おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)

 大学入試改革の本丸は個別の大学の入学者選抜の方法である。ペーパーテストだけに頼らず、面接・論文・高校時代の活動の記録を評価するなど、多様な方法で入学者を選抜することを当初の目的とした。改革のもう一つの目玉がセンター試験の見直し。高校で学ぶべき事柄の達成度を見る「基礎レベル」のテストと大学で学ぶための素養が身に付いているかをたしかめる「発展レベル」のテストの2種類の「達成度テスト」に分けるとした。

 個別の大学入試選抜方法についてはまだ不透明な部分が多い。基礎レベルの達成度テストについては本格実施を2023年度以降に先送りすることが決まっている。2020年度以降実質的にセンター試験の後継テストになる発展レベルの達成度テストは現在「大学入学共通テスト(新テスト)」と呼ばれており、現時点ではこのテストの行方に注目が集まっているので、今回ここでは、新テストについて中心的に述べる。

 新テストについて2013年の時点では、「年複数回の実施」「1点刻みではなく段階別の結果」「外部検定試験の活用」などのビジョンが示されていた。しかし具体的な検討に入ると途端にトーンダウンした。年複数回実施するということは現状1月に実施されているセンター試験よりも早いタイミングでの受験が可能になるということ。「それでは教科書の履修範囲を終えられない」というのが高校の現場からの声だった。年複数回実施は当面見送られることになった。

(画像:istock)
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 そのような声が上がることは十分に予測できた。それでも「一発勝負の大学入試文化」を改めるために、やるのか。そこに今回の改革の本気度が表れると思って議論の行方を見守っていた。しかし変わらなかった。結局「新テスト」とは、共通一次試験以来の「国を挙げての壮大な一発勝負」の概念を改めるものではなくなり、現行のセンター試験に多肢選択問題・記述式問題を含めるだけのいわば「アップデート版」になってしまった。ここに今回の大学入試改革全体のスケール感が規定されてしまったような気がしている。要するに、それほど変わらない。

 文部科学省の担当者が悪いわけではないだろう。もともと広げられた大風呂敷が、どだい無理筋だったのだ。「それでは教科書の履修範囲を終えられない」という声が現場から上がるのは、日本の大学入試が学習指導要領と検定教科書にがんじがらめにされているからだ。入試問題と学習指導要領と検定教科書が三つどもえになっている限り、高校の授業の進度と内容に入試が縛られるのは宿命である。