疲れている方に読んでいただきたい―保住圭『俺もおまえもちょろすぎないか』(おまちょろ)発売記念インタビュー(後編)

主に成年男性向けのPCゲームで活躍する、フリーシナリオライターの保住圭さん。この度彼は、MF文庫Jから『俺もおまえもちょろすぎないか』を出版し、ついにライトノベル作家としてデビューした。ニジ★スタでは保住さんに直撃インタビューを実施。一部担当編集にも加わっていただきつつ、同作品を書くに至った経緯や、保住さんなりの作品論、そしてご自身についてもたっぷりと語っていただいた。後編では保住さんの人柄にも迫っていく。

全然やりきれていない

『おまちょろ』を書くにあたって、10代というまさに「現代の女の子」を表現する上ではどのようなネタ集めの方法を取っているのでしょうか?
保住 実はあまり現代っぽさは意識していません。昔とはツールが変わっているだけで、やっていることは変わらないと思うんですよね。自分たちの時代ではポケベルやPHSでしたけど、それがLINEになっただけというか。話している内容やライフスタイルが若い子たちに合っているのかはわからないので、もし10代に知り合いがいたらお金を払ってでもデートの後ろからついて行ってネタ集めをしたいくらいです(笑)。
あとがきにも書かれていましたが、JC(女子中学生)を扱ってみたかったとのことで、ライトノベルでJCを書くとなったときはやはり嬉しかったのでしょうか?
保住 それこそあとがきにも書きましたけど、書いて良いとなったときは「パアァ……」と笑顔になりましたね。「書いていいんだ……!」と(笑)。
いざ書いてみてこれまでの作品とは違いを感じましたか?
保住 個人的には「全然やりきれていない」と思っています。初々しさや可愛さは書けたと思っているんですが、例えば自分自身の身体との付き合い方とか、そういった突っ込んだ内容を書かないと表現しきれないなと思うところはありました。本来の仕事が成年向けのPCゲームライターなので、どうしてもそのあたりに頭が行くといいますか(笑)。
成年向けだからこその心理描写があるわけですね。
保住 もちろんそれがないからこその心理描写もあるので、今回はそれが詰まっていますね。ベッドシーンを書かなくて良いからこそほんのちょっとの接触が貴重であって、それは自分の考える中学生らしさや初々しさと密接に結びついた……高校生ほど擦れてないし、大学生ほど当たり前ではないといった、そういった接触感が(心理描写には)大事になってくるんですよね。特につぶらは自己分析をする子なので。
『おまちょろ』はこれまで保住さんを知らなかった層も手に取るものだと思いますが、どのように感じてもらえたら嬉しいといった希望はあるのでしょうか?
保住 可愛いなと思ってもらえたらそれで満足です。基本的に僕の仕事は「この子可愛くないですか!?」とみなさんに見てもらうというものなので(笑)。
それはこれまでのファンに対しても変わらないところとなりますか?
保住 変わらないですね。ただし今までのファンはベッドシーンありきの文章を読んでくださっていたので、じゃあそれがないからといって「味が薄くなったな」と思われてしまったら、作者としては「待って!」となるわけなんです。なので当然そういった方にもご満足いただけるように、「そういう描写がない代わりにこういうことができるんですよ」と、「こういう保住も楽しんでいただけたら幸いです」と思っています。
▲『俺もおまえもちょろすぎないか』書影▲『俺もおまえもちょろすぎないか』書影

帰りの電車で泣いたのをよく覚えています

それでは保住さんご自身についてもお伺いできればと思うのですが、どのような経緯で文筆業をされるに至ったんですか?
保住 話すと長いんですけど……(笑)。もともと小説もマンガも読むし描くし、という趣味だったんですけど、世代も世代なので“隠れキリシタン”的な状況だったんですね。ただ当時の好みはシリアス寄りで、萌えっぽいものは大嫌いだったんです。「軟弱者が!」みたいな(笑)。それがとあるきっかけでころっと好きになってしまい……というのも『エルフ』や『Leaf』(※編注:成年向けPCゲームブランド)の初期作品をやったということなんですが、「最高じゃん……!」と。
当時は学生だったので、その後は漫研に入ってしばらくは同人をやっていたんですが、絵を描くのはうまくなくて、描くのが遅いことに自分でイライラしてしまっていたんですね。そんな話を高校の同級生だったむっく先生(編注:『とらのあな』のマスコットキャラクターなどを描かれている漫画家)にしたら、「俺が絵を描くから君は文章を書きなさい」と言われたのでやってみて……。その企画自体はなくなってしまったんですが、書き上がった文章をメーカーに送ってみたら、一次試験だけは通過することができたんです。
むっく先生が重要な役割を担っていたんですね!
保住 友達の影響は大きいです。その後、別の友達にも「ちゃんとライターになれば?」と言われて、本気で目指し始めました。そして別のメーカーにも応募してみたら見事起用していただけることになって、いよいよこの仕事が始まりましたね。
デビューしてからいろいろあったとは思うんですが、印象に残っている出来事はどのようなものがありますか?
保住 まず大きかったのは、ライターとしてクレジットされた1作目の『まいにち好きして』(シリウス)と2作目の『魔法はあめいろ?』(同)のときに、「役者さんが声を当ててくれる」という現場に立ち会って、自分の書く文章の拙さを実感したことです。その2作ではディレクターさんが僕に判断を任せてくれる方だったのですが……自分の至らなさに帰りの電車で泣いたのをよく覚えています。本当に悔しかったですね。
保住さんにもそのような時代があったんですね。
保住 他には『はぴねす!りらっくす』(ういんどみるoasis)を作っているときですね。クライアントさんのところでは僕を含めた3人でシナリオを書いていたんですが、その3人でひたすら作品を掘り下げた話をしたんです。クライアント作業が終わったら3人で飲みに行って話して、サウナに行って話して、なぜか旅まで一緒にしてしまって(笑)。
仲良しですね(笑)!
保住 それまではずっと1人で作業をしていたので、複数人で作業をしながら膨らまし合ったのは大きな経験になりました。
そして今に至る、と。
保住 そうですね。そうしてもう一つ大きなことを挙げるとするならば、やっぱり『おまちょろ』が出たことです。生まれて初めて「これは自分の作品です」というものが出たんです。キャラクターの名前から性格からすべて自分のものと言えるのは初めてなので、僕にとってはすごくエポックですね。「あ、思うがままに愛情を注いでいいんだ!」という。心がうるおいました(笑)。
今後の作家人生で、保住さんが挑戦していきたいことはありますか?
保住 書きたいものはいろいろあるんですが、基本的には今までとあまり変わらないと思います。こういう子はどうですか?可愛くないですか?と。
僕は「保住圭」というキャラクター性を明確にしてきたからこそ生き残ってきたようなものなので、それを裏返してしまうのはどうなんだろうと思うんです。「保住圭」である以上、要求されるものはある程度理解しているつもりなので、いきなり人がバッサバッサと死んでいくようなものや、悲恋ばっかりのものを書くことはたぶんないな、と(笑)。
ファンが求めていることにしっかり応えていきたいと。
保住 もちろんそれを抜きにした個人的趣味で、“チャンバラもの”は好きですし、ずっと前から“ダークエルフとロリメイドの話”は書きたいと思っているので……でも、やるなら同人かなと思っています(笑)。
では文筆業以外にやってみたいことはありますか?
保住 サッカーが好きなんで、時間ができたらまたやりたいなあとは思っているんですが……今は不摂生が祟ってフットサルでも自陣から敵陣へ一度ダッシュするだけで使い物にならなくなるので、とりあえず体力をつけなければいけないですね。自転車も買ったんだけどなあ……いろいろ面倒になってしまって(笑)。
買って満足してしまうのはよくある話ですね(笑)。
保住 でも旅は好きなんです。自分で車を買って犬と一緒に旅に出たいなあという夢はあります。基本的に国内旅行ばかりなのですが、サッカーが好きで、旅が好きなので、海外へ観戦ツアーに行くなんていうのも良いですね。特にイタリアは美味しいものやお酒、美術品といった僕の好きなものが揃っているので……。
そのようなご経験をされるとアウトプットも変わってきそうですね。
保住 実はアウトプットのためのインプットをしていたら、最近神社好きになってしまったんです。
神社ですか!?
保住 昨年出た『はるるみなもに!』(クロシェット)が神様を扱ったゲームだったんです。もともと歴史は好きだったのですが神社や神道に関しては詳しくなかったので、必要だから資料を読んでいたらどんどん好きになってしまって。今となっては旅=行き先の神社で御朱印をもらってニコニコ、というほどまでになりました(笑)。もちろんあくまで神社への参拝がメインであるとは思っているんですけどね。
そうやって保住さんの中で循環してるんですね。本日はたくさんのお話をありがとうございました。最後に、作品をまだ読んでいない方へのアピールをお願いします!
保住 現代社会はストレスが多いと思います。疲れた方がいらっしゃると思います。昔、僕は父親がなんでセガール(スティーヴン・セガール)の映画ばっかり見ているんだろうと疑問でした。もっと世の中には深くておもしろい映画がたくさんあるはずなのに、なんでセガールが敵をなぎ倒していくだけの映画が楽しいんだろう……と。でもそうじゃないと、歳を重ねてわかりました。あれはきっと「日常生活に疲れているのでスカッとしたかった」からなんですね。なので自分の作品も、そんな、疲れている方に読んでいただきたいと、そう思います(笑)。
つまり、この作品は保住さんなりの……?
保住 そうですね、僕の書く“セガール”なのかもしれません(笑)。スカッとするというよりは、ほんわかドキドキするセガールですけど。
▲魅力的なヒロインに「ほんわかドキドキ」する作品▲魅力的なヒロインに「ほんわかドキドキ」する作品
今回のインタビューでは終始明るく、そして一言一句を丁寧に語ってくれた保住さん。そこから訊くことのできたお話は、ご自身の生み出した作品やキャラクター、そして読者を大切にしていることがとてもよくわかるものとなった。
ライトノベル作家としての処女作となった『俺もおまえもちょろすぎないか』は、日頃一作品につき数十万文字を書かれている保住さんにとっては非常に短いものであったかもしれないが、その中には“保住イズム“がぎっしりと詰まっているものとなっている。それでも「やりきれていない」と話す保住さんからは、今後もさらに濃厚なラブコメが生み出されるだろう。
  • 取材・文ニジ★スタ編集部
  • 取材協力株式会社KADOKAWA MF文庫J編集部

作品情報

俺もおまえもちょろすぎないか
著者:保住 圭
イラスト:すいみゃ
2018年1月25日発売
KADOKAWA/MF文庫J


【あらすじ】
付き合ってください!――少しでも“いい”と思ったらすぐに告白してしまう少年・星井出功成。
そんな彼の前に一人の少女が現れる。初鹿野つぶら――彼女は、超がつくほど生真面目な性格で、どんなことでも真正面から受け止めてしまう子だった。
誰にでも告白するナンパ男と思われている功成のことも、何か理由があるのだろうと一つ一つきちんと話を聞いてくれて……「好きだ!」そんな彼女に“俺のことを理解しようとしてくれた”と感動した功成は、すぐに告白!
対するつぶらは「私で喜んでもらえたのが嬉しい……この気持ちを理解したいのでもっと教えてくださいっ!」と、なんと付き合うことに!?
2人の恋路はまるで転がり落ちるように進展して――いく?
すぐデレてしまう少年と何でも喜んでしまう少女の超濃厚ハイスピードラブコメ!

関連記事

ランキング

1
2
3
4
5
もっとみる
ニジスタがお届けする珠玉のコンテンツをピックアップ。
人に、作品に、様々なスポットを当てて深堀りしたコンテンツをお届けします。
このコーナーの一覧
次の記事はありません