第90回(2018年)アカデミー賞、全ての受賞結果と解説まとめ

今年は大きなトラブル無し

年に一度の「映画の祭典」、第90回アカデミー賞授賞式が日本時間の2018年3月5日(月)にアメリカ・ロサンゼルス市のハリウッドで開催され、例年通り日本ではWOWOWが独占生中継で放送しました。

昨年の第89回授賞式では最後の最後で作品賞の発表を間違えるという大ハプニングが発生してしまいましたが、今回は大きなトラブルもなく、感動と笑いの連続で楽しませてもらいました。

早速本題に入りましょう。主要6部門の受賞結果を紹介します。

作品賞

◎シェイプ・オブ・ウォーター
◆スリー・ビルボード
◆君の名前で僕を呼んで
◆ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
◆ダンケルク
◆ゲット・アウト
◆レディ・バード
◆ファントム・スレッド
◆ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

今回は9つの作品が作品賞としてノミネートされていました。受賞したのは『シェイプ・オブ・ウォーター』。スタッフやキャストがステージ上に勢揃いして喜びを共有。

作品賞の戦前予想は『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』で真っ二つに割れており、どちらが獲得してもおかしくないと言われていました。

今年度アカデミー賞では最多となる13部門にノミネートされていた『シェイプ・オブ・ウォーター』は作品賞、監督賞、美術賞、作曲賞の4冠を獲得。日本での観客動員にポジティブな影響を与えることでしょう。

※『シェイプ・オブ・ウォーター』は3月1日(木)から日本でも劇場公開が始まっています。

昨年の発表ミスを逆手に取り、ギレルモ・デル・トロ監督はステージに上がった直後、プレゼンターのウォーレン・ベイティとハグする前に封筒が間違ってないかを確認し、「合ってるよ」と観客席に用紙を見せてニカッと笑って見せてました。

監督賞

◎ギレルモ・デル・トロ(シェイプ・オブ・ウォーター)
◆クリストファー・ノーラン(ダンケルク)
◆ポール・トーマス・アンダーソン(ファントム・スレッド)
◆グレタ・ガーウィグ(レディ・バード)
◆ジョーダン・ピール(ゲット・アウト)

監督賞を獲得したのは『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督。今年1月には同作品のプロモーションのため日本にやって来たばかり。日本食を食べ過ぎて太ったと語っていました。

日本の怪獣映画や特撮作品に影響を受けまくったことを公言しており、日本のことが大好きな監督さん。怪獣&ロボット映画『パシフィック・リム』では日本人女優の菊地凛子を起用しています。

ここ数年ずっと「作品賞と監督賞は別の作品」という傾向が続いていたものの、今年は久々に一致する結果となりました。

個人的にはクリストファー・ノーラン監督に獲って欲しかった(ノーラン信者なので)。でも今回は戦前予想でもデル・トロ監督が圧倒的優位と言われていたので納得。

主演男優賞

◎ゲイリー・オールドマン(ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男)
◆ティモシー・シャラメ(君の名前で僕を呼んで)
◆デンゼル・ワシントン(ローマン・J・イスラエル,エスク(原題))
◆ダニエル・デイ=ルイス(ファントム・スレッド)
◆ダニエル・カルーヤ(ゲット・アウト)

主演男優賞を獲得したのはゲイリー・オールドマン。私には『ダークナイト』シリーズでゴードン警部補を演じてた人というイメージが強い俳優さん。『レオン』で冷酷な汚職刑事を演じてた人というイメージの人も多いでしょう。

今回が2回目のノミネートでしたが、オスカーは初受賞。第二次世界大戦時にイギリス首相となりドイツと対峙したウィンストン・チャーチルを演じ、特殊メイクでソックリに変身した容姿はチャーチルの子孫と対面した際にも驚かれたそうです。

対抗馬として有力視されていたティモシー・シャラメは22歳、新進気鋭の若手俳優。オスカーを受賞すれば主演男優賞としては史上最年少記録だったらしいです。

今年のアカデミー賞では『君の名前で僕を呼んで』だけでなく『レディ・バード』にも出演。2014年にはSF大作『インターステラー』にも出演しており、既に順調なキャリアを築いていってると言えるでしょう。

若き日のディカプリオを想起させる涼しげなイケメンフェイスで人気爆発間違いなしと言われているティモシーくん。今後世界中の女性たちをトリコにしていくことでしょう。

主演女優賞

◎フランシス・マクドーマンド(スリー・ビルボード)
◆サリー・ホーキンス(シェイプ・オブ・ウォーター)
◆マーゴット・ロビー(アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル)
◆シアーシャ・ローナン(レディ・バード)
◆メリル・ストリープ(ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書)

主演女優賞を獲得したのはフランシス・マクドーマンド。1996年に『ファーゴ』で主演女優賞を獲得しており、今回が2回目のオスカー獲得。

『スリー・ビルボード』では娘を殺された怒りで女版ランボーのように暴れ回る母親を演じ、警官を演じた2人の俳優との演技合戦が話題となっていました。前哨戦と呼ばれる映画賞でも主演女優賞を総ナメにしており、大本命は動かず。

もはやアカデミー賞の風物詩、今回が通算21回目のノミネートとなったメリル・ストリープ。言葉を話せない設定のためセリフなしで熱演したサリー・ホーキンス。女子フィギュアスケートの問題児トーニャ・ハーディングを演じたマーゴット・ロビー。前回ノミネート時の清純な女性とは打って変わって今回は天然な女子高生を見事に演じたシアーシャ・ローナン。ノミネートされた女優さんはみんな魅力的な人ばかりでした。

受賞してステージに上がったフランシス・マクドーマンドは受賞スピーチの最後で、今回ノミネートされた客席にいる全ての女性たち(女優だけでなく制作側の女性もみんな)に席から立ち上がってもらうよう促し、

「我々女性をどうかオフィスに招いてください、そして我々が皆持っている物語やプロジェクトの話を聞いて下さい」

と語り、様々な分野で活躍する女性にもっとチャンスを与えるよう訴え、メディアや関係者から称賛されています。

助演男優賞

◎サム・ロックウェル(スリー・ビルボード)
◆ウディ・ハレルソン(スリー・ビルボード)
◆ウィレム・デフォー(フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法)
◆リチャード・ジェンキンス(シェイプ・オブ・ウォーター)
◆クリストファー・プラマー(ゲティ家の身代金)

助演男優賞を獲得したのはサム・ロックウェル。ノミネートも初めて、そしてオスカー獲得も初めて。

同じ作品からウディ・ハレルソンもノミネートされていたのですが、戦前予想ではサム・ロックウェルが本命視されており、予想通りの受賞。

セクハラ問題でクビになり降板したケヴィン・スペイシーの代役として『ゲティ家の身代金』に急きょ出演が決まり、9日間で撮り直しを完了させたクリストファー・プラマーも今回ノミネートされて話題となりました。

助演女優賞

◎アリソン・ジャネイ(アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル)
◆メアリー・J. ブライジ(マッドバウンド 哀しき友情)
◆ローリー・メトカーフ(レディ・バード)
◆オクタヴィア・スペンサー(シェイプ・オブ・ウォーター)
◆レスリー・マンヴィル(ファントム・スレッド)

助演女優賞を獲得したのはアリソン・ジャネイ。テレビドラマを対象とした「エミー賞」の常連なのですが(これまでに7度のエミー賞を獲得)、アカデミー賞はノミネートも受賞も今回が初めて。

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』は、1994年リレハンメル冬季五輪のフィギュアスケート女子で共にアメリカ代表に選ばれたナンシー・ケリガンの襲撃を命じたトーニャ・ハーディングの半生を描いた物語。アリソン・ジャネイは(マーゴット・ロビーが演じた)トーニャ・ハーディングの母親を怪演しています。

映画の最後に本物の母親が写るらしく、アリソン・ジャネイが演じた姿とソックリなんだそうです(トーニャ・ハーディング本人も写るんだとか)。この作品は必ず観ようと思っているのでエンディングを楽しみにしておきます。

その他の受賞結果

脚本賞 ゲット・アウト
脚色賞 君の名前で僕を呼んで
視覚効果賞 ブレードランナー 2049
美術賞 シェイプ・オブ・ウォーター
撮影賞 ブレードランナー 2049
長編ドキュメンタリー賞 イカロス
短編ドキュメンタリー賞 Heaven is a Traffic Jam on the 405
編集賞 ダンケルク
外国語映画賞 ナチュラルウーマン(チリ)
音響編集賞 ダンケルク
録音賞 ダンケルク
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 辻一弘(ウィンストン・チャーチル
/ヒトラーから世界を救った男)
衣装デザイン賞 ファントム・スレッド
作曲賞 シェイプ・オブ・ウォーター
歌曲賞 “Remember Me”
(リメンバー・ミー)
長編アニメーション賞 リメンバー・ミー
短編アニメーション賞 Dear Basketball
短編実写映画賞 The Silent Child

主要6部門以外を見てみると、音響編集賞&録音賞は『ダンケルク』が獲得。『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』など、徹底的に「音」にこだわっているクリストファー・ノーラン作品の真骨頂です。

メイクアップ&ヘアスタイリング賞は辻一弘さんが受賞。これが3回目のノミネートでオスカー初受賞。最初はコメディー作品を中心に映画制作に携わっていたものの、その後は映画業界を離れて現代美術の世界で活躍していたところ、ゲイリー・オールドマンから直々に

「チャーチルを演じることになったが、キミが特殊メイクを担当してくれるならこの仕事を受けようと思う、ダメなら僕も仕事を断る」

と口説かれ、今回の仕事を引き受けて映画業界に戻ったのだそうです。ゲイリー・オールドマンと共に初めてオスカーを獲得した辻さん、今後はますます映画のオファーが増えるのかもしれません。

複数ノミネート作品のオスカー受賞数

作品名 ノミネート数 受賞数
シェイプ・オブ・ウォーター 13 4
ダンケルク 8 3
スリー・ビルボード 7 2
ウィンストン・チャーチル
/ヒトラーから世界を救った男
6 2
ファントム・スレッド 6 1
ブレードランナー 2049 5 2
レディ・バード 5 0
ゲット・アウト 4 1
君の名前で僕を呼んで 4 1
マッドバウンド 哀しき友情 4 0
スター・ウォーズ/最後のジェダイ 4 0
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 3 1
ベイビー・ドライバー 3 0
リメンバー・ミー 2 2
美女と野獣 2 0
ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 2 0
Victoria & Abdul(原題) 2 0

最多ノミネートは『シェイプ・オブ・ウォーター』の13部門。そのうち4部門でオスカーを獲得したので、これはもう大成功と言えるのではないでしょうか。

『ダンケルク』は制作部門で3つのオスカーを獲得。出演陣の演技が話題となっていた『スリー・ビルボード』は主演女優賞と助演男優賞の2部門を獲得。

他の注目作品にもオスカーが上手い具合にバラけて、昨年2017年もそうだったんですけど「ノミネートたくさんされたのに無冠」という作品が少なかったのは良かったんじゃないかなと。一極集中は「スゲー!」と感じる人もいればシラける人もいますからね。

ノミネート数が多かった作品では『レディ・バード』『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』が無冠に終わってしまいました。スター・ウォーズは仕方ないかな。大衆娯楽作品がオスカーを獲れないのは今に始まったことじゃないです。

セクハラ問題に揺れた映画界の1年

ここ数年、アカデミー賞授賞式は映画界に関する問題が浮き彫りとなり、それを司会者がジョークで揶揄したり、受賞者がスピーチの中で改善を訴えることが多々見られるようになっています。

2016年(第88回)授賞式では、前年から2年続けて主要6部門にノミネートされた全員が白人だったため「白すぎるオスカー」と批判され、有色人種の映画関係者数名が授賞式出席をボイコットしました。この年に司会を務めた黒人俳優クリス・ロックは授賞式のオープニングスピーチで「白すぎるオスカー」について次々とジョークを飛ばし、笑いを取りながら問題提起を続けていました。

2017年(第89回)は、トランプ大統領が就任直後に発表した移民政策や特定宗教への批判、メキシコとの「国境の壁」問題、中東・アフリカ6カ国に対する入国禁止令などが映画界からの猛烈な反発を買い、この年にアカデミー賞外国語映画賞を獲得したイラン人監督は授賞式出席をボイコットしました。アメリカ国民の分断が危惧される中、受賞者が次々と「分断ではなく団結」を主張したのがとても印象的な授賞式でもありました。

そして今年、2018年(第90回)の映画界を騒がせたのがセクハラ問題。長年にわたって映画界に君臨し、アカデミー賞受賞作品を何本も世に送り、絶大な権力を誇っていたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)。彼からのセクハラ・性的暴行被害を受けたことを数十名もの女優や映画関係者が証言し、一大スキャンダルに発展しました。

このセクハラ問題は映画界を超え、SNSなどを介してあらゆるジャンルに拡大。「MeToo」のハッシュタグを使った拡散や、女優たちが団結しての「TimesUp」といった運動に発展し、アカデミー賞の前哨戦となったゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞では出席した女優陣が黒のドレスを着るといった意思表示を行っていました。

ワインスタインを最初に告発した(左から)アシュレイ・ジャッド、アナベラ・シオラ、サルマ・ハエックは今回のアカデミー賞授賞式に揃って登場し、直接的な言及や批判は避けたものの(「パーティーを壊さない」というのもアメリカの重要な価値観であるため)、セクハラ問題や女性差別に関する改善をステージ上から訴えていました。

多数の告発を受けたワインスタインは、問題発覚後に自身が代表を務める会社を解雇され(会社は授賞式の1週間前に破産法の適用を申請)、デザイナーの奥さんとも離婚。アカデミー会員の権利も剥奪されて、実質的な映画界追放処分となりました。

このセクハラ問題はワインスタインだけでは収まらず、他にも男性映画関係者が自身の行動や言動を批判され窮地に立たされています。

ワインスタインがプロデュースする作品を何本も制作したクエンティン・タランティーノは、ワインスタインのセクハラ問題発覚後しばらく言及を避け続け、後に「ワインスタインのセクハラ問題について何十年も前から知っていた」にも関わらず、ワインスタインに注意することもなく、何の行動も起こさなかったことを後悔している、という声明を発表。

セクハラ被害者の中にはタランティーノの元交際相手もおり、それを本人から打ち明けられていたにも関わらずスルーしていたことも暴露され、さらには『パルプ・フィクション』や『キル・ビル』でタランティーノ作品に出演した女優ユマ・サーマンからセクハラ被害だけでなく撮影中の自動車事故をも隠蔽したことについて猛烈に批判され、タランティーノはバッシングを浴びています。

同じくワインスタインと親しく、ワインスタインにプロデュースしてもらった『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で親友マット・デイモンと共にアカデミー脚本賞を獲得し、俳優としても成功の足がかりを作ってもらったベン・アフレック

彼も当初はワインスタインのセクハラ問題について「知らなかった」「許されることではない」と声明を発表してスッとぼけていましたが、ワインスタインに性的暴行を受けた被害者の一人、女優のローズ・マッゴーワンはベンと交際していたことがあり、性的暴行被害をベンに打ち明けていたことを暴露。

にも関わらずスッとぼけていたベンに対し、マッゴーワンはTwitterでベン本人のアカウントに向けて「あなたはウソつきだ」と公開罵倒。これを受けて「セクハラ問題を知ってた」とベンは公表して謝罪。

しかし批判は止まらないどころか、今度は「あなたが某番組で出演女性の胸を触ってるのをテレビで見た」と別の女性がツイートで指摘。これに対しセクハラされた当の本人も「私は忘れてない」と返信して事実だと認め、その時の映像がネット上で発見され、さらには他の複数の女性からも「彼にセクハラされた」と暴露されるなど、ベン・アフレックは火ダルマ状態。

さらにさらに、女優グウィネス・パルトロウもワインスタインのセクハラ被害に遭い、その当時に映画『セブン』で共演し、交際していたブラッド・ピットにパルトロウが被害を打ち明けたところ、まだ若く実績もないブラピが激怒してワインスタインを訪問し、「俺の恋人に今度手を出したら奥歯ガタガタ言わせたるぞ」と警告した、という武勇伝が明るみに。

ブラピと別れたパルトロウは後にベン・アフレックと交際し、ベンにもワインスタインからのセクハラ被害を打ち明けたものの、ベンはスルーして何もしなかったということも明るみに。ブラピは大絶賛されて株を上げ、反対にベンの株はダダ下がり。なんということでしょう。

現在『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『スーサイド・スクワッド』『ジャスティス・リーグ』と3本続けてバットマン役で出演し、新たなバットマン単独作品でも監督&主演すると言われていたベン・アフレックですが、騒動後に監督からは降りると発表。バットマン役も降板するのではないかとウワサされています(セクハラ騒動の前からウワサがあったので直接的には関係ないかもしれませんが)。

ベン・アフレックの親友マット・デイモンは、ベンがまだ「セクハラ問題を知ってた」と謝罪する前の段階でワインスタインのセクハラについて「ベンから聞いて知っていた」という主旨のフライング発言。

さらに後日、セクハラ問題についてインタビューされた際に「一口では言えず幅がある。お尻を触ることと子供に性的虐待を与えることとは違う。一括りにすべきでない」とも発言して大炎上(後日マットは謝罪しました)。他にも2004年頃に某メディアがワインスタインのセクハラ疑惑を知って記事にしようとした際、マットが記事のもみ消しに動いたという報道もあり、こちらも大変キナ臭くなってきてます。

『ユージュアル・サスペクツ』『アメリカン・ビューティー』で2度のオスカー受賞者、俳優ケヴィン・スペイシーは、1986年に当時14歳だった男性への性的暴行をしたことを告発され、謝罪と同時に自身が同性愛者であることをカミングアウト。しかしこの発言がカミングアウトに重点を置くようなニュアンスだったことから「問題のすり替え」と猛烈批判され、後に多くの男性から同様に「スペイシーから性的嫌がらせを受けた」と告発されました。

スペイシーはアメリカの人気ドラマ『ハウス・オブ・カード』で主演の大統領役を演じてましたが、シーズン途中でありながらクビとなり降板。また撮影中だった映画『ゲティ家の身代金』も降板。もう映画業界には戻って来られないのではないでしょうか。

※『ゲティ家の身代金』は撮り直しとなり、スペイシーの代役として急きょクリストファー・プラマーがキャスティングされました。プラマーはわずか9日間で撮影を完了。

『ゲティ家の身代金』は今回のアカデミー賞で他の部門へのノミネートが全くない中、プラマーだけが助演男優賞にノミネートされ、「アカデミー会員からの彼に対する敬意と贈り物」だとウワサされています。ノミネートは投票で決まるので不正選出とかの意味じゃないですよ。

昨年『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でキャリア初のアカデミー主演男優賞を獲得したケイシー・アフレック(ベン・アフレックの弟)は複数の女性に対するセクハラ疑惑で数年前に訴訟を起こされたことがあり(昨年示談となったようです)、今回セクハラ問題が取り上げられる中で再び騒動化するのを避けるためか、今年のアカデミー賞授賞式への出席を辞退しました。

※本来であれば前年の「主演男優賞」受賞者が今年の「主演女優賞」のプレゼンターを務める(その逆、前年の主演女優賞が今年の主演男優賞のプレゼンターも)というのが慣習なのですが、ケイシー・アフレックの辞退により、今年の主演女優賞はジョディ・フォスターとジェニファー・ローレンスが務めました。

また、バランスを取るためなのか、主演男優賞のプレゼンターは本来(昨年の主演女優賞を獲得した)エマ・ストーンであるはずですが、エマは監督賞のプレゼンターにシフト。主演男優賞のプレゼンターはヘレン・ミレンとジェーン・フォンダの熟女コンビが務めました。

前哨戦のゴールデングローブ賞で主演男優賞を獲得し、アカデミー賞でも主演男優賞の有力候補と言われていた俳優ジェームズ・フランコ。彼がゴールデングローブ賞に出席した際、セクハラや性差別に対する抗議を示す「TimesUp」のピンバッジを着用していたことが発端となり、フランコが主催する演技学校の元生徒など女性5名が「彼は偽善的だ」「彼からセクハラや性行為の強要を受けた」と告発。

ゴールデングローブ賞の直後に開催された「放送映画批評家協会賞」でもフランコは主演男優賞を獲得したのですが、セクハラ告発の大炎上もあり、フランコは授賞式をドタキャン。こういった動きもあってフランコはアカデミー賞の主演男優賞部門にノミネートすらされませんでした。

長々と書いてきましたが、私が把握してるだけでもこれだけのセクハラ関連騒動がありました。昨年は授賞式会場に来ていたベン・アフレックやマット・デイモンは(ノミネート作品に直接的な関係がなかったのもあるけど)今年の授賞式には姿を見せていませんでした。

2018年アカデミー賞授賞式の司会を務めたのは、昨年に続き2年連続となるジミー・キンメル。昨年は「宿敵」マット・デイモンとの絡みで大いに湧かせ、笑わせてくれましたが、今年はそのマット・デイモンが不在。にも関わらず軽妙なトークとシニカルなジョークは健在。

昨年最大のハプニングだった「作品賞発表ミス」に関しては

「今年は受賞だと呼ばれてもすぐにはステージに上がらないでください。慌てちゃダメ」
「アカデミー賞第1回では作品賞が2つあったそうです。昨年と同じですね」

と軽口。

LGBTに関しても、昨年作品賞を獲得した『ムーンライト』、そして今年の複数部門でノミネートした『君の名前で僕を呼んで』は共に同性愛を描いた作品なのですが、興行的に大ヒットした『君の名前で僕を呼んで』について、

「この作品を作った理由はお金のためじゃない。マイク・ペンスを怒らせるためです」

と軽口。アメリカのペンス副大統領はホモフォビア(同性愛嫌悪)と言われており、LGBTに関わる人々から批判の対象となっていることを絡ませてのジョークを発していました。

ケヴィン・スペイシーのセクハラ騒動による映画降板により撮り直しとなった『ゲティ家の身代金』に関するギャラ騒動にもキンメルは言及。追加撮影に参加した主要キャストのうち、主演のマーク・ウォールバーグには150万ドルのギャラが支払われ、共演者のミシェル・ウィリアムズはわずか日当80ドルしか支払われなかったことを語り、昨今のハリウッドで何度も叫ばれ、キンメル自身も度々口にしている「男女による雇用や賃金の格差問題」を指摘。

その後にキンメルは、ウォールバーグが(セクハラや女性差別の被害者を支援する)「TimesUp弁護基金」にギャラ150万ドルの全額を寄付したことも説明してフォロー(ウォールバーグ自身は共演者とそんなにもギャラの格差があることを知らなかったとも報じられています)。その後で、

「さあ、ミシェルはどうするんだい?」

と付け加えて会場の笑いを取ってました。あんたは鬼か。

キンメルは他にも、最近連続している学校での銃乱射事件にも少し触れるなど、現在のアメリカが直面している様々な問題について言及していました。

マジメ路線だけでは終わるわけがないキンメル。今年90歳となったオスカー像について

「ハリウッドで最も愛され、尊敬されている男性です。それは何故か。この像を見て下さい。キチンと手を見せてるし、失言もしない。何よりも重要なのは、オチ●チンがないということ。この街の男性に最も求められていることですね」

と下ネタをカマして、ここでもセクハラ問題をネタに笑いを取っていました。

また、この日は不在だったにもかかわらず得意の「マット・デイモンいじり」も炸裂。国民のために闘っている兵士を称え、戦争映画の名シーンを繋いでダイジェスト映像を流したコーナーでは、ほんの0.5秒ほどマット・デイモンの出演作品が写っていました。これを受けて映像終了後にキンメルが

「全ての兵士の皆さんに謝罪します。マット・デイモンを混ぜてしまいました」

と言ってのけ、会場は爆笑。授賞式の最後の最後では、自らのトークショーで決めゼリフにしている「マット・デイモンに謝罪します。出演時間がありませんでした」をお約束のように言い放ってました。

キンメルは他にも観客席に下りていき、すぐ横に座っていたスティーヴン・スピルバーグ監督に

「キミは誰?」
「マリファナ持ってる?」

と質問し、アドリブが出てこなかったスピルバーグを硬直させたり(あれはどういう意味のジョークだったんだろ)、サプライズ企画として会場の近くにある映画館にギレルモ・デル・トロ監督やガル・ガドット、マーゴット・ロビー、ルピタ・ニョンゴ、マーク・ハミルなどの大物監督や俳優陣と乱入した際も

「ここ、マリファナ臭いぞ」

とシャレにならないジョークをかますなど暴走も忘れませんでした。キンメルの隣りにいたガル・ガドット(ワンダーウーマンを演じた美人女優)が

オスカー会場よりこっちの方が楽しい〜

と何度も連発してるのを聞いて「お前、ハリウッドから干されるぞ…」とむしろ彼女のほうが心配になったりもしましたが。

私がアカデミー賞授賞式を見るようになって今年で10年。この間、多くの司会者が当日は大いに笑いを取って楽しませてくれたにも関わらず「2度とゴメンだ」と翌年のオファーを断っていました。それなのにキンメルは2年連続ですよ。

しかも昨年は歴史に残る「作品賞の発表ミス」という大事件を経験し、視聴率は過去9年間で最低だったことも判明し(内容や司会っぷりは全く問題なかったのに)、普通それだけネガティブな要素だらけなら断りますよね。それでも2年連続ですからね。大変な仕事をよく引き受けてくれたなと。

「大変な仕事を引き受ける」と言えば、

昨年、名作『俺たちに明日はない』の公開50周年記念ということでプレゼンターに選ばれ、作品賞の封筒を間違って渡される大トラブルに巻き込まれ、「作品賞はラ・ラ・ランド」と発表ミスするという大失態を演じてしまった、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイの主演カップルが、今年もまた大トリの作品賞でプレゼンターとしてリベンジ登場。

『俺たちに明日はない』の公開51周年記念です、というナレーションに続いて幕が上がり、ベイティ&ダナウェイが登場した時、私はお茶を噴きました。あんな災難に見舞われたというのに、よく仕事受けたなあ。いや受けちゃダメだろ(笑)

「皆さんに、また、お会いできて嬉しいです」と挨拶するベイティ。
「ほら、よく言うじゃない、1回目より2回目の出演のほうが嬉しいってね」と続けるダナウェイ。

昨年の発表ミスを受けてのジョークなのですが、ほとんど棒読み。2人とも喋りながら顔が引きつってる。ガチガチに緊張しまくってる。なんかもう可哀想すぎて笑える。

作品賞9作品のダイジェスト紹介映像が終わり、いよいよ受賞作品の発表。昨年の反省を受けてデザインが一新された封筒を開け、プルプルと小刻みに震える右手で用紙を取ろうとするベイティ。隣りに立ちながら、ものすごく不安そうな表情でベイティの挙動を見つめ、ピクリとも動かず時空を制止させてしまうダナウェイ。

ようやく用紙を取り出したベイティが「シェイプ・オブ・ウォーター」と(今年は間違えずに)作品賞を発表し、ここでようやく極度の緊張から解放されたか、ダナウェイは手を合わせて(この日初めて)満面の笑顔。大役を無事に終えたベイティも安堵の表情。見てる私も緊張して心臓止まるかと思ったわ。

歌曲賞にノミネートされた5曲のパフォーマンスも行われ、アーティストたちの熱唱も毎年盛り上げてくれます(『アナと雪の女王』が大ヒットしたキッカケは、アカデミー賞授賞式における「Let It Go」の感動的なパフォーマンスでした)。

今年もいろんな曲で感動させてもらったのですが、ヒュー・ジャックマン主演で現在日本でも公開中の『グレイテイスト・ショーマン』、このテーマ曲「This Is Me」のパフォーマンスはシンガーでもあり映画に出演もしているキアラ・セトルが大熱唱してスタンディング・オベーションとなってました。途中で歌いながら感極まるセトルを見て私は貰い泣き。

そのパフォーマンス映像は残念ながらまだオスカー公式動画としてアップされてないのですが、映画制作が決まる前の顔合わせ(ワークショップ・セッション)の時に同じ曲を熱唱している様子が動画としてアップされていたので載せておきます。こちらも感動しますよ。

りくま ( @Rikuma_ )的まとめ

毎年アカデミー賞授賞式の前後は見たい洋画作品が爆発的に増えて大変なことになります。今年も多くの作品に授賞式を介して触れることができたし、キャストの素顔も見られて大変楽しい時間でした。

キンメルは来年2019年も司会を受けて、史上初めて「3年連続司会」として歴史に名を刻んでくれないかなあ。来年はたぶんマット・デイモンも炎上が鎮火して来場するんじゃないかなと思うので、再び2人の低レベルな抗争を見てみたいものです。

受賞作品やノミネート作品の多くは最近になって日本でも劇場公開が始まってますし、公開待ちのものもあります。『ダンケルク』のように劇場公開が既に終了し、レンタル開始されてる作品もあります。

今回もいろんなジャンルの作品にスポットライトが当たりました。映画ファンの方々に多くの作品を楽しんでもらいたいし、その作品選びの参考になれば幸いです。

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