テックリサーチ・レポート後編は深センの"中国のシリコンバレー"としての側面を追います。
自分は今回深センに行くにあたりなんのツテもなかったのですが、中国人の友人に現地の人を紹介してもらい、現地のテックコミュニティに少しだけ切り込むことが出来ました。現地で働く人たちの話を聞いたり、企業を訪問した結果わずかに見えてきた中国シリコンバレーの実態や、アメリカのシリコンバレーと比較して異なると感じたところについて書いていきます。
なお、前編はこちらをご覧ください。
深センに集まるIT企業、メーカー
深センがシリコンバレーと呼ばれる理由の一つとして、数多くの中国を代表するIT企業やメーカーが集っていることが挙げられます。 Wechatを提供するTencent、スマホで世界を席捲するHuawei、ZTE、ドローンのNo1メーカーDJI、Appleの部品を提供するFoxconnなどが本社を深センに置いています。また深センの西側から広州にいたるまでの地域は4000万人が働く世界最大の工場地帯と言われています。
さらにここ数年、深センはMaker Hubとしても名を馳せています。比較的最近のForbesの記事で深センについて取り上げられていたので抜粋すると、
- 深センでは1~100万単位で電子部品を揃えることができる
- Airbusなど海外企業もイノベーションセンターを深センに設置している
- シリコンバレーで生まれたアイデアを深センでプロトタイプするというコラボレーションが起きている
という風に、世界中のモノづくりに係る人や企業が注目する場所となっています。
またこちらの動画は2016年のものですが、ご覧になると深センの活気を感じることが出来ます。
深センとシリコンバレーと似ているところ
実際に現地を訪問して体感した深センは、たしかにシリコンバレーと近い雰囲気がありました。いくつかの例を挙げます。
経済成長が生み出す圧倒的福利厚生
シリコンバレーのスタートアップや巨大IT企業は、優秀な社員を獲得するため福利厚生にはとても力をいれています。多くの会社では食事やリクリエーションの場を提供することが当たり前になっています。ここ中国のシリコンバレーでも福利厚生に非常に力が入っていました。
友人の紹介で、CVTEというTV画面基盤などのOEM,ODMを扱う会社を訪問しました。会社自体は深センの西側から広州にいたる工場地帯にあります。広州は深センの発展を受けて同様にITが盛り上がっている地域です。
CVTEの社屋
TV画面基盤技術を活かした鏡に情報を投影する自社製品
こちらも自社製品。タッチパネルを使った教育ツール。中国全土の学校で使われている
この会社は社員が3000名いますが、なんと平均年齢は28歳。
大学の構内を想像させるような趣の社内には食堂、ジム、プール、映画館、といった社員のオフタイム向け施設から、幼稚園、親族も使える医療施設、宿泊施設、さらには集団結婚式が行える大広間もありました。一人っ子政策が緩和されたことにより、2人目の子供を生む社員が多く、手厚いサポートを提供しているそうです。幼稚園が2階建てなのにはびっくりしました。会社が利益をしっかりと福利厚生に充てて、さらに収益を上げるサイクルが出来ていると感じました。
CVTEの社員さんは「福利厚生はGoogleを参考にしている」と仰っていました。自分はGoogleやFacebookのHQも訪問したことがあり、いずれもすばらしい施設でしたが、特に若い人向けの福利はこちらが上だと思いました。
スタートアップエコシステム
シリコンバレーといえば、VCから出資を受けて、GoogleやFacebookなどの大企業にバイアウトまたはIPOすることを目標に、沢山のスタートアップが生まれています。
深センでも同様に、スタートアップの多さを垣間見る印象的な出来事がありました。
深センの街を案内してくれた、シェアサイクルOfoに勤めるエンジニアとアプリの情報交換をした時のことです。
中国のインスタグラム
Taobaoが提供する中国版のメルカリXianyu
彼がアプリストアでBilliBilli(中国で一番人気の動画アプリ)を検索すると、10個以上のアプリがヒットしました。彼曰く、どれもこれもBilliBilliの機能などをコピーした、わずかに異なるサービスだそうです。ゲームやサービスはいいものが出るとどんどんみんなが真似するので、類似サービスが山ほどあります。
実はこれらを提供する会社は深センに拠点を置いているものが多いそうです。深センには政府が主導するベンチャーキャピタルがあり、Tencent、Alibabaなどの大企業も積極的にスタートアップに投資を行っています。類似サービスの中でよりよいサービスを提供し、生き残った会社がAlibaba等巨大企業に買収されることがひとつのゴールだ、と彼は語っていました。中国市場で成功すると得られる富も大きいので、一攫千金を狙って数多くのスタートアップが生まれているとのことです。
少し脱線:中国のウェブ界隈/エンジニアはどんな感じ?
中国のウェブ界隈について興味があったので、その点についても聞いてみました。(あくまで彼の一意見なので、また他のエンジニアの場合なら異なる意見かもしれません)
彼いわく深センではReact, ReactNativeが人気でよく話を聞くとのこと。中国のアプリは結構React Nativeで書かれていて、Ofoも新プロダクトはReactNativeで書く話もあるらしい。WeChatから他のサービスやミニアプリへ遷移する場合はWebViewなので、WebView上でリッチなコンテンツを提供するにはReactのようなUIライブラリが流行るのは当然かもしれないですね。
あとGoも人気でバックエンドではよく利用されていて、meetupもあるそうです。中国で利用できないサービスを提供する会社が開発した言語やフレームワークが人気なのは面白いなぁと言ったら、一般的なネットユーザーとエンジニアの世界は違うんだ、使いやすいものを使うよ、と話してました。そりゃそうですね。
技術的なことを調べる際はもっぱらStackOverFlowだそうです。この辺は世界共通。
また中国ではアプリのことを"エーピーピー"と言います。英語だとアップですね。国ごとに呼び方違うのも興味深いです。
深センとシリコンバレーが違うところ
一方でもちろんシリコンバレーとは異なる、深セン独特な部分もありました。
内需の強さ
とにかく中国国内での需要が強いので、海外進出せずとも国内のみのビジネスでも十分成長できている様子です。人口の10%が利用するだけで日本の人口に匹敵するのだから相当なもんですよね。
ダイバーシティ
シリコンバレーのひとつの特徴として、人種や国、文化などに基づくダイバーシティおよびそこから生み出されるイノベーティブなアイデアがあると思います。それが良いか悪いかは別として、深センには人種、国的な多様性はありませんでした。先述した会社でも外国人は契約社員でごくわずかしかいないとの話でした。もっとも、国内で言語が異なり様々な種族がいるので、そういった多様性はあるのかもしれません。
どのようなサービスもだいたい無料
これは、深センに限った話ではないのですが、少し印象的だったので。現地で出会ったどの中国人も言っていたのは「どのようなサービスでもだいたい無料、または格安で使える」でした。中国では様々なウェブサービスは無料、あるいは低価格で当然という感覚だそうです。背景にはファンドやAlibabaのような巨大企業が潤沢に資金提供を行っているということがあります。 具体例を示しましょう。
上の写真は、CVTEの社員さんが提供してくれた中国シェアリングエコノミーに関する論文です。
右上にシェアサイクル各社対する出資が一覧で書いてあります。
まず出資を受けているシェアサイクル会社で18社あることも驚きなのですが、調達額も半端ないです。
OfoはシードDで4.5億ドル調達していると記載されています。出資者は中国のシェアライドDiDiを筆頭に多岐にわたっています。
シリコンバレーを含むベイエリアのサービスは安くはなれど無料ということはあまりないので、いかに潤沢な資金が投入されているかがわかります。一方でそれだけユーザー獲得が熾烈なのかもしれません。
まとめ
たった3日間の滞在でしたが、深センの勢いは十分体感しました。スタートアップがどんどん生まれるエコシステムが出来上がっていて、中国のシリコンバレーと呼ばれるのもうなずけました。また若い人が多く(約90%が15歳から59歳の間: http://www.allcountries.org/china_statistics/4_9_age_composition_and_dependency_ratio.html)、シリコンバレーとは全く違うフェーズにいます。一方でオリジナリティやイノベーティブさでは移民を受け入れ続けて来たシリコンバレーの方がまだ強みがあると思いました。
個人的には、ぜひ一度現地に行って、勢いを体感することをお勧めします。百聞は一見にしかずというやつです。 今回参加したテックリサーチは社外の人も渡航費宿泊費全額会社負担で参加できます。社外の人との情報交換も価値があるためです。まだ継続するそうなので、興味ある方は申し込んでみてください。