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競合に比べて低い販売費

 ドロップボックスの強みはITインフラだけではない。同業のオンラインストレージサービス事業者で2015年に上場済みの米ボックス(Box)と比較すると、ドロップボックスのもう一つの強みがよく分かる(表3)。ドロップボックスは売上高がボックスの2倍もあるのに対して、販売費(セールス&マーケティング費用)がボックスと同程度と、少ないのだ。売上高に占める販売費の比率はドロップボックスが28%に対し、ボックスは60%にも達する。

表3●ドロップボックスとボックスの比較
単位はドル、ドロップボックスは2017年12月期、ボックスは2018年1月期
ドロップボックス売上比ボックス売上比
売上高11億680万(31%増)5億610万(27%増)
売上原価3億6890万33%1億3520万27%
粗利益7億3790万67%3億7080万73%
R&D3億8030万34%1億3670万27%
販売費3億1400万28%3億330万60%
一般管理費1億5730万14%8480万17%
営業損失▲1億1370万▲1億5400万
純損失▲1億1170万▲1億5490万

 同業でありながら販売費の比率に大きな違いが見られるのは、ドロップボックスが一般のエンタープライズITベンダーとは異なる営業戦略を採用しているためだ。一般的なエンタープライズITベンダーは、法人営業担当者を雇用したり、リセラーにインセンティブを弾んだりと、人手での営業に力を入れている。それに対してドロップボックスは人手での営業を極力排除することに成功しているのだ。

 ドロップボックスはFORM S-1で、同社の売上高に占める「self-serve channels」、つまりはユーザーがドロップボックスのWebサイトからサブスクリプション(購読)申し込みをする比率が90%を超えると説明している。直販比率が高いため、販売費を少なく抑えられるのだ。

フリーミアムだけではIPOできなかった

 ドロップボックスは創業以来「フリーミアム」を営業戦略の中心に据えてきた。まずは無料(フリー)でユーザーを集めて、そのユーザーを有料(プレミアム)会員に変えていくという戦略だ。法人契約を獲得する際も、営業担当者がユーザー企業の情報システム部門に売り込むのではなく、個人でドロップボックスを使って気に入った現場部門のユーザーが、社内の情報システム部門を「突き上げる」ことに頼っていた。

 ドロップボックスのフリーミアム戦略は、従来もうまくいっていた。2015年12月期における販売費の比率も32%であり、ボックスと比べて大幅に低い。しかしあまりにも売上原価、すなわちクラウドの利用料が高くついたことから、IPOできずにいた。フリーミアムの成功を、ITインフラが台無しにしていたわけだ。

 多くのユーザー企業にとって、AWSのようなパブリッククラウドの利用がコスト削減につながることは間違いない。だが、ドロップボックスのようにエクサバイトを超えるデータを運用する企業には当てはまらなかった。