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「ルール」や「常識」に従ったままでいいのでしょうか。人間関係に気をつかって「お人よし」を演じていれば、心はどんどん疲弊していきます。エッセイストで講演家の潮凪洋介氏は、「『ちょっとウザい』と言われる人は、周囲からのツッコミを受け止める覚悟と度量を持っている。それがない人は仲間をつくれない」と説きます――。

■「出会い」を楽しめる人とそうでない人の差

仕事やプライベートにおいて出会いを楽しみ、人脈を広げ、コミュニティーをたくさんつくり続ける。これを楽しめる人とそうでない人の間には、人生全体における充実度に大きな差が生じます。

「いい人」に限って、この「自分から新しく仲間を増やす」といった行為が苦手で、積極性がありません。人当たりが良く、調和を大切にするので敵はほとんどいないけれど、反対に仲間と呼べるような人間関係も限定的なのが「いい人」というわけです。

「いい人」は、内輪のときにはニコニコと人柄の良さを発揮しますが、知らない人が集まるパーティーなどでは挙動不審になります。おどおどした態度が目立ち、同じ業界の仕事の話など会話のテーマがないと、まったく会話を展開できません。自分のアイデンティティーをどこに置いて話せばいいのかわからなくなるのです。

これでは新たな出会いはストレスそのものです。結果、人脈は社内だけといったような、閉じられた世界での人生を送るようになってしまいます。

心当たりのある人は、もっと人生を有意義にするために、とにかく初対面の人に慣れて、多彩な人脈をつくることをおすすめします。

■相手の出身地や趣味をさりげなく聞き出しておく

まずは個人のつながりをたくさんつくることです。具体的には、初めて会い、名刺を交換した人に、その日のうちか翌日に「会えたこと自体に感謝するメール」を送るのも1つの手法です。個人のつながりをつくるに際しては、名前を覚えてもらうことが何より重要なのです。会ってから間隔をおかずにメッセージを送ると、名前を覚えてもらいやすくなります。

初対面のときに、相手の出身地や趣味をさりげなく聞き出しておくことも有効です。相手のアイデンティティーの一端を知っていると、別の機会に顔を合わせたときも会話のきっかけをつくることができます。

個人のつながりが多くできたら、知り合った人同士を引き合わせて、小さなコミュニティーをつくりましょう。コミュニティーは10個でも20個でも、とにかく数を増やすことをめざします。数が増えると、学生のときにつくられた人脈のように利害関係のない絆を築くことも可能です。

「いい人」は人柄が良く、他人を不快にさせることがないのですから、本来、自分が中心になってコミュニティーをつくることができるはずです。それができていないのは、ひとえに「人脈を広げたほうが人生は充実する」という自覚がないからです。

繰り返しになりますが、初対面の人には名前を覚えてもらうように心がけましょう。そのように意識することが、人脈づくりの第一歩になります。

■のびのびとつき合える人間関係を築けているか

会社の枠をとり外して培養していった人脈は盤石です。学生時代の仲間のように、長く同じ距離感でつき合うことができて、しかも、いっしょにいるときにストレスを感じません。

一方、仕事環境から与えられた人脈はもろいものです。会社内や取引関係の人脈には特にその傾向があります。会社をやめた途端、連絡しても返信がなくなったり、前は頻繁に会っていたのに疎遠になったりといった例はいくらでもあります。

魅力的な人脈を自分から広げられない、どこにでもいる「いい人」にならないために、根気よく、「出会い慣れ」の努力をしましょう。

会社内や取引関係ではない人脈は、利害関係がないから心地良い人間関係になり得ます。ビジネスから離れているために、お互いにのびのびとつき合えるのです。

しかし、のびのびとつき合える人間関係が築けていることによって、結果的にビジネスに結びつくことはあります。学生時代の人間関係が、後年、ビジネスに結びつくということはよくあることです。同じように、何らかのコミュニティーにおける良好な人間関係が、ビジネスにつながる可能性はあります。

■自ら率先してコミュニティーをつくれば、風景が変わる

たとえば、30代のうちは仕事とは関係のない話をしてお酒を飲む仲間だった異業種の2人が、40代、50代になってそれぞれの社で決定権のある地位となり、コラボレーションによるプロジェクトを立ち上げることになるかもしれません。こうしたケースにおいては、お互いに「人となり」をよく知っていますから、警戒感を抱く必要がなく、コトがスムーズに進むというメリットもあります。

数年後、数10年後のビジネスの成果は、人脈を築いたことによるオマケのようなものです。しかし、まったく期待できないオマケではありません。つまり、コミュニティーづくりは早いに越したことはないのです。

自ら進んでコミュニティーをつくるということは、コミュニティーの中心人物になるということです。このことも人生においては大きなプラスの要素となります。

コミュニティーを組織して、中心に位置する人物になると、本人にその意識はなくても、おのずと求心力がついてきます。簡単に言えば、周囲から一目置かれる存在になるのです。地位が人をつくるということです。

知らない人の集まるパーティーでは挙動不審だった過去があるとしても、コミュニティーの中心に位置するようになれば、いつも堂々たる態度でいる人物になります。自ら率先してコミュニティーをつくるようになれば、それまでとはまったく異なる風景が見えるようになるのです。

■笑われることとプライドを損なうことはまったく別

ここで認識しておいてほしいのは、ただの「いい人」ではコミュニティーをつくれないということです。

世の中には2種類の人間がいます。何を言っても許され、どんなに雑に人と接しても「愛されるヤツ」と、どんなに丁寧に人と接しても「影が薄いヤツ」です。

後者の「影薄さん」は、初対面ではなかなか名前を覚えてもらえません。たとえ仕事の成果を出し、優秀な成績を収めているとしても、ハダカの人間としての「はみ出し」がなければ、魅力の乏しい印象として扱われます。「あいつ、誰だっけ?」と言われた時点で、もう失敗なのです。気をつかって控えめな態度をとっているのに、それが裏目に出てしまい、「ちょっとは盛り上げろよ」と、少し迷惑な存在として評価されてしまうのです。

それとは対照的に、「ちょっとウザいけど、明るいし、面白いよね」と言われるのが前者の「愛されるヤツ」です。いっしょにお酒を飲んでハメを外したときの会話やパフォーマンスに個性とセンスと破天荒な明るさがあり、ときどき、はらわたがよじれるくらいの衝撃的な笑いの瞬間をもたらしてくれる存在。常識力にやや欠け、言動において周囲をヒヤヒヤさせるようなヤツ。仕事はできても「バカだなあ、あいつ」と言われるようなヤツ。そういうキャラは、なんだかんだ言われても、みんなにとって「また会いたいヤツ」なのです。

■魅力的な図太い人間になるには?

図太さやずうずうしさは、周囲の人を惹きつけます。それでは、魅力的な図太い人間になるには、どうしたらいいのでしょうか。

大切なのは、心の持ちようです。笑われることとプライドを損なうことは、まったく別であることを知ることです。周囲にツッコミを入れさせ、それを正面から受け止める覚悟と度量を持てばいいのです。「ハメを外した言動」→「周囲からのツッコミ」→「ツッコミの許容」→「多少の修正」という流れを身につけることができれば、あなたは「影薄さん」から「愛されるヤツ」に変身することができます。

会社では控えめな態度をとる「いい人」でいるのに、いきなり社内でハメを外すのは気が引けるでしょう。実際、以前と違いすぎることによって、「イタい」印象を与えたら逆効果です。

しかし、新しくつくるコミュニティーであれば、「新しいあなた」を見せても違和感はありません。「影薄さん」でいるよりも「愛されるヤツ」になったほうが、人生は確実に充実します。「愛されるヤツ」になることをめざし、あなたが中心となるコミュニティーをつくりましょう。社内人脈から外へ踏み出すことで、未来は開けるのです。

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潮凪 洋介(しおなぎ・ようすけ)
エッセイスト・講演家
早稲田大学社会科学部卒業。主な著書に、『もう「いい人」になるのはやめなさい!』『それでも「いい人」を続けますか?』(ともにKADOKAWA)、『「バカになれる男」の魅力』(三笠書房)、『「男の色気」のつくり方』(あさ出版)などがある。

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(エッセイスト・講演家 潮凪 洋介 写真=iStock.com)