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父の思いと私の気持ち

父は苦労してこの会社を興した。仕事が生きがいの仕事人間だった。自分が作った会社なら誰しもそう思うように、父もこの会社を私に継がせたがった。私が小学生の頃から折に触れそういう自分の思いを伝えていた。誰に対して。私にではない。母に伝えていたのだ。それは、私がこの会社を継ぎたくないと思っていたからだ。それが父には分かっていた。私に言えば嫌がるだろうということを。しかし、継がせたいという思いを消すことは出来ない。それで私にではなく母に自分の苦渋に満ちた思いを伝えたのだと思う。
父がそう思うのは当然のことだ。それはよく分かる。でも、私は嫌だった。どうしてもこの会社には入りたくなかった。ひとつには、会社が関東にあるということ。ずっと大阪で育った私は、慣れ親しんだ土地を離れるのが嫌だった。いまひとつは、金属というものに全く興味がなかったからだ。この二つが、私がこの会社に入るのを忌み嫌った理由である。その頃はまだ経営というものがどんなものかも分からないし、自分にやって行けるかどうかも分からなかった。とにかく嫌で嫌でしようがなかったのだ。
嫌ではあったが、父が母に自分の思いを伝えていることを知って、私も苦しかった。父の気持ちが分かるだけにそれに応えることが出来ない自分であることを申し訳なく思っていた。父をかわいそうだと思った。嫌で嫌でしようがないけれど、父の気持ちは分かるしかわいそうだとも思う。板ばさみの状態にあったのだ。

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開​設日​: ​20​05​/6​/2​8(​火)​


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