艦これTwitterアカウントの凍結騒動、DMCAに基づく削除申請の実態

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(写真:Mano Kors / Shutterstock.com)

2月22日、株式会社DMM.comが配信するブラウザゲーム「艦隊これくしょん -艦これ-」の公式Twitterアカウントが、第三者の虚偽通告から、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)による著作権侵害だとみなされ、凍結された。同アイコンの画像を自身が描いたものと主張する第三者が、Twitter社に対し連続して虚偽の通告を行ったことが原因だという1
そもそもDMCAに関する削除申請は、どのような場合に認められるのか。また、今後インターネットを守っていくために、企業に求められる対応は何か。骨董通り法律事務所の福井健策弁護士と、株式会社so.la 代表取締役でSEOの専門家の辻正浩氏に聞いた。

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく削除申請とは

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)とは何ですか。

福井弁護士
強烈な名前の懐古感からわかる通り、20世紀末にアメリカで成立した法律です。世界的にもインターネットでは、最も重要とされるルールのひとつですね。
たとえば、インターネット上の投稿サイトやSNSに著作権を侵害するコンテンツがアップされた時に、その送信の場を提供しているプラットフォーム(グーグルやツイッターなど)が免責されるための条件などを定めています。
これが「通知・削除」(ノーティス・アンド・テイクダウン)といわれる手続きで、DMCAの代名詞のようになっていますね。

DMCAに基づく通知・削除申請はどういった制度ですか。

福井弁護士
具体的な流れとしては、まず侵害コンテンツを発見した権利者はプラットフォームに削除要請を送ります。たいていのプラットフォームにはこうした通知を送る専用のアドレス(参考:グーグル「Googleからコンテンツを削除する」)があるので、そう難しいことではありません。権利者からの通知を受けて、プラットフォームがすぐにコンテンツを削除すれば、それまでの掲載について侵害責任を負わなくてよい、というルールになっています。ただし、あくまで通知ではじめて侵害を知ったという場合の話で、そもそも侵害だと知っていた場合などは免責されません。

投稿者は、削除されたコンテンツが著作権侵害ではないと思うなら「異議申し立て」が可能です。他人の作品を使っていても、適法な引用だと思う場合などがそうですね。削除要請と同様、かなり簡単に手続きができます。するとプラットフォームは掲載を復活させて、後は当事者間の訴訟などに委ねることができます。他方、異議申し立てが来なければ、削除されたままです。
これがDMCAによるプラットフォーム免責のラフな仕組みです。

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく通知・削除申請の流れ

DMCAはどのように利用されているのでしょうか。

福井弁護士
DMCAに基づく申請は非常に幅広く利用されています。動画投稿サイトで「この動画は権利者の申請により削除されました」といった表示をよく見かけますが、あれがそうです。人気のテレビアニメだと無許可の録画が大量にアップロードされるので、YouTubeなどはコンテンツの権利を持つ企業側が発見・削除申請をしやすいように、事前登録型の自動処理プログラムを提供していますね。

これに対して、検索結果からの削除などはもう少し微妙です。検索結果はサイト名やリンクが表示されるだけですから、侵害コンテンツそのものではありません。リンク自体は、単に相手の場所を伝えているだけなので違法ではないというのが、世界的にも長らく通説とされていました。

けれども、現代では検索結果の影響は非常に大きいですよね。そこで悪質な海賊版などは、DMCAに基づく申請があれば検索結果からも削除するよう対処していますが、必ずしもスムーズに削除されないケースもあります。たとえば、過去最悪といわれて昨年から社会問題化しているマンガの海賊版サイトは、現時点(2018年3月)でもその名称で検索するとグーグル検索のトップに表示されます。

今後日本でも、ノーティス・アンド・テイクダウンが導入される可能性はあるのでしょうか。

福井弁護士
日本にもDMCAと似た「プロバイダ責任制限法」という法律が存在しています。DMCAのように、申請に基づく削除は行われているものの、仕組みはそこまで明確に決められていません。いわゆるグローバル・プラットフォームと国内事業者で従うべきルールが異なると対等に競争ができないため、公平な制度はどうあるべきかという「イコール・フッティング」の議論が盛んに行われています。企業の大量・機械的処理の必要と人々の権利や安全をどうバランスさせるかも含めて、現在政府でも検討が進む問題ですね。

インターネットを守るために企業に求められる対応

直近では、艦これの公式Twitterアカウントの凍結騒動のように、本来内容に問題がないコンテンツやウェブサイト等について、DMCAの制度を濫用・悪用し、虚偽の通告をする行為が報道されています。

辻氏
悪評の隠ぺいやビジネス上の競合への攻撃、好まない思想のネット上の情報の消去などの、DMCA制度の濫用・悪用が増えたことにより、プラットフォーム側の負荷が増大し、本来のコンテンツ権利者の申請が通りづらくなる問題も生じています。

そもそも、DMCAの制度が立ち上がってからもうすぐ20年にもなるため、現状と則さない部分があります。たとえば、非常に容易にアクセスできる著作権侵害コンテンツが、大量にインターネットにあふれており、グーグルだけでも毎日膨大な量のDMCA申請が寄せられるようになりました。そこにつけこんだ悪用も散見されるようになっています。

そしてグーグルやツイッターといったグローバルなプラットフォームを使うにあたっては、アメリカの法律であるDMCAが日本のユーザーにも大きな影響を及ぼします。しかし、もし問題が生じても、海外の法律であるため、日本から改正などの動きを起こせるものではなく、根本的な対応は困難です。

福井弁護士
大手のプラットフォームは、申請を受けるとかなり機械的に削除を行います。その結果、本来は問題のないコンテンツが、悪意の通報によって削除されてしまうケースもあります。彼らはまさに億単位のコンテンツや投稿を扱いますから、従来のクレームのような個別処理は到底できず、必然的に大量・機械的処理となり、悪用もされやすいのでしょう。

特に、ツイッターなどは、侵害を繰り返す悪質なアカウントを凍結する仕組みを構築しています。そのため、今回報道されるように誰かが嫌がらせで虚偽通知を続けるだけで、何十万というフォロワーを持つアカウントですら一発凍結されかねません。無論、これは業務妨害などの犯罪にもあたる行為ですから、ツイッター社は虚偽通知の主への刑事告訴など、厳正な対処も検討すべきでしょう。

今後、インターネットを守るためにはどのような仕組みがあるべきでしょうか。たとえば、検索エンジン・SNSなどのプラットフォーム企業や、悪意のあるDMCAの申し立てを受けた企業がとることができる対策はありますか。

福井弁護士
DMCAでは上記のように異議申し立てをすればコンテンツは復活するルールなので、被害を受けた企業や個人は、「著作権に関するポリシー」などのページを参考に落ち着いて対処することが重要でしょう。埒が明かない場合には専門の弁護士などへの相談です。

また、機械的・大量処理は必然とはいえ、同時にプラットフォーム企業はマンパワーによる個別対応をさらに格段に充実させるべきです。現在、世界企業の時価総額のトップ6まではこうしたプラットフォーム企業によって占められており、そのあげる利益額は莫大です。大きな力と利潤には、その負の側面に対応する公益的な責任を伴うでしょう。

辻氏
悪質なユーザーによって日々膨大な数の著作権を侵害したコンテンツが生成されています。現状、正当な権利を守るために早期かつ容易に削除できる仕組みは不可欠で、DMCAもしくは同等の存在は必要と考えます。

ただ最新の状況を鑑みると「事前確認を行わずにコンテンツを削除したうえで、異議を出されると審査を行い復活する」という既存の仕組みだけでは悪用、濫用の問題を止めることはできません。その予防策として、DMCAでの義務とはされていないにも関わらず、プラットフォーム側は事前審査を行っています。

今後、機械学習等の技術によって、事前審査の精度が向上し問題が解決することに期待したい所ですが、それには時間がかかるでしょうし完璧にはなりえません。
ですから、プラットフォームだけに頼らずに、DMCAの悪用を行う企業・個人と戦っていくしかありません。悪用の被害を受けた場合には訴訟などを起こすことや、ネットユーザーとして悪用を許さない姿勢を持つことが求められるでしょう。


  1. 「艦これ」運営鎮守府 2018年2月22日発表。なお現在、公式Twitterアカウントは復活している。 ↩︎

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