裁量労働制を違法適用したとして厚生労働省東京労働局から特別指導を受けた野村不動産で、社員の過労自殺があった問題を巡り、加藤勝信厚労相が過労自殺の報告を受けた経緯について同省は説明を拒んでいる。政府は同社への特別指導を違法行為の取り締まり事例として国会で紹介しているが、過労自殺の事実は認めていない。野党は「裁量労働制の拡大を目指した政府が、都合のいい部分だけ答弁したのでは」と追及している。
関係者によると、野村不動産の50代の男性社員は2016年9月に過労自殺した。裁量労働制の適用が認められない業務をし、残業が1カ月180時間を超えることもあった。東京労働局が同社への特別指導を公表したのは昨年12月だが、社員の過労自殺については触れなかった。
裁量労働制の対象拡大が議論になった今国会。安倍晋三首相は1月29日の衆院予算委員会で、同社への特別指導に言及し「政府としては制度が適正に運用されるよう今後も指導を徹底していく」と述べている。加藤氏も同様の答弁をしていた。
今月に入り、報道で同社社員の過労自殺が発覚。野党は厚労省幹部へのヒアリングを連日行い、過労自殺や特別指導を加藤氏にいつ報告したかを追及している。9日は同省の土屋喜久審議官が「個別の事案は答えられない」「個人情報保護の観点から回答を差し控える」とゼロ回答を連発した。
立憲民主党の長妻昭代表代行は特別指導について「(政府は重大な)事案を未然に防いだような趣旨で答弁していた。厚労相が過労自殺を知りながら答弁していたら、大きな責任になる」と経緯を明らかにするよう求めた。
加藤氏は9日の閣議後会見で「監督指導の中身について、どのタイミングでどういうことをしたかはお話しできない。詳細について申し上げるのは差し控えたい」と語った。【古関俊樹】