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えっ、あれもこれも犯罪になるの?日常に潜んでいる、ついやりがちな軽犯罪。「知らなかったから、しょうがない」と開き直っても、警察は許してくれません。あなたはちゃんと法律を守っていますか。

松居一代のケース

1月19日、心霊スポットとして知られる廃墟に立ち入ったとして、千葉県木更津署は男性6人を軽犯罪法違反(立ち入り違反)の疑いで書類送検した。

廃墟であっても他人の土地に無断で入ることは法律的に許されない。軽犯罪法や住居侵入罪(刑法130条)は他人だけでなく、夫婦間であっても適用されるケースがある。

弁護士の荘司雅彦氏が解説する。

「たとえ夫婦であっても共同生活の実態がない場合、相手の家に無断で入ると住居侵入罪が成立します。別居中の妻の留守中に、合いカギを使い自己所有家屋に侵入した夫が逮捕されたという判例もある」

昨年、船越英一郎とドロ沼の離婚騒動を繰り広げた松居一代。彼女も船越の別宅マンションからパスポートやノートを持ち出し、ネット上に公開したことで住居侵入罪に問われていたという。

ちょっとしたイタズラや嫌がらせが、法的に立派な犯罪になる――。なにがアウトで、なにがセーフなのか。陥りやすい、身近な「軽犯罪」の具体例をみていこう。

■指定日の前日の夜にゴミを捨てる

都内で積雪を記録するなど、寒い日が続くこの季節、早朝のゴミ出しを億劫に感じる人も多いだろう。が、だからといって前日の夜中にこっそりゴミを捨てると犯罪になるという。

「決められた指定日以外にゴミを出す行為は、廃棄物処理法違反に該当します。廃棄物処理法16条には、『何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない』と規定されており、違反すれば5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金となります。

指定日の前日の深夜に出した場合、日付は『当日』ですが、それでも違法になる可能性が高い。早朝4時はギリギリグレーといったところでしょうか。たかがゴミ出しでもルールを破れば、立派な犯罪になります」(前出・荘司氏)

過去に兵庫県では指定された回収日時以外に何度もゴミ出しをした主婦ら3人に対し、3万~5万円の罰金刑を科したという判例がある。

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■盗まれた自分の自転車を発見したので、勝手に持って帰った

自分の物を自分で持って帰っただけなのに、罪になる?

なんとも理不尽な話だが、みらい総合法律事務所の谷原誠弁護士は「たまたま道端や駐輪場で、盗まれた自分の自転車を見つけて、持って帰ると罪に問われる場合がある」と言う。

「盗まれた自転車が第三者に売られている場合もあるので、無断で持ち帰ると窃盗罪あるいは遺失物横領罪になる可能性があります。

つまり盗まれたものであっても所有権や占有権が自分から他人に移っているならば、勝手に持ち帰ってはいけないのです」

盗まれてすぐなら占有権が移っていないと評価され、罪に問われないケースもあるが、基本的には警察に連絡し対処してもらうのが賢明だ。

偽名を作って宿泊は?

■自動販売機でジュースを買ったら1本多く出てきたので、持ち帰った

窃盗もしくは占有離脱物横領になる。もし業者に被害届を出されれば、罪に問われる可能性があるという。

「2本出てきたら、軽い気持ちでもらってしまうかもしれませんが、自動販売機の管理者は誤って出てきた2本目の飲み物を『もらっていい』とは認めてはいません。それを無断で持ち去ることは管理者の意思に反するので、厳密に言えば罪になります」(前出・谷原氏)

では、実際に誤作動で2本出てきたときはどうすればいいのか。

「放置するか、面倒臭いですが、業者に連絡する、遺失物として警察に届け出るのが正しい対処法になります。取り出し口に放置されていた商品を持って帰るのもやめましょう」(谷原氏)

ちなみにゴルフ場で「ロストボール」を持って帰るのも厳密にはアウトだ。ボールの所有権はゴルフ場にあるので窃盗あるいは遺失物横領罪になる可能性がある。

過去には15年もの間、ゴルフ場の池に潜りロストボールを盗んでは、ショップに卸していた男が岐阜県警に逮捕された例もある。逮捕されたとき、男は1376個のボールを池から拾い上げ、台車で車に運び入れるところだった。

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■駅や飲食店のコンセントを使用し、無断で携帯の充電をする

ついうっかりやってしまう人もいるが、これは「電気窃盗」と呼ばれる立派な犯罪だ。

実際、アパートの廊下にある共用コンセントを勝手に使い、自宅でテレビを見ていた男に、大阪地裁は懲役1年、執行猶予3年の判決を下している。

また、女子高生が、メール操作中に携帯電話の電源が切れたため、駅ビル通路のコンセントで携帯電話を無断で30分充電し、検挙された事例もある(被害額は3銭)。

「法律上、電気は財物として扱われるので、勝手に使うと窃盗になります。『短時間だから大丈夫だろう』というのは通用しません」(前出・谷原氏)

■ホテルの備品を持ち帰るのはどこまでOK?

ホテルや旅館の洗面所に用意されている石けん、歯ブラシ、かみそりなどのアメニティグッズは問題ないが、バスタオルを持ち帰るのは犯罪になる。

「ホテルの室内にあるものはすべて料金に含まれていると勘違いしている人がいますがそれは間違いです。

シャンプーやボディソープもミニサイズの使い切りのものは持ち帰っても大丈夫ですが、大型ボトルで中身を補充して継続的に使っているものを持ち帰れば窃盗になる。

スリッパは紙製の使い捨てなら問題ないが、繰りかえし使うことが前提のものはダメです。

備品の窃盗や部屋の器物損壊に備えて、ホテルや旅館では宿泊時に住所氏名を書かせますが、ここで偽名や虚偽の住所を書くと『旅館業法違反』になります。かつてオウム真理教信者が、これで別件逮捕されました」(前出・荘司氏)

不倫旅行の際、偽名を書くのは要注意ということだ。

他人の子供を叱ったら

■病院で医師に処方された薬を、家族や友人にあげる

「これは絶対にしてはいけません。市販薬なら何の問題もありませんが、病院で処方された薬を第三者(家族を含む)に渡せば、薬機法違反になります」(前出・荘司氏)

薬機法24条には「医師や薬剤師など許可を得た者でなければ、薬の販売、授与をしてはならない」と定められている。自分が病院でもらった風邪薬を、余ったからといって家族にあげると罪になる可能性があるのだ。

「医師は患者の性別、年齢、体重、アレルギーの有無などを考慮して薬を処方しています。もし違う人が飲んで、体調に異変をきたしたり、アナフィラキシーショックを起こして死亡したりした場合、傷害や傷害致死になるので注意してください」(荘司氏)

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■自宅で嫁や娘の風呂をのぞく

実際に刑事事件になる可能性は低いが、軽犯罪法1条23号により、正当な理由がなく人の住居、浴場、更衣場、便所などをのぞくことは禁止されている。

「家族でも『他人』である以上、犯罪になりうると思います。たとえば完全に夫婦関係が冷め切っているのに妻の入浴をのぞいたり、成人した娘が嫌がっているのに何度も風呂の扉を開けたりすれば、父親であっても通報されるかもしれません」(前出・谷原氏)

■他人の子供を大声で叱る

「状況によりますが、生命身体に対する危害の告知をすれば脅迫罪、近隣に迷惑をかけるほどであれば軽犯罪法が適用される可能性はあります。

『殴るぞ』『殺すぞ』など子供を畏怖させるに足る程度の言葉は、脅迫罪になります」(前出・谷原氏)

一方で「ボケ」「クソガキ」くらいは単なる悪口なので、法律上罰せられることはないというが、土下座をさせるのは強要罪となる。

■酔っ払ってタクシーに乗り、嘔吐する

「故意にやれば業務妨害罪になる場合もあるでしょうが、通常、故意ではないと思うので、犯罪ではなく、民事で損害賠償の問題になります」(前出・谷原氏)

賠償額は状況により変化する。座席や車内の清掃だけなら実費で2万円程度あれば充分だが、車内を汚されたことでその日は営業ができなくなるため、本来なら稼げたはずの利益まで賠償を求められる場合もある。

「これは『逸失利益』と呼ばれるものです。地方と都会では当然異なるし、同じ都会でも平日と週末では売り上げが異なるため、賠償しなければならない金額も変わる。

その意味では週末や年末などの繁忙期、深夜でなく夕方の早い時刻に汚してしまうと賠償額が上昇する可能性があります」(前出・荘司氏)

賠償金を払わないと最悪の場合、裁判沙汰になることもある。

■住所不定で定職に就かずフラフラする

軽犯罪法1条4号「働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」に該当する可能性がある。

にわかには信じがたい罪だが、'12年には実際に、深夜の国道をうろついていた石川県出身の54歳の男性が「浮浪」の容疑で、奈良県警に現行犯逮捕されている。

その一方で「職権乱用だ」「ホームレスはどうすればいいのか」という声もある。あの山下清もへたをすれば、逮捕されていたかもしれない。

出頭したら損をする

■家族に届いた手紙を無断で開封する

たとえ家族でも封書を勝手に開封して中を見れば「信書開封罪」(刑法133条)に問われかねない。

「離婚調停が進んでいて、暫定的にやむをえず同居しているようなケースだと処罰される可能性があります。相手が依頼している弁護士から来た手紙を勝手に読むのが、典型的な例です」(前出・荘司氏)

■行列に割り込むと捕まる。「すいません」と恐縮しながらならOK?

飲食店やチケット販売、電車やバスの行列などに、乱暴な言葉を吐いて強引に割り込むのは、軽犯罪法1条13号「公共の場所において多数の人に対して著しく粗野な言動で迷惑をかける行為」に当たるという。

「強引に行列に割り込み、順番を抜かすのは、れっきとした犯罪です。注意したために逆ギレされて、傷害事件に発展することもよくある。基本的に公共の場で声を荒らげ、乱暴な振る舞いをすると逮捕されます」(前出・荘司氏)

では、どうしてもトイレが我慢できず「すいません、すいません」と恐縮しながら、列の先頭に入れてもらうのはどうか。

「列に並んでいる全員が許可すれば問題はありません。ただし、一人でも納得しない人がいて、その人が通報した場合は、軽犯罪法違反になる可能性はある」(荘司氏)

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■緑服の駐車監視員に、放置駐車違反のステッカーを貼られ、後日「放置違反金」(1万5000円)の納付書が送られてきたが、払わず放っておいた

「『放置違反金』を払わないと最悪の場合、車や給料を差し押さえられる可能性もある」(交通ジャーナリストの今井亮一氏)

ただし、納得いかないからと警察に文句を言おうと出頭すると、思わぬ損をするという。

「放置違反金はナンバーから判明した車両の持ち主に直接送られるので、警察は誰が違反したのか知りません。

それを知らずに警察に行くと、罰金プラス違反キップまで切られてしまうのです。余計なことをしたばかりに違反点数まで加算されるのです」(今井氏)

そうとは知らずに出頭して違反キップを切られる人は約2割もいる('15年のデータ)。警察には行かず、素直に違反金を振り込むのがいちばん賢い。

軽犯罪といえども犯罪は犯罪。「知らなかった」では済まされないし、前科持ちになることもある。日常生活の思わぬところにこそ「落とし穴」は潜んでいる。

「週刊現代」2018年2月17日・24日合併号より