今我々が知り得るのは、鄭室長の説明内容が全てだ。鄭室長の記者説明は、事実と主観的解釈が区別されていない。金正恩(キム・ジョンウン)との会談で実際にどんな対話が交わされたのかは知ることができない。明らかなことは、平昌五輪で韓国入りした北朝鮮代表団との秘密接触で決まった脚本の通りに進行したとみられる点だ。そうでなければ、2時間の対話だけで南北合意文がまとまるはずがない。外部に知られていることよりもはるかに多い何かが存在しているのは間違いない。また、平昌五輪前後の韓国政府の態度から推定して、会談で韓国側が堂々としていたとは思えない。北朝鮮のメディアは、若い独裁者の前で特使団5人が手帳に熱心にメモを取る場面を報じた。メモが必要であれば、1~2人が担当すればよかったはずだ。
自分は南北対話に反対したことはない。戦争中でも対話は行う。勿論いつでも口を開けて待ち受けていなければならないわけではなく、タイミングというものがある。国際制裁が効果を見せ始めた現在が対話のタイミングなのか、対話で所期の目的を達成することができるタイミングなのか、北朝鮮に生きながらえる道を与え、北朝鮮に核を完成させる時間を与えるリスクはないのかなどを熟考すべきではないか。
国家の前途を考える政権であれば、こうした対話を選んだ機会費用も計算すべきだ。「過去の政権の過ちを繰り返さない」というトランプと手を組み、北朝鮮に核廃棄圧力をかける絶好の機会を失いかねない。長期的に国益のため、どんな戦略が有効なのかを計算する必要がある。