激戦地の1つであるグータ地方〔PHOTO〕gettyimages
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なぜシリア内戦は終わらないのか?激化する3つの「戦争」

「イスラーム国」壊滅後の行方

「この世の地獄だ」

戦火のなかを逃げ惑う人びと、我が子の亡骸を抱えて慟哭(どうこく)する親。

「この世の地獄だ」――国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、シリア「内戦」の激戦地の1つ、ダマスカス郊外県東グータ地方の状況をこう表現した。

2018年2月18日、シリアのバッシャール・アサド政権は、同盟国であるロシアの支援を受け、反体制諸派の拠点である東グータ地方への軍事攻撃を強化した。

同地方では、2011年の紛争の開始以来、数々の悲劇が繰り返されてきた。今回の攻撃においても、すでに死者の数は800人超に上り、病院への空爆や化学兵器の使用疑惑までもが伝えられた。

しかしながら、今のシリアで起こっている悲劇は、この東グータ地方だけにとどまらない。

2011年に始まったシリアの紛争は、「イスラーム国(IS)」の盛衰を経て、2018年に入ってからは3つの「戦争」が同時進行するかたちとなっている。

 

そして、その結果として、紛争は、新たなステージへと突入するとともに、これまで以上に解決の糸口を見いだすことが難しくなった。

つまり、拙稿で展望したように、残念ながら、「IS後」のシリアにおける「絶望」の色は一段と濃くなっている(「結局のところ、シリア内戦は今どうなっているのか?」)。

「IS後」のシリアにおける3つの「戦争」とは何か。そして、それはシリアをどのような状況に追い込んだのだろうか。

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アサド政権と反体制諸派との戦い

第1の「戦争」は、言うまでもなく、アサド政権と反体制諸派とのあいだの戦いである。

2011年4月の「アラブの春」に端を発したこの戦いは、アサド政権の軍事的な優位で進んでいる。東グータ地方は、シリア北西部のイドリブ県とならぶ反体制諸派に残された数少ない拠点である。

アサド政権の優位は、同盟国であるロシアとイランの支援に寄るところが大きい。とりわけ、ロシアは、反体制諸派とISに代表される「テロリスト」の両者を意図的に混同し、「テロとの戦い」の名目で大規模な軍事作戦を展開してきた。

アサド政権は、「アラブの春」の抗議デモが発生して以来、それを「テロリスト」による策謀として非難し、市民に対する弾圧を正当化してきた。

世俗主義を掲げるアラブ社会主義バアス党を母体とするアサド政権は、「先代」のハーフィズ・アサド大統領の時代からイスラーム主義者を最大の挑戦者と見なし、苛烈な弾圧を続けてきた。

むろん、反体制諸派のすべてがイスラーム主義者であるはずはなかった。しかし、紛争の泥沼化が進むにつれて彼らの勢力が増大し、やがてシャームの民のヌスラ戦線(現・シャーム解放委員会)に代表されるアル=カーイダ系の組織が反体制諸派の中核となっていった。

結果として見れば、シリアにおける紛争の現実は、アサド政権の「テロとの戦い」の主張に近づいていったと言える。それを決定づけたのが、2013年以降のISの勃興であった。

こうして、アサド政権は、国際社会にその存続を認めさせるだけでなく、反体制諸派に対する苛烈な弾圧を続けるための好機を得ることになり、やがて「テロとの戦い」を名目とするロシアの直接的な軍事支援を得るに至った。

そして、首都ダマスカスを中心に中部・西部・東部の「失地」を次々に回復していった。