ワタリガラス (Corvus corax) は、特に珍しい鳥ではない。だが進化の道筋はかなり珍しいことが、最新の研究で明らかになった。
科学者たちが研究に使ったのは、過去20年近くかけてワタリガラスから採取したDNAサンプルだ。それは、北米西海岸のワタリガラスの祖先が、遺伝的に異なる3つの集団に分化していたことを示していた。さらに、そのうちの2つの系統が1つに合わさり、分化を逆戻りする過程の最中とみられるという。研究結果は3月2日付けの学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。
「長い間、私たちは種の進化を木の枝分かれのように考えがちでした。1つの枝から、新しい種が2つに分かれるというふうに」と、研究を主導した米スミソニアン保全生物学研究所の進化生物学者、アナ・カーンズ氏は話す。
「種が枝分かれした例はいくらでもあります。が、分かれている2本の枝が再び1つになった例にはめったに出合えません」
しかし時おり、系統樹の枝が再び合わさり、2つの系統、つまり、異なる種へと分化する途中だった集団が1つになることがある。カーンズ氏によると、科学的には「網状進化」と呼ばれ、動物では鳥のフィンチの仲間や2種の魚類など、これまで数えるほどしか確認されていない。
加えてワタリガラスの場合は、枝分かれする途中で元に戻ったわけではない。いったん2つの種に分かれたあとで、片方がさらにもう一度分化を起こしてから2段階前のグループと合わさっていた。今回の発見は、種が混ざり合うことによる「逆転進化」を、ほかにも多くの種が経てきている可能性を示す。
そして、種というものについての概念さえ、本当はかなり複雑だという点も浮かび上がらせている。異なる2つの種は交配できないと多くの人が学校で教わった。しかし科学者たちいわく、生物学はいつでも明快というわけではない。(参考記事:「ダーウィンフィンチのゲノム解読が広げる種の概念」)
ワタリガラスがたどった道筋
現在のワタリガラスは大型の黒い鳥で、両翼を広げると約1.2メートルになる。「コモン(普通の)レイブン」という英名の通り、北半球ならほぼどこでも生息している。知能が高い上、ほとんど何でも食べようとするためだろう。餌は齧歯類(げっしるい)や昆虫から、ベリー類、生ごみまで幅広い。(参考記事:「世界をきれいにするカラス」)
しかし、いま北米の至る所で見かけるワタリガラスは、昔からずっと変わらずにいたわけではない。
約300万年前、北米の西部に、ある大型のカラスが生息していた。現生のワタリガラスの直接の祖先だ。やがてそれが2つに分かれ、北半球に広く分布する全北区型と、北米西部型が現れた。