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世界最古の洞窟壁画、現生人類より前と判明 その衝撃

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/3/10

ナショナルジオグラフィック日本版

スペインの洞窟の壁に、赤い縦線と横線からなるはしごのような絵が描かれているのが見つかった。6万4000年以上前のものと推定され、作者はネアンデルタール人と考えられる(PHOTOGRAPH BY P. SAURA)

 ピカソの祖国スペインには、はるか昔から革新的な芸術家がいて、貝殻のビーズを作り、洞窟壁画を描いていたようだ。驚くべきは、彼らが現生人類(ホモ・サピエンス)ではなく、ネアンデルタール人だったらしいことだ。

 2018年2月22日に学術誌『サイエンス』と『サイエンス・アドバンシズ』に発表された2つの論文によると、スペインの3カ所の洞窟で見つかった10点以上の洞窟壁画は6万5000年以上前のもの、またスペイン南東部の洞窟クエバ・デ・ロス・アビオネスで見つかった貝殻ビーズと顔料は11万5000年以上前のものであるという。

赤いはしご部分のクローズアップ(PHOTOGRAPH BY C.D STANDISH、A.W.G. PIKE AND D.L. HOFFMAN)

 これらはともに、現生人類であるホモ・サピエンスが最初にヨーロッパに到達する以前の最古のアート作品である。つまり、作者はホモ・サピエンスではないということだ。

 「アビオネスで発見された貝殻ビーズは、世界でこれまでに見つかっている装飾品の中で最古のものです」と、論文共著者でスペイン、バルセロナ大学の考古学者であるジョアン・シルホン氏は言う。「アフリカ大陸で似たようなものが制作されたのは2万~4万年後です。これらはネアンデルタール人が作ったものなのです」

 従来、ネアンデルタール人には粗野で頭が鈍いイメージがあったが、実はホモ・サピエンスと同等の認知能力をもっていたと、研究チームは主張する。彼らの見方が正しいなら、今回の発見は、アート作品を作ることにつながる才能が約50万年前、つまりホモ・サピエンスとネアンデルタール人の共通祖先まで遡れることを意味しているのかもしれない。

 米ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス氏は、「ネアンデルタール人は、現生人類と共通の文化的能力を持っていたようです」と言う。「彼らは知性のない無法者ではなく、分別ある人間だったのです」

■「愚かなヒト」ではなかった

 1856年、ドイツのネアンデル谷で、石灰石の採石場の労働者が変形した人骨のようなものを見つけた。当時の科学者はこの骨を、がっしりした胸をもつ、それまで知られていなかった人類「ホモ・ネアンデルターレンシス」のものであるとした。

 当初、ネアンデルタール人は脳よりも筋肉が発達しているタイプであると考えられ、ある科学者などは「ホモ・サピエンス(賢いヒト)」との対比で「ホモ・ステューピドゥス(愚かなヒト)」と命名するべきだと主張していた。けれども1950年代以降、専門家の間では、ネアンデルタール人の見方が大きく変わった。彼らが心を込めて死者を葬り、石器を作り、薬草を利用していたことがわかってきたからだ。

 
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