【経緯】
自分のブログに、ある有名なアニメ作品についての感想をいくつか書いたら、それが思いの外ツイッターでバイラルになった。「○○についても書いてください」とコメントされたので応じたり、作品中のシンボルの意味について解説したりしていたら、それも誰かにツイートされ、たくさんのRTを集めていた。
作ったまま放置していたブログ用のツイッターアカウントも、そのアニメのファンたちにフォローされるようになった。
フォローされたりしたりしているうち、すっかりフォロワーが増えた。そこで、ツイッターにその作品のファンコミュニティのようなものが存在することに気づいた。
そして交流がはじまった。
そのコミュニティはゆるく、メンバー制というわけでもなく、離れるも離れないも自由、交流するもしないも自由だった。コミュニティとイコールの言葉ではないが、その場を指して「沼」や「ジャンル」という言葉がよく使われていた。
メンバーのほとんどが二次創作を行っていて、フォロワー数、投稿作品のいいねやRTが多いほどヒエラルヒーが高い(が、それをあからさまに指摘する人はいないし、それらを気にする行為は「承認欲求強そう」という印象を与えるため避けられる)。
メンバーは大まかに「絵描き(絵を描く人)」、「字書き(小説を書く人)」、後述するその他に分類されており、それぞれに何人かインフルエンサー的存在がいた。彼女らは「大手」と呼ばれていて、フォロワーも多く、多くのいいねを集め、作品は一日何回もRTされていた。
オフ会にも何度か行った。驚いたのは、おしゃれな今時の女性が大半であり、外見を気にかけない人や奇抜な格好の人は非常に少ないということ。オフ会に現れる人の特徴なのかと思ったが、その場にはコミュニティの大半が来ていた。ショップ店員、BA、役者の卵、イベコン、キャバ嬢なんかもいた。職業は医療事務、IT、美大生が多かった印象。
私が主に仲良くしていた人たちは、全員恋人や配偶者がいて若くておしゃれ。ネイルもまつ毛エクステももちろんするし、していても違和感がない。女優やモデル並みの美女ではないかもしれないが、みんなモテそう、付き合ってる人がいそう、という印象の外見だった。
ただ、仲の良い人に聞いたところ「このジャンルが特別な気はする。他ジャンルの人は、いかにもオタクって人がもっと多い。でも、最近はオタクにもおしゃれで普通に可愛い人が増えてるのは確か」とは言っていた。
【気づいたこと】
・オタクコミュニティには「字書き」「絵描き」以外の人も存在する。ブログやツイッターに作品についての「考察」(大抵は深読みやこじつけ、感想レベルだが。自分もここに分類されていた)を書く人。キャラクターがもしこんなことを言ったら……という「妄想ツイート」で人気を集める人。キャラ弁を作ったり、アニメの料理を再現したりする人。消しゴムハンコを作る人。ドット絵やGIFを作る人。ひたすらRTする人。
・謎の挨拶文化がある。フォローした時、された時に、「フォローありがとうございます。○○さんの考察、ブログでよく読んでます!誤フォローでなければこれからもよろしくお願いします」と長ったらしいリプライが飛んで来る。これには最後まで慣れなくて困惑した。
・オフ会が盛ん。週一でお茶やランチをしているような人もいて、普通に友達として仲良くなっていた。オフ会では毎回手紙やお土産を持ち寄って交換し合っていた。
・女性ファンの多い作品だったが、コミュニティには数名の男性もいた。オフ会にも来ていて普通に溶け込んでいた。外見は地味だが、オタクという感じはしない。控えめだがしっかりしていて聡明な印象の人ばかり。
・「学級会」は都市伝説ではなかった。例えば「模写のことを目トレスと呼ぶな」とか「投稿作品にコメントしないのはジャンルの衰退に繋がる」とか、どうでもいいことで揉めていた。説教臭い内容のツイートがRTで回ってくることも多かった。
・「萌え」は死語だった。「尊い」「つらい」「無理」などが使われていた。「つらい」は、「○○かわいすぎ…つら…」、「無理」は「なにこれ(かわいすぎて)無理…」のように使われていた。
・作品を褒める時の独特の言い回しがある。「語彙力」「文字数」など。「語彙力」は「あなたの作品は素晴らしいのに私の語彙力が足りず大したことが言えません」という場合に使う。「文字数」は「あなたの作品は素晴らしいのにツイッターに入力できる文字数の限界がきたのでこれ以上書けません」という場合に使う。あとは、絵文字を多用する。
・セックスの話が明け透け。驚いたのは「○○さんの絵、性癖です!」という言い回し。「○○さんの絵からフェティシズムを感じるので好みです!」という意味のようだった。「股間に悪い」という言い回しにも驚いた。「全裸待機」も「ドチャシコ」も男性でなくとも使う。R18関連の話題も昼間から屈託なく話されていて驚いた。
・Pixiv以外にも創作物を公開する場がある。ツイッター、プライベッターなど。ツイッターやプライベッターは日常的に作品を投稿する場で、Pixivは作品がたまったらそれらをまとめて投稿する場という印象。プライベッターは「ベッター」、Pixivは「支部」と呼ばれていた。海外ファンと交流したい人はTumblrを利用していた。
・交流のためにハッシュタグが活用されている。「#いいねした人の印象を答える」「#いいねの数だけ好きなマンガを紹介する」などが定期的に流行る。
半年くらい交流は続いたが、結局私はツイッターアカウントを削除した。トラブルがあったわけではない。理由は下記の通り。
・苦手な雰囲気があった。フォローされると挨拶してフォローを返して、誰かが投稿した作品にいいねやRTをしてリプライで感想を書いて、という行為を強制する雰囲気や、謎の同調圧力、あれは禁止、これは地雷(触れられたくない話題)とよく分からないルールに縛られるのが辛くなった。
・そもそも二次創作に興味がなかった。また、女性キャラクターは純潔で男性キャラクターはプレイボーイ、二人ともモテるのにお互いに惹かれ、最後は結婚して子供を産み幸せになるという設定の二次創作物ばかりなのにうんざりした。
・性的な話題が多く、さらにそこに差別的な話題が乗ることが多くて閉口した。そのコミュニティだけなのかも知れないが、特にBL愛好者の一部(決して全員ではないと強調しておく)が差別的な話をしていた。カースト制が存在し、下位の男性が上位の男性になぶられ続けるのが当然の社会があるという設定の話題や、モブキャラクターがメインキャラクターに暴行を加え続けるという話題を鍵なしアカウントで延々と続けられるのは辛い。さらに性的マイノリティへの差別発言も多かった。そのコミュニティだけかもしれないが、なぜかGL愛好者のほうはLGBTに対する高い見識を備えた人が多かった。当事者がいたのだろうか?
・名状しがたい宗教臭さがあった。ファンコミュニティとはそういうものかもしれないが。キャラクターをいかに愛しているか、そのために自分はどのような行動(ほとんどは奇行に思えた)に走ったか、というツイートが頻繁になされ、深読みしたようなテーマ(「キャラクターの名前は○○の神話から取ったのでは?」とか。欧米に多いありふれた名前だった)が真剣に話され、それを端緒に揉めていることに違和感があった。あとはカリスマとされる人が発生し、その人が教祖のように振舞って選ばれた者だけのチームを作り始めたのが気味悪かった。
とはいえ、仲良くしていた人とは作品抜きで友人になれた。今も時々会う。知らない世界を覗けて、なかなか面白い経験だったので自分のために書き残してみた。