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番外643 魔人達との会食を
「これは気合を入れて料理を作らないといけませんね」
と、微笑むグレイスに、にこにことしながら頷くアシュレイ達である。表情はにこやかだし楽しいのだろうけれど……実際言葉通りに気合も入っているようで。みんなと連れ立って料理を作りにシリウス号の厨房へと向かっていった。
因みに隠れ里には偽装用の厨房はあるが、魔人達は普段通常の食事を必要としていないので食材の類が殆どない、との事だ。まあ、それは予想していたのでシリウス号に食材を積んできているから問題はないのだが。
「昼食会の時のように食事や音楽を楽しんで貰って……それから皆さんの希望を聞く、という流れになるでしょうか」
「承知した。まあ……感情の様子から見れば、皆の腹はもう決まっているようにも見えるがな。元々、我らの方針が纏まったからこそ接触を図ったのだし」
オズグリーヴは顎に手をやり、少し思案するようにして里の住民達を眺める。
住民達は広場に集まり、各々家族や友人と共にイルムヒルトが奏でるリュートの旋律に聴き入っているという様子であった。家に戻るよりも風景を見たり音楽を聴いたり……そう言った時間を過ごしたい、という事なのだろう。
その内に子供達はセラフィナに踊りを教えて貰って、拙いながらも身体を動かしたりして。大人達も家から敷布等を持ってきて広場に腰かけそれを見守ったりして。それら全てに新鮮な感動があるのか、時折頷いたり感動したように声を漏らしたりしていた。
オズグリーヴは封印状態ではないから……そうした彼らの様子を見ていれば、感情の動きで内心も分かるのだろう。里の仲間であるし、古参の魔人であるから洞察力も高そうだしな。
「皆さんの気持ちが固まっているとしたら……お祝いも兼ねて、という事で」
「そうだな。確かに」
俺の言葉に、オズグリーヴは楽しそうに笑う。それからふと真剣な表情になって言った。
「見通しが立ったから今後の話も今の内にしておこうか。里を守る結界はいくつか種類がある。常時発動型の物と、自動発動型の物だ」
オズグリーヴの言葉に頷く。こうして言及するからには、何かしら特殊な要素があるのだろう。
「まず……常時発動しているのはハルバロニスで研究されていた認識阻害の隠蔽結界だな。もう一つの自動発動型は、許可なく結界線――外壁を越えようとした者を遮断して排除する。こちらは魔人にも扱いが容易なように、研究を重ねて魔石を少し加工している。つまり――瘴気の防壁を展開するというわけだ。これはこの地に来てから研究を重ねた結果の独自の技術だ」
なるほどな。遮断結界は強力だが、消費が大きい。条件を満たした時のみの発動、という方が良いだろう。代わりに普段は認識を阻害して人目を逸らし、魔物を近寄らせない、と。
二重に結界を用意している、ということは食事が必要になった時に認識阻害の結界を解いて魔物を誘き寄せる、といった方法で運用する事も可能だろうか。
それよりも……注目すべきは瘴気の防壁であるとか、加工した魔石についてだろうな。
「結界線には儀式の効力が及ばないように注意した方が良さそうですね」
「そうだな。それと……加工法は私の頭の中だけにあるから技術が流出する心配は薄いが、できると分かっていれば他者の研究を行う可能性はあるな。故に、再現に至る可能性については否定できない。秘匿をするという意味でも、引き上げの際に一応留意しておいて欲しい」
「分かりました。このまま無事に引き上げとなった際にはそれも回収していきましょう」
どちらかというと魔人にとって有用な技術だろうしな。隠れ里を必要としている面々ならともかく、未だ他の種族に敵対的な考えを持っている魔人には知られたくない情報だ。
ああ。里を引き払った場合はもう一つやっておくべき事があるか。
「隠れ里を必要としている魔人が後からこの場所に訪問して来た時の事を考えて、ここに石碑のような形で伝言を残しておいた方が良いかも知れませんね」
「ヴェルドガル王国の境界公や、王国に身を寄せた私を頼るように、というところか。情報を知らずにここに訪問してくる者も……いないとは言い切れんな」
そうだな。こちらの方針に賛同してくれる魔人が他にもいるだろうから、オズグリーヴがヴェルドガル王国に身を寄せた、という情報は周知される事になるが、必要としている者の耳に届くとは限らない。この場合、情報のルートは多い方が良いだろう。
そうして段取りを打ち合わせてから、食事の用意も進めて行く。
魔人達は元々ハルバロニスの系譜なので米が口に合うかも知れないと、昼にライスをメニューに含めたが、やはり夕食も米を使った料理が良いだろう。大人数に振る舞う料理としては……やはりカレーが量を確保しやすくて良い。
初めてのカレーなので辛さは控えめである。迷宮産の食材もふんだんに使ったカレーなので気に入ってもらえると良いのだが。
シリウス号からカレーの大鍋を隠れ里の広場に降ろすと、その匂いに住民達は目を丸くしていた。レドゲニオス達から昼食会の話を聞かされていたらしく、子供達も期待に目を輝かせているようだ。
アイスゴーレム達が給仕役となり、運んできた大鍋から木魔法で量産した木の器にカレーライスを盛り付けていく。自家製ベーコンの入ったオニオンスープと、さっぱりとした味付けのコーンサラダもカレーに合わせた物だ。トレイにカレー、スープ、サラダを乗せて配膳完了だ。
「ん。転ばないよう気を付けて」
と、子供に配膳したカレーを渡すシーラである。子供は笑顔でトレイを受け取ると、同じくトレイを持って待っていた家族の所へと笑顔で向かう。
住民達は広場に布を敷いてそこに腰を落ち着けて食事をとるというわけだ。俺達も同じようにすればいいだろう。
そうしてみんなに食事が行き渡ったところで、頃合いを見計らって挨拶をする。
「改めて挨拶を申し上げます。まず――不安もあったでしょうに僕達を里に受け入れて下さった事にお礼を言わせて下さい。それから此度の事が今後の参考と、お互いの友好に繋がればと、食事と共に催しを用意しました。今後の事について僕から強制する気はありませんが、今後良い関係を築いていく事ができたら嬉しく思います。」
そう言ってからオズグリーヴに視線を送って場を引き継いでもらう。オズグリーヴも頷いて、前に出て挨拶をする。
「私は――今皆が感じている色や匂い……その世界をかつて自ら捨てた。当時は必要な事と信じてのものではあったが、我らのその選択が皆に苦労を掛けたと思う。だが……そんな苦難も新たな道が見えてきたと、境界公と話をして確信に至った。それでも生き方を強制はしないと境界公は気遣ってくれる。だがその気遣いを嬉しく思うのと同時に、ここにいるのは私にとって今日まで生活と苦楽を共にした仲間達だ。私としては1人として欠けることなく新たな門出を迎える事ができれば――嬉しく思う。今日のこの夕餉が、この場にいる誰にとっても良い時間になる事を願っている」
そうしてオズグリーヴは俺に向き直る。俺もそんなオズグリーヴに頷いて応じる。
「そうですね。先程はああ言いましたが、僕も同じ気持ちではいますよ」
「今日のこの宴が、今後の我らの新たな門出にならん事を」
そう言ってオズグリーヴと改めて握手をすると、広場に居並ぶ面々が笑顔で拍手を送ってくれる。周辺環境を考えると酒杯を呷っての乾杯というわけにはいかないが……ともあれ隠れ里の住民達も魔人化解除に前向きな反応で、俺としても安心できる部分があるな。
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