書体の選択が、デザインの出来を左右することがあります。それはウェブや印刷物などのページや、文章、単語に当てはまりますし、実際にはたった1文字であっても、書体によって良くも悪くも見えてしまう程です。Comic Sans(コミックサンズ)が嫌いな人々に意見を聞いてみれば分かります。
1世紀以上にわたり、デザイナーたちは書体の重要性を十分に意識してきました。じっくりと考え抜かれたフォルムを持つ数々の書体がたどってきた歴史は、まさに驚きに値します。例えば、Futura(フーツラ)という書体は、“未来”を意味するその名にふさわしく、誕生から90年を経た今でも、変わらずに活用されています。このフォントの作り手たちは制作の課程において、単に「良いデザイン」を目指した訳ではありませんでした。彼らは最大限に効率的な社会、すなわちユートピア(理想郷)の創造を目指していたのです。
この書体にまつわる物語をご紹介しましょう。
26+ Zeichen: Edelsans
1922年、ドイツ人のヤコブ・エアバー教授がGeometric Sans Serif(ジオメトリックサンセリフ)という書体を作り出しました。この書体は、多大な影響力を誇るデザイン学校であるバウハウスの思想に基づき、装飾や特徴的な要素を廃し、純粋に機能性を追求したものです。そのフォルムは、すべての書体の構成要素として最も基本的な、円をベースにしています。そして、読みやすいことこの上なく、書体の本来の機能をしっかりと果たしています。
バウハウスのデザイナーたちは、フォルムと機能が、装飾や乱雑さ、装飾的な過去の再来といったものを一掃した世界を信じていました。その世界においてのみ、社会的平等が真に実現されると彼らは考えていたのです。それはさしずめ、デザインによる理想郷と言ったところでしょう。
Futura light(フーツラ・ライト)、Futura regular(フーツラ・レギュラー)、Futura semibold(フーツラ・セミボールド)の各書体:Paul Renner (Wikipediaより)
バウハウスの正式メンバーではありませんが、ドイツ人のパウル・レナ―という書体デザイナーは、バウハウスの教義を信じており、エアバー教授の書体をより良いものにできると考えました。そしてレナ―は1927年に、Futuraを生み出しました。
この書体は、幾何学的形態(ほぼ完全な円、三角形、四角形)を全面的にベースにしたフォルムで、線のウェートとコントラストはほぼ均一です。また、小文字は非常に縦に長く、同じ書体の大文字より高さがあります。Futuraはまるで、効率そのものを体現しているようです。あからさまな「スタイル」の主張はせず、清潔感と統一感があり、読みやすく洗練されています。
フォルクスワーゲン広告:Jeff Minarik (Coroflotより)
『イケア、Futuraに別れを告げる』:idsgn
過去1世紀にわたり、数々のデザイナーや企業はFuturaの魅力を活かして、印象的な効果を生み出してきました。フォルクスワーゲンとイケアは、広告にFuturaのみを使用していますし(ただしイケアが使用していたのは2010年までで、その後Verdanaに変更したことで物議を醸しました)、ドミノ・ピザやアブソルート ウオッカのロゴに使用されている書体にも皆さんはお気付きかもしれません。
映画監督スタンリー・キューブリック(『2001年宇宙の旅』)と、同じく映画監督のウェス・アンダーソン(『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』)は、作品のタイトルやクレジットにFuturaを好んで用いることで知られています。
Futuraの最高の功績と呼べるのは、月への上陸でしょう。1969年に人類初の月面着陸を行ったアポロ11号の一行は、月に残してきた銘板に書かれた文字の書体に、賢明にもフーツラを採用していたのです。
写真:アポロ11号月着陸船「イーグル号」に取り付けられた銘板(idsgnより)
これを歴史と呼ばずして、何をそう呼べば良いのでしょう。
あなたの好きな書体は何ですか?
掲載画像:ニック・シャーマン (Flickrより)
[ 翻訳:shunichi shiga ]