この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年3月15日5時まではどなたでもご覧いただけます。

AWSからの脱却で300億円以上を節約した可能性

 ドロップボックスは創業時からITインフラとしてAWSのストレージサービス「Amazon S3」を利用していた。それを2016年第4四半期までに、自社運用のITインフラへと移行を完了させた。今でもAWSの利用は一部で継続しているが、ユーザーデータの90%以上は自社運用のITインフラに保存されているという。

 もしドロップボックスが今でもAWSの利用を続け、売上原価率が高止まりした場合、2017年12月期の売上原価は7億ドルを超えていた可能性がある。Amazon S3は従量課金制のサービスであり、ドロップボックスユーザーのストレージ使用量が増加するのに比例して、S3の利用料金も増加するためだ。ドロップボックスはAWSから自社環境に移行することによって、3億ドル(約318億円)以上のコスト削減を実現したことになる。

 ドロップボックスはAWSから移行するために、Amazon S3に匹敵する可用性の高い大規模分散ストレージシステムを自社で開発した。現在ドロップボックスはカリフォルニア州、テキサス州、バージニア州の3カ所の「リージョン」に、それぞれ複数のデータセンター(DC)を借りて、大規模分散ストレージシステムを運用している。

 ユーザーのデータは最低でも2つのリージョン(州)に複製保存されているだけでなく、リージョンの中に複数あるデータセンター間でも複製保存されている。つまりユーザーデータは最低でも4個以上、複製保存されていることになる。

 さらにユーザーのデータは1時間ごとに「増分バックアップ」(前回から変更があったものだけバックアップ)し、毎日「完全バックアップ」(データ全体のバックアップ)している。ドロップボックスはデータの耐久性(Durability)について、年間ベースで「99.999999999%以上」だとしている。この耐久性はAmazon S3と同等である。

 ドロップボックスは依然として赤字が続くが、純損失額は2015年12月期の3億2590万ドルから2017年12月期の1億1170万ドルへと、2年間で2億ドル超も減った。営業キャッシュフローの黒字額も2015年12月期の1480万ドルから、2017年12月期には3億3030万ドルにまで増えている(表2)。

表2●ドロップボックスのキャッシュフローの推移
単位はドル
2015年12月期2016年12月期2017年12月期
営業キャッシュフロー1480万2億5260万3億3030万
投資キャッシュフロー▲8560万▲1億1800万▲2390万
財務キャッシュフロー▲8960万▲1億3450万▲2億3170万
現金&現金等価物の増減▲1億6130万▲420万7730万

 ITインフラをAWSから自社環境に移行していた間は、ITインフラへの投資がかさんだため、投資キャッシュフローの赤字が一時的に膨れ上がった。赤字額は2015年12月期が8560万ドル、2016年12月期が1億1800万ドル、2017年12月期が2390万ドルと、3年間の合計は2億2750万ドルに達する。しかし2017年12月期だけで売上原価を3億ドル以上も減らせた可能性があるのだから、投資効果は十分すぎるほどだ。