プーチン時代、「終わりの始まり」

最後の6年は内憂外患か

  • 名越 健郎

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2018年3月13日(火)

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平昌オリンピックのメダリストに勲章を授与するプーチン大統領(中央)。左は金メダルを獲得したアリーナ・ザギトワ選手、右は銀メダリストのエフゲニア・メドベージェワ選手(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアの大統領選が3月18日に行われる。4選を目指すプーチン大統領をはじめ計8人が立候補しているが、世論調査機関、レバダ・センターが2月8日に公表した調査では、プーチン大統領に投票すると答えた人は71%に上り、圧勝の見通し。波乱のない退屈な無風選挙となりそうだ。プーチン大統領にとって、次の6年が最後の任期となるが、既に体制のピークは過ぎており、内外政策ともに厳しい6年になりそうだ。

宴のあと

 前回2012年の大統領選は、モスクワで10万人規模の反プーチン・デモが行われるなど逆風の選挙で、大統領は勝利集会で涙を流していた。その後、プーチン政権は強硬な外交安保政策を推進し、ウクライナ危機ではクリミア半島を併合。シリア空爆にも着手し、米国に対抗する世界戦略を展開した。「固有の領土」を取り戻したクリミア併合は国民の圧倒的な支持を受け、大統領の支持率は一時90%近くに達した。

 だが、クリミア併合から4年を経て、当時の熱狂も冷めつつある。レバダ・センターの最近の調査では、「ロシアの予算をクリミア支援に使うのは誤りだ」と答えた人は55%に上った。59%は「平和的な外交政策の推進」を支持し、プーチン流世界戦略を暗に批判。65%は「ロシアは旧ソ連構成国を支配すべきでない」と答えた。長引く不況や生活苦が、対外拡張路線の足かせとなりつつあるようだ。

 政権側が大統領選を3月18日に設定したのは、この日がクリミア併合4周年に当たるためで、愛国主義を想起させ、大統領支持に結集させる狙いがある。

 ロシアの女性政治学者、リリア・シェフツォワ氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(2月12日)に寄稿し、ロシアで古いシステムが温存され、改革が進まない理由として、①1991年の体制崩壊に伴う混乱への恐怖②リベラリズムはロシアでは悪評高いイデオロギー③ウクライナの混乱④主権維持への使命感――を挙げ、「ロシア人はまだ、専制政治による腐敗の方が、民主化に伴う混乱よりも悪いと決め付けられない」と書いた。プーチン大統領がしばしば「ウクライナのようになりたいのか」と述べるのは、国民の恐怖心に訴える効果がある。

内政が優先

 とはいえ、プーチン大統領にとって最後の6年は内憂外患となるかもしれない。プーチン体制下で資源依存経済がすっかり定着し、産業多角化や中小企業育成に失敗した。2015、16年とマイナス成長で、17年は1%台のプラスに転じたが、すっかり低成長時代に入った。

 原油価格が上昇傾向にあるのは好材料だが、政府は財政赤字解消のため、増税や年金支給年齢引き上げを検討しており、プーチン大統領自身、年末の記者会見でその可能性に言及した。過去5年間で国民の給与や消費は減少し、貧困層も増えた。長期政権に対する国民の閉塞感は確実に高まっている。

 プーチン陣営は今回の選挙で、医療改革、教育、汚職対策、収入増、年金改革、出生率向上など主に内政課題をテーマに掲げている。年末の会見で、「何のために選挙に出るのか」との質問に、「社会保障の分野により注意を払い、国民の収入を上げたい」と答えていた。 内政重視は、経済苦境に伴う国民の不満に配慮したものだ。

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