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KPIとは|KPI設定法とKPI指標をブランドマーケティングを例に図解解説

ブランディング指標(KPI)に関する解説

この記事に辿り着いたあなたなら、何らかの理由で「KPI指標」や「KPIの設定方法」に思いを巡らせていることだろう。

特に、本ブログのテーマである「ブランディング」は、目に見える「モノ」である「製品スペック」や「性能」とは異なり、極めて抽象性が高い概念だ。そのため、ともすれば可視化が伴わないまま「なんとなく」の感覚論に陥る。

しかし、見えないものは管理できない。そして管理できないものは、改善することもできない。

ブランディングはもちろん、あらゆるビジネス活動は投資を伴う以上、より少ないリソースで、より高い成果を達成する必要に迫られる。そしてそのためには、例え抽象度の高い「ブランディング」であったとしても、何らかの形で「目標の設定」や「戦略の実行と達成水準の評価」「次のステップに向けた改善活動」は必要不可欠な要素となる。

よって今回は「KPIとは|KPI設定法とKPI指標をブランドマーケティングを例に図解解説」と題して、ブランドマーケティングを題材に「ビジネスを成果に導くためのKPI設定の方法」や「モニタリング体系の仕組みづくり」について解説しよう。

冒頭で触れた通り、見えないものは管理できない。そして管理できないものは、改善することもできない。

もし、この解説を最後までお読みになれば、これまで「なんとなく」という感覚論でしかなかったあなたのビジネス活動は、より合理的で説得力の高いものに変わるはずだ。

目次

[表示する]

KPIとは何か?KPIの意味と目的

KPIの意味

KPIという言葉を聞いて、あなたはどのような印象を抱くだろうか?あるいは周囲のチームメンバーを思い浮かべて欲しい。どのような反応を示すだろうか?

KPIと聞くと、ともすれば「机上の話」「小難しい3文字用語」「数値一辺倒の世界」などをイメージし、つい敬遠してしまう人も多い。また、KPIの用途をビジネス活動の実績報告に限定してしまい、戦略的な意思決定に活かせていない方も多いはずだ。

しかし、KPIとは「目標を達成するためにプロセスが適切に実行されているかを計測・評価する指標」であり、ブランドマーケティングの文脈でいえば「ブランドの現状を把握するための道具」だ。

KPIとは

間違った現状認識の上に有効な戦略が成立しえない以上、KPIはブランドマーケティングの方向を指し示す羅針盤の役割を果たす。また、戦略を大きく転換する局面では、ブランドの現状を客観的に数値で捉え、ブランドの将来像を明確に共有するプロセスは必要不可欠となる。

KPIを設定する6つの目的

例えKPIの重要性が理解できたとしても「何を目的にKPIを設定するのか?」「なぜ、KPIを設定する必要があるのか?」に対する深い見識が伴わない限り、KPI設定は形骸化する。現に、KPIが「単なる事後報告用の数値」でしかなくなる例は枚挙にいとまがない。

逆にKPIの「目的」や「必要性」を深く理解できれば、様々なKPI指標を洞察・解釈し、ネクストステップへ向けた様々な示唆を導き出すことができる。

よって、まずは「KPI設定の目的は何か?」「なぜKPI設定が必要なのか?」について解説しよう。

KPIを設定する目的-1:現状を把握し、課題や強みを見出すため

現状の課題と向き合わない戦略や施策はあり得ない。

「現状のブランド課題を解決する」あるいは「ブランドの強みを活かす」ためには、自社ブランドの現状把握は欠かせないステップだ。

もし、あなたが適切にKPIを設定できれば、ブランドの現状は可視化され「時系列比較」や「競合比較」によって、ブランドの課題や強みを見出すことが可能になる。

KPIを設定する目的-2:目指すべき目的を明確にするため

ブランドの課題や強みを客観的に把握できれば、ブランドマーケティングの「次の目的」が設定しやすくなる。

例えば、もし「時系列で見たときに、過去と比べてブランド連想が希薄化している」なら「ブランド連想の強化が急務」となる。

参考:

あるい「競合ブランドと比べて低品質の印象を持たれている」なら「知覚品質の向上」がブランド戦略上の目的となるだろう。

参考:

KPIを設定する目的-3:目指すべき目的の達成水準を明確にするため

例えブランドマーケティングの目的が明確になり、進むべき方向が明確になったとしても、その「達成水準(=目標)」が定まらなければ、どの程度のリソースを確保していいかがわからない。

しかしもし「目的」「戦略」「施策」のKPIが数値として適切に設定されていれば、それぞれの要素間の因果関係を統計的に明らかにすることができる。

上記の例でいえば「目的はブランド連想を強化すること」に加え「その達成水準はブランド連想のスコアXX%からを〇〇%にすること」などの目標設定が可能になる。結果、適切なリソースの確保がしやすくなるはずだ。

KPIを設定する目的-4:目標達成に向けたKFSを見出すため

ビジネスの本質は「最小の投資で最大の効果を上げること」であり、これはブランドマーケティングも例外ではない。そして「最小の投資で最大の効果を上げる」ためには「何に資源を集中させれば効果は最大になるのか?」という選択と集中が欠かせない。

先ほどのブランド連想の例でいえば、もし様々なブランド連想をKPIとして設定できていれば、

  • 「ブランドの実績に起因する連想」を向上させるべきか?
  • 「ブランドの独自性やキャラクターに起因する連想」を向上させるべきか?
  • 「ブランドの将来性や革新性に起因する連想」を向上させるべきか?
  •  etc…

など「どのブランド連想にリソースを集中すれば、最も目標達成にインパクトがあるのか?」という因果関係を明らかにできる。その結果、成功のためのKFSを見出すことが可能になる。

KPIを設定する目的-5:チームを同じ方向に向かわせるため

KPIを単なる数値ではなく「意味や意図を持った指標」として捉えることができれば、チームを同じ方向に向かわせることが可能になる。

KPIを通してチームのアクションをつないでいくためには、1つ1つのKPIがどのようなメカニズムで連鎖していくのかがわかる「筋のいいストーリー」が必要だ。

  1. 現状のブランド課題はブランド連想の希薄化だ。
    →KPIの現状数値で把握
  2. よって、来期はブランド連想の強化が急務となる。
    →目的の設定
  3. 来期は、ブランド連想のKPIを〇〇%の水準にしよう
    →目標設定とリソース確保
  4. そのために必要なのは「将来性や革新性があるブランド」としてのブランド連想だ
    →目標達成のためのKFSの設定
  5. 来期は「将来性や革新性があるブランド」というブランド連想強化にブランディング資源を集中しよう
    →チームの共通認識創り

単に「数値が並んでいる」状態より「数値の上にストーリーが乗っている」状態のほうが、人は直感的に理解しやすく、共通認識も持ちやすい。

重要なので繰り返すが、KPIが「無味乾燥な数値の羅列」のままなら、それは単なる「実績報告用」で終わってしまう。しかしKPIを過去ではなく未来を見据える道具として捉えれば、KPIは「ブランド課題を解決するストーリー」へと変わるはずだ。

KPI設定の目的

KPIを設定する目的-6:PDCAを回し戦略や施策を進化させるため

あなたのビジネス活動は「やりっぱなし」で終わっていないだろうか?

冒頭で「見えないものは管理できない。そして管理できないものは改善できない」と解説したが、どのようなビジネス活動も「やりっぱなし」ではその善し悪しがわからない。そして善し悪しがわからないということは、改善すべきポイントもわからないため、次のビジネス活動も「経験と勘」に頼ることになる。

そして「経験と勘」に頼ったビジネス活動は目的も達成水準も不明瞭となるため、再び「やりっぱなし」となってしまう悪循環に陥る。

「明確なKPIが設定されていない」ことの本当の怖さは「経験と勘」や「なんとなく」が放置されたまま長期に渡って悪循環に陥ることにある。

もし仮に、あなたの競合ブランドが適切なKPIを設定し、常にビジネス活動を進化させ続けていれば、3-5年であなたのブランドとの差は歴然となるはずだ。

KPI/KGI設定の手順と方法

あらゆるビジネス活動が未来に向けてなされる以上、KPIは「組織を動かすためのツール」として捉えるべきだ。しかし一方でKPIは人や組織を動かす強力な力学になりうるため、意図しない副作用を生んでしまうリスクも存在する。

よってここからはKPIを設定する上での手順やポイント・留意点について、ブランドマーケティングを事例に解説しよう。

KGI設定の手順と方法:KGI設定と具体例

KGIとは(Key Goal Indicator)の略語であり、日本語では「重要目標達成指標」と訳されることが多い。いわば「目標(ゴール)に対する達成度合いを定量的に表す指標」のことだ。

KGIとは

目標(ゴール)に対する達成度合いを定量的に表す指標

目的志向の立場に立てば、KPIを設定する上で初めに考えるべきは、最終ゴールであるKGIだ。

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ブランドマーケティングにおいては、KGIは以下の指標を設定することが多い。

  1. 売上高
  2. 粗利益(売上総利益)
  3. 営業利益
  4. 貢献利益

以下、簡単に解説しよう。

KGI指標の具体例-1:売上高

KGIを売上高に設定する利点は、誰にとってもわかりやすいことだ。あなたの会社が営利企業なら「売上高が重要だ」という意見に異論を挟む人はいないだろう。

一方で、売上高には「コストの視点」が入っていない。そのため、理屈上は「売上高を上げるためなら、コストは無尽蔵に使って構わない」ということになってしまう。

よって、売上高をKGIに据える場合には、予算計画など「コストに歯止めをかける」仕組みが、別途必要だ。

KGI指標の具体例-2:市場シェア

店頭消費財を扱っている大手企業は「市場シェア」をKGIとして設定していることが多い。しかし市場シェアは「市場規模÷自社ブランドの売上高」で決まることから「KGI=売上高」と同様に「コストの視点が入らない」という問題は残る。

特に市場が衰退している局面では「自社ブランドの売上下降スピード」より「市場規模の縮小スピード」のほうが早いケースも想定される。その場合「自社ブランドの売上は落ちているのに市場シェアは上がった」という状態も想定しうる。

これをもって「市場シェアが拡大しKGIを達成しました!」と喜ぶことがいかに的外れであるかは、鋭いあなたならご理解いただけるはずだ。

市場縮小局面で重要なのは「売上高が減少しても利益が残せる体質づくり」である「固定費の削減」だ。

市場シェアは、市場の成長期や成熟期では有用なKGIとなりうるが、市場縮小局面では誤った意思決定を産み出してしまうことに留意が必要だ。

KGI指標の具体例-3:粗利益(売上総利益)

粗利益(売上総利益)をKGIに設定する利点は、売上高と異なりコストの概念が含まれていることだ。

また「粗利率が高い」ということは「製造原価に対して付加価値が高い状態で販売できている」ことを意味する。そのため、ブランドマーケティングの効果の一つである「価格プレミアム」を反映したKGI指標といえる。

しかし粗利益(売上総利益)には販管費(人件費や広告宣伝費など)が含まれていないため、コンサルティング会社やシステム構築会社など、製造原価が低く販管費が高い労働集約型のビジネスには不向きな指標だ。

KGI指標の具体例-4:貢献利益

貢献利益とは「売上高から”売上高に比例して変動する原価&販売費”」のみを差し引いた利益のことを指す。逆を言えば「売上が上がろうが下がろうが一定額かかる原価&販管費(=固定費)」は無視する、という考え方だ。

固定費の代表例といえば「工場の原価償却費」「地代・家賃」「オフィスの光熱費」などが挙げられるが、これらの固定費はブランドマーケティングとは直接無関係であり、かつ、マーケティング担当者のみではコントロールできない。

もしあなたの上司から「今年度は本社オフィスの家賃が上がったため、利益目標は未達でした」と言われたら、あなたは納得できるだろうか?

だとすれば「マーケティング担当者のみでコントロールできる費用(=変動費)」のみを差し引いた貢献利益をKGIとして設定したほうが、ブランドマーケティングの善し悪しを見える化しやすくなる。

ブランドマネージャー制を採用している外資系企業などでは、KGI(重要目標達成指標)として貢献利益を設定している企業も多い。

参考:

ブランドマネージャー制とは|ブランドマネージャー制度の利点と欠点 - Mission Driven Brand

KGIが設定できたら、次の手順は「KGIのブレークダウン」となる。KGIに対して因果関係のあるKPIへと因数分解していくステップだ。

ここからは話を簡単にするために「売上高」をブランディングKGIに設定したと仮定して解説を続けよう。

KPI設定の手順方法-1:KGI(年間売上高)をブレークダウンする

「年間売上高」は、例えば以下のようにブレークダウンが可能だ。

「売上高」の分解=

年間顧客数 × 平均客単価 × 年間平均購入頻度

あなたのブランドの売上高は「ブランドを購入していただいた顧客の数(=顧客数)」と「お客様1人当たりの購入単価(=平均客単価)」「1年間の平均購入頻度」の掛け算で決まる。

つまり「売上高」というKGIに対して直接因果関係のあるKPIは「顧客の数」と「平均客単価」「平均購入頻度」となる。つまりこのどれかを向上させれば、KGIである売上高は向上する、という関係だ。

KGIのブレークダウン

さらに「顧客の数」は「新規顧客の数」と「リピート顧客数」に分解できる。

「顧客数」の分解=

新規の顧客数 + リピート顧客数

また、平均客単価は以下のように分解できる。

「平均客単価」の分解=

商品単価 × 購入1回当たりの平均購入個数

これらをKPIの構成図であるKPIツリーで示すと以下の図の通りとなる。

KPIのブレークダウン

このようにKGIと因果関係のあるKPIを設定しておけば「売上高(=KGI)が下がった」際にも、KPIの数値変化をモニタリングすることでその原因(KPI)を特定できる。

KPIの設定方法-2:新規顧客の数をブレークダウンする

さらにここからは「新規顧客の数」に絞ってブレークダウンを進めよう。「新規顧客の数」は、例えば以下のようにブレークダウンが可能だ。

「新規顧客の数」の分解=

新規に購入意向を持った人の数 × 購入率

ここで鋭いあなたならお気づきかもしれないが「新規に購入意向を持った人の数 × 購入率」は、以下のような考えを反映している。

  1. 新規に購入意向を持った人の数←「ブランド力の代替指標」
  2. 購入率←「セールス力の代替指標」

このブログでは「ブランド力=ブランドに対する、生活者からの感情移入の度合い」と定義している。つまり「あなたのブランドに対して強く感情移入しており、ぜひ購入したい」と思っている人が多ければ多いほど「ブランド力が強い」状態となる。

一方で「購入率=セールス力」とは、ブランドに対して感情移入し「ぜひ一度購入してみたい」を思った人を顧客化していく取り組みを指す。例えば「チャネルカバー率を上げる」「店頭での露出度を増やす」などの取り組みを通して「買いたい人が買いやすい環境」を創り上げていく活動だ。

かつてドラッカーは「マーケティングの理想はセールスを不要にすることである」という名言を遺したが、これはブランドマーケティングにも当てはまる。

ぜひあなたに想像してみて欲しい。

あなたのブランドに感情移入し「ぜひ買いたい」と思う人が「全くいない状態」と、大多数の人があなたのブランドに感情移入し「ぜひ買いたい」と思っている状態では、どちらのほうがセールス活動の生産性は高まるだろうか?

このように「セールス活動」だけでなく「ブランディング活動(=新規に購入意向を持つ人の数を増やすこと)」の役割も定義しKPIを設定すれば、これまで「セールス頼み」に偏っていたマーケティング活動を大きく変えていくことができるはずだ。

KPIのブレークダウン*新規の顧客数)

KPI設定の手順と方法-3:「新規に購入意向を持った人の数」をブレークダウンする

続いて「新規に購入意向を持った人の数」をブレークダウンしてみよう。アーカーのブランドエクイティモデルに従えば、ブランドエクイティ(≒ブランド力)を構成する要素は以下の4つとされる。

  1. ブランド認知
  2. ブランド知覚品質
  3. ブランド連想
  4. ブランドロイヤリティ

参考:

この4つの中で「ブランドロイヤリティ」は「既存顧客がブランドに対して感じる愛着の度合い」であるため「新規に購入意向を持った人の数」から省く。すると以下の通りとなる。

「新規に購入意向を持った人の数」の分解=

ブランド認知者数 × 知覚品質(品質評価度) × ブランド連想(好感度)

生活者は、知らない物は欲しがれない。

だとすれば、あなたのブランドを「一度購入してみたい」と思ってもらうには、その前提としてブランドが認知されていなくてはならない。

また、例えブランドが認知されていたとしても、品質に対する評価(=知覚品質)や「自分の好みに合いそうだ」と感じる好感度(=ブランド連想)が伴わなければ「このブランドを買いたい」という気持ちは生まれない。

つまりアーカーのブランドエクイティモデルに従えば「新規に購入意向を持った人の数」にインパクトを与える下位KPIは「ブランド認知者数」「知覚品質」「ブランド連想」となる。

そしてこれらのように「新規に購入意向を持った人の数」をさらにブレークダウンしてKPI設定しておけば、もし新規顧客数の伸びが芳しくない場合に、

  1. ブランド認知者数が少ないことが原因なのか?
  2. ブランドの品質が生活者に認識されていないのか?(=知覚品質)
  3. ブランドの好感度が低いのか?(=ブランド連想)

などに分解して、その原因を具体的に検討することが可能になる。

KPIのブレークダウン(新規購入意向者数)

KPI設定の手順と方法-4ブランド認知者数を分解する

最後に、ブランド認知者数は以下のように分解できる。

「ブランド認知者数」の分解=

ターゲット人口 × ブランド認知率

ブランド認知者数は「ターゲット人口」と「ブランド認知率」の掛け算で決まる。

もし、これまで見てきたKPIが正常であるにもかかわらず「KGIが上がらない」という状態に陥っているのなら「そもそもターゲット人口が少ない」か、あるいは「ターゲット人口は十分だが、ブランド認知率が低い」のどちらかを疑ってみよう。

KPIのブレークダウン(ブランド認知者数)

KPI/KGI管理の留意点

冒頭でも触れたが、KPIは人や組織を動かす強力な力学になりうる反面、解釈を間違うと意図しない副作用も生むことがある。

よってここからはKPI管理における留意点を簡単に紹介しよう。

KPI/KGI管理の留意点-1:「戦略」と連動させる

当たり前のことだが、KPI/KGIは戦略を実現させるためのツールである以上、戦略との連動が欠かせない。その際に重視したい視点は2点ある。

1つ目はKPIツリーの「切り口」の視点だ。

先ほど紹介した事例では「セールス活動」だけでなく「ブランディング活動(=新規購入意向者の数を増やすこと)」も加えることで「ブランディングで購入意向を生み出し」「セールス活動で顧客化する」という戦略が実現することを紹介した。

このように、戦略はKPIツリー上の「分解の切り口」と密接に結びついている。そして数ある「切り口」の中で、どの「切り口」を選びKPIとしてブレークダウンしていくかが、あなたの腕の見せ所であり、戦略となる。

KPI設定のコツ1

また、2つ目に重視したい視点は、KPIの「優先順位」だ。

KGIをKPIツリーとして分解していくと、数多くのKPIを設定することができる。しかし「すべてのKPIを向上させる」ことは、いわば「全部頑張ります!」と言っているのと等しく、それは戦略ではない。

戦略とは、突き詰めれば「限られた資源を有望分野に集中させ、競合ブランドを出し抜く」ことを指す。よって、KPIを設定する際にも「どのKPIの優先順位が高いのか?(=資源を集中させるのか?)」という「優先順位」をはっきりさせておこう。

KPI/KGI管理の留意点-2:「目的」と「達成水準」をセットで考える

KPIは「進むべき方向を明確にする」という「目的の明確化」の側面と「その目的に対する達成水準を明確化する」という「目標の明確化」の両面を併せ持つ。

よってKPIを設定する際には、常に「目的」だけでなく「達成水準」も念頭に置こう。

KPI/KPG管理の留意点-3:上位KPIと下位KPIの関係を意識する

KPIはKGIを達成する上での中間指標である以上、上位KPIと下位KPIの関係は「因果関係」か「要素分解関係」で成り立っている必要がある。

理想を言えば数値的な因果関係や要素分解関係が成立していることが望ましいが、KPI設定当初はデータが揃わず数値的な証明が難しいケースも多い。しかしその場合でも最低限「ロジックで筋が通っている」状態を目指すべきだ。

KPIとMECE

KPI/KGI管理の留意点-4:同じ階層間のKPIがMECEにする

MECEとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取ったもので「お互いに重複せず、全体に漏れがない」という訳になる。世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼーが世に広めたロジカルシンキングの考え方の一つだ。

このMECEはKPIツリーを策定する際にも非常に重要な考え方となる。

なぜなら同じ階層のKPIで重複があると「無駄な重複投資」や「重複業務による生産性の低下」を招くからだ。

一方で、逆に「漏れがある」ということは、KGI達成までのロジックに「見落としがある」ことを意味する。もしこの「見落とし」が戦略上致命的なものであれば、あなたのブランドマーケティングはスタートから失敗することになりかねない。

重要なことなので繰り返すが、KPIとは、時に組織を動かす強い力学となる。KPI設定の重複や見落としにより組織を失敗に導かないために、MECEの確認は入念に行おう。

KPIとMECE

KPI/KGI管理の留意点-5:時間軸とKPI感応度を念頭に置く

KPIには「短期的な施策で変化する、感応度が高いKPI」と「長期的に一貫性させることで初めて変化する、感応度が低いKPI」が存在する。

例えば「CM認知率」はCMと投入すれば短期的に変化するが「知覚品質」や「ブランド連想」などは、長期に渡る一貫した施策を経て初めて変化が現れる遅効性の高いKPIだ。

もし「時間軸」や「KPI感応度」の検討・共有がないままKPIを運用してしまうと、それぞれの関係者の認識がずれたままとなり、評価の段階で紛糾することになる。

特に「ブランドマーケティング」は長期に渡る一貫性が必要となるため、短期的な成果が欲しい関係者から非難と的になりやすい。しかし、短期的に成果が出る施策は、競合企業にとっても短期的な成果が出やすい施策であり、結果、同質化によるブルーオーシャンに陥りやすくなる。

一方で、長期的にブランドの競争力(=ブランドに対する感情移入の度合い)を積み上げていくブランディングの場合、いったん「強いブランド」を構築してしまえば、競合ブランドにとっては短期的に真似できない長期的な競争力となる。

KPIには「短期・瞬間風速型」と「長期・積み上げ型」という性質が異なる2つのKPIが存在する。よってこの2つを明確に切り分けた上で「短期的な成果」と「長期的な競争力」の2つの視点を念頭に置きながらKPIを設定していこう。

KPIの運用:モニタリング体系の仕組み創り

ブランドマーケティングの取り組みは、必ずしも想定通りに進むとは限らない。横道にそれたり、想定外の事態が起こった際には早期に察知して、それ相応の修正・調整を加えていかなくてはならない。その際に重要となるのが、KPIのモニタリングの仕組みだ。

しかし多くの企業では人事異動でマーケティング担当者が変わるたびKPIの定義やデータの収集方法が変わるなど、一貫したデータを蓄積していない。

また、それぞれの部門がそれぞれの「独自解釈KPI」を設定しており、何が社内で一貫した「公式KPI」なのかがわからない、という状態も散見される。その結果、マーケティング担当者と営業とが異なったKPIを参照することになり、議論が混乱してしまうケースも後を立たない。

このような混乱を防ぐためには、KPI設定に加えて、以下の要素を検討しておくとよい。

  1. KPIの収集方法
  2. KPIの収集時期
  3. KPIの収集頻度
  4. KPI収集の実施体制と責任部門
  5. モニタリング結果のレポーティングライン

それぞれの部門が「独自解釈KPIを持ち寄って混乱する」ことを避けるためには、KPIを設定するだけでなく上記の6つも同時に検討し、あなたの企業内部での「公式KPI」が何であるか、そして「公式なKPIデータ取得方法」を決めて、部門間コンセンサスを取っておこう。

また、上記を取りまとめた「KPIモニタリング公式マニュアル」として形に残しておくのも手だ。

終わりに

今回は「KPIとは|KPI設定法とKPI指標をブランドマーケティングを例に図解解説」と題して、KPI設定について解説した。

 今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。(過去記事と今後の掲載予定はこちら

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