■スイスフランの取引金額は全体のわずか1.5%程度
もう1つ言えば、2015年1月15日のスイスショックは、その名のとおり、当事国はスイス。為替で言えばスイスフランが相場を主導した。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 日足)
一方、2011年3月の東日本大震災の時は、日本が当事国であり、相場を大きく動かしたのは円だった。
【参考記事】
●米ドル/円の歴史的安値、79.75円は阪神・淡路大震災の3ヵ月後にやってきた
(出所:米国FXCM)
そこで、確認しておきたいのが、その当時の、日本の店頭FXでのスイスフランと円の取引金額ということになる。
以下は、2015年1月の店頭FXの取引金額から、スイスフラン絡みの通貨ペアだけを抜き出したものだ。
(出所:金融先物取引業協会)
これを見ると、2015年1月に1億円以上の取引があるスイスフラン絡みの通貨ペアは10通貨ペアある。その取引金額は合計で10兆円ほどだ。
2015年1月の店頭FXの取引金額が全体で661兆円なので、そこから算出すると、スイスフラン絡みの通貨ペアが取引金額に占める割合はわずか1.5%程度だ。
2014年12月のスイスフラン絡みの通貨ペアが店頭FX全体の取引金額に占める割合は0.2%程度だったので、2015年1月のスイスフラン絡みの通貨ペアはシェアが確かに増えているのだが、それでも、店頭FXの取引金額全体に比べると、わずかな数字となっている。
【参考記事】
●535兆円!店頭FX取引の83%はドル/円。大騒ぎスイスフランの取引量は0.2%だけ!
一方、以下の表は2011年3月の店頭FXの取引金額から円絡みの通貨ペアを抜き出したものだ。
(出所:金融先物取引業協会)
これを見ると、1億円以上の取引がある円絡みの通貨ペアは16通貨ペアあり、その取引金額は148兆円ほど。そして、先ほど紹介したとおり、2011年3月の店頭FX全体の取引高が177兆円ということだから、そこから算出すると、全体に占める割合は8割強となっている。当然ながら、円絡みの通貨ペアはたくさん取引されているというわけだ。
2015年1月のスイスショックでは、未収金の発生件数が2011年3月の東日本大震災のときを大きく下回ったものの、発生金額は上回っていた。
これは、先ほど紹介したように日本の店頭FXの市場規模が拡大したということもあるが、加えて、スイスフランを売買するトレーダーが少ない一方で、ポジションを保有していたトレーダーはかなり大きな損失を被ったということを示している。
「1.20フランの防衛ラインを死守する」というSNBの宣言を信じて、1.20フラン近くでユーロ/スイスフランを買い、少し上がったら売るというトレードを繰り返していた少数のトレーダーが、SNBの“裏切り”によって、大きな損失を被った姿が浮かび上がってくるようだ。
【参考記事】
●スイスショックで借金の悲劇!個人投資家を直撃、裁判への動きも…
■海外業者と比べて日本のFX会社の影響は軽微?
では、スイスショックにより、日本の店頭FXで発生した未収金の件数や金額は、海外と比べるとどうなのだろうか?
今回のスイスショック、海外の状況で何と言っても衝撃だったのは、英国のアルパリ(UK) Limitedの破綻だろう。これを受けて、日本法人であるアルパリジャパンも新規口座開設、入金、取引は停止。保有ポジションについては強制決済するという事態になった。
【参考記事】
●スイスショックでアルパリUKが破綻!スイスフラン大暴騰で損失をカバーできず
また、破綻まではいかなくても、英国を本拠とするIGグループの傘下で、スプレッド・ベッティング業務を行っているIG indexが3000万ポンド(1英ポンド=184円換算で55億2000万円)、米FXCMも顧客が有効証拠金を上回って損失になった額が2億2500万ドル(1米ドル=119円換算で267億7500万円)に達したことを明らかにした。
さらに、サクソバンクがグループとして被る可能性がある最大損失額は、「1.07億米ドル(1米ドル=119円換算で127億3300万円)になる見込み」であることが発表されている。
【参考記事】
●最大損失、約126億円!? 約定状況公開!スイスショック絡みのFX会社情報総まとめ
なお、これら3社のグループには、IG証券、FXCMジャパン証券、サクソバンクFX証券という日本法人があり、日本でもFXサービスを展開しているが、FXCMジャパン証券、サクソバンクFX証券はウェブサイト上で、同社の財務基盤に影響はないとのリリースを出している。
また、IG証券も、親会社のIGグループが、2015年上期の中間決算の際に、「今回のスイスフラン問題に関連する顧客の負債によってダメージを受けることが予想されるものの、現時点では依然として今期の収益目標を達成する見込み」とのコメントを出している。
一方、日本に目を向けると、2015年1月16日(金)の段階で、マネックスグループが約1億6000万円の未収金があると発表。さらに、未収金のうち日本国内の顧客分は百数十万円程度だったと公表している。また、GMOクリック証券も約1億1000万円の未収金があることを明らかにしていた。
以下は、ここまで紹介してきた、海外と国内のFX会社における未収金額をまとめたものだ。
※米ドルは1ドル=119円、英ポンドは1英ポンド=184円で計算
こうして海外と日本の会社を比較して見ると、海外では1社で100億円以上の損失を被った会社が複数ある一方、日本の店頭FXは、個人・法人合わせて、損失は全体で約34億円に止まっている。
海外のFX会社と比べると、日本のFX会社が被ったスイスショックの影響はかなり小さかったと言えそうだ。
(ザイFX!編集部・庄司正高)