者数を推計。比較した事業者は矢野経済研究所「2016年版 教育産業白書」をもとに選定。(調査委託先:(株)マクロミル、回答者:小学生のお子様を持つ保護者6,331名、調査期間:2017/5/26〜29、調査手法:インターネット調査)

 

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